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じじ馬鹿炸裂

「まさか影井が負けるとはな」

「?!」


いきなりの第3者の声に舞の身体に緊張が走る。


「やはり目を付けておいて正解だったな」

「この女はもう動けない」

「誰?!」


舞は片膝を立てて周囲を警戒する。


すると――今までどこに潜んでいたのか、建物の影という影からぞろぞろと武装した者たちが溢れてきた。


「なっ……!」


 数にして20人余り。それだけの数の人間が舞に武器を向けながらゆっくりと近づいてくる。


「どういうこと?! アンタたちどこの組織よ!?」


 舞は気力を振り絞って声を出す。


「その質問に答える必要はないね。君はこれから死ぬんだ」


 舞の眼前に銃を突きつけた眼鏡の男が代表してそう答えた。


「くっ……!」


 影井との戦いで舞の体力は限界を超えている。ナイフは砕け、弾もない。もう立つこともできない。



――死。



 それは突如、舞の目の前に現実として現れた。


(ちくしょう……)


 舞の瞳に涙が滲む。


(やっと決着をつけられたのに! こんな訳のわからない連中に殺されるなんて……!)


「さようなら、園神舞さん。恨むなら貴方の強さを恨んでください」


 そう言って眼鏡の男は引き金を引いた。



パァン……!!



「……!?」


 舞は突然の浮遊感に目を見開いた。舞の身体はもう動かないはずだ。それなのに今、舞は宙を舞っていった。


「え……」

「これ舞や。いつまで呆けておる」

「!?」


 この飄々とした物言い――思い当たる人物は1人しかいない。

 舞は顔を上げた。


「おじい様!!」


 そこには舞が思い描いた通りの人物がいた。そう、舞の祖父だ。グレーのスーツに蝶ネクタイ。相変わらず緊張感のない恰好をしいている。



スタッ!!



 舞の祖父は20人以上の人の上を飛び越え、見事に着地した。


「なんだっ!?」

「消えた?!」

「どこに!」

「おい後ろだ!!」

「何だと!?」


 急に標的を見失った敵たちが慌てだし、周囲を探る。そして、ようやく自分たちの後ろにいることに気付いた。


「やれやれ、気づくのが遅すぎる」

「おじい様、どうしてここに……」


 ため息をつく祖父に地面に降ろされながら、舞は問いかける。


「なに、ちょっと気になる情報を入手してね。念のために張っておいたのだよ」


 祖父は優しい笑みを舞に向けた。


「因縁の戦いに決着は着いただろう? 舞は休んでいなさい。いいね?」


 有無を言わせないようにそう言うと、祖父は舞を背に庇い、敵の前に立ち塞がった。


「さて。黙ってかわいい孫を殺らせるわけにはいかないのでね。この老いぼれ、少々出しゃばらせてもらうよ?」


 糸のように細かった目が開き、銀色の眼が姿を現す。


「あ、あなたは…」


 舞を撃とうとした眼鏡の男が震えだす。



――かつて、戦争の真っただ中、最前線で戦い続ける男がいた。銀色の眼を光らせて銃弾の雨を潜り抜け、一切の迷いも狂いも慈悲もなく、敵を殺し続けた。

 その者の名は――園神玄造そのかみ げんぞう。舞の祖父、その人である。



 フッと玄造の姿が消える。


「!」


 一瞬で眼鏡の男の背後まで移動し、銃を持った右手を捻りあげ銃を奪う。そして、それを使って容赦なく眼鏡男の米神をぶち抜いた。


 辺りに沈黙が流れる。


「どうした? 殺し合いはすでに始まっておるよ?」


 銀色の瞳に殺気を宿しながら、玄造はうっそりと微笑んでみせる。


「ひっ!」


その笑みに1人の男が恐怖に引き攣った声を出した。瞬間、額を撃ち抜かれる。


「いかんね。恐怖――それは「死」を意味する」

「こっこのじじいいいいいいいい!!!」


 ようやく事態を理解したのか、殺された男たちの仲間が動き出す。



ダダダダダダダダダ!!!



 敵の機関銃が火を噴く。


 しかし、右へ左へ上へ後ろへ瞬間移動のように移動する玄造には当たらない。弾を避けながら、玄造は銃を撃つ。それは全弾敵の急所に吸い込まれていった。弾切れになったそれを投げ捨て、接近戦に移行する。


 再びフッと姿を消すと、突如現れ敵の側頭部に鋭い蹴りを入れる。そして、流れるような仕草で懐に隠し持っていたナイフを奪った。


「フム……」


 玄造はナイフの刃に一瞥すると眉を顰めた。


「いかんね。メンテナンスを怠っては。刃こぼれしておる」


 そう言いながら、敵の手首を簡単に切断した。達人が使えばどんな鈍らも一級品に姿を変える。


「さて、これで終いにしようか」


 玄造はぐっと腰を低くし構える。そして、敵の間を風のように走り抜けながら的確に急所を切り裂いていく。

 ものの数分で20人余りいた敵は0になってしまった。


「ふぅ、まだまだ若い」


 そう言って玄造はナイフに付いた血を払った。






「おじい様、気になる情報って何だったの?」


 一方的な戦いを見ていた舞は返り血ひとつ浴びずに戻ってきた玄造にそう問いかけた。


「まったく労いの言葉もなしか。じい様は悲しいぞ」

「茶化さないで!!」

「ふむ、そうだな」


 玄造は舞の前に膝をつくと、舞の怪我の応急手当を始めた。


「すべては仕組まれておったのだよ」

「え?」

「お前が影井について長年探っていたことは気づいておった。――わし以外もな」

「!!」

「前に言っただろう。警戒が足りんと。お前と影井がぶつかるように今回の仕事は仕組まれておったのだよ」

「そんな!! 何のために?!」


 驚愕の事実に舞は声を張り上げる。


「強すぎる力は時として恐れられる。お前たちの力を恐れた組織が手を組んだのだ」

「アタシなんて……」

「若い目は早めに摘んでおく。よくあることだ」

「……」


 舞は口を紡ぐ。何も言えなかった。

 そんな舞を見て、玄造は静かに語り始める。


「人は何によって結びつくのか。――権力、金、カリスマ性……。どれかなのか、どれもなのか、それ以外なのか。わしにも分からん。わしの部下たちは損得関係なしにわしを慕ってくれておる。わしの孫ということでお前もな、舞。だが、それがいつまでつづくか分からん。こんな世界だ」

「……」

「わしもいつまで生きられるか……。お前のことを想うと不安でならんよ」


 玄造は真っ直ぐに舞を見つめる。


「やはりわしは、お前にこの道にいて欲しくない。――今のお前なら、殺し屋以外の道も考えられるだろう?」

「……」


 舞は拓斗のことを思い出す。たった1週間と少しの付き合いだったがどれも新鮮でとても楽しかった。


「これで良し」


 玄造が舞の応急手当を終える。


「もう少しでわしの部下たちが来る。それまで休んでおれ」





玄造の部下のものと思われる車のエンジン音が響いてきた頃、舞は徐に口を開いた。


「ねえ、おじい様」

「ん?」


 玄造は舞に視線を向ける。舞は地面を見たままだ。


「アタシ、ずっと気になっていたことがあるの」

「何だ?」

「アタシが弾を落として、それを拓斗が拾ったことなんだけど」

「……」

「やっぱり、どう考えてもそんなミスしないわ。仮にしたとしても落ちた音で気づくわよ」


「……」

「ねえ、おじい様?」

「うん?」


 ここでようやく舞は玄造に顔を向けた。



「あれは、おじい様がアタシを学校に行かせるためにわざと――」


 舞の問いに玄造はただ微笑んだだけで何も言わなかった。




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