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園芸部



自分の部屋についた愛子はもらった資料に目を通した。ターゲットの名前は大槻 おおつきあつし高校一年生。依頼主との関係、血の繋がった親子。現在東京の学校に通っている。一人暮らしである。



「ん?大槻敦ってたしか、うちの学校にいたような……」

資料の顔写真を確認した。

「あ、見たことある。なんだ。楽勝じゃん」


殺しの期間は五月中。あと約半年。この半年の間にターゲットを調べ、殺す準備をすればいいだけ。報酬額五百万。

次の日愛子はさっそく大槻敦を探した。案外簡単に見つかった。敦は隣のクラスだった。柔らかい雰囲気をもった高校生の男の子。

「あと半年の命か……」



愛子は仕事として割りきり、大槻敦のことはもうターゲットとしてしか見られなくなった。

ターゲットを殺害するには様々な準備がいるが一番考えなければならないことは「どうやって殺害したことを隠蔽するか」である。

その点でも、この依頼はベリーイージーである。仲良くなり、二人きりになったときに密室か、どこか人気のないところで殺せばいいだけである。


「さて、適当に仲良くなって、キレイに殺しますか」

大槻敦は園芸部に入っていた。なので、愛子も同じ部活に入ることにした。



  ***



「一年B組 山中愛子です。よろしくお願いします」

温かい拍手につつまれ愛子は園芸部に入部した。部員は少なかった。二年の幽霊部員兼部長。副部長。そして一年の大槻と愛子である。


「山中さん。よろしく。俺大槻」

「よろしくね」

ニコッと柔らかい笑顔で愛子は返した。

「今日は部長と副部長も来てるけど、たいてい部室にいるのは俺だけなんだ。だから、山中さんが入部してくれて嬉しいよ」

大槻敦は見たまんま喋った声も優しかった。入って三日目の放課後せっかくだから種まきしよう。と大槻が提案した。大槻の後ろにくっついて愛子は種うえの様子を見ていた。園芸部に与えられた花壇はぼちぼち広かった。



「今は冬だから、あんまり花はないんだけど、春になったらすごいよ」

「そうなんだ」

今まで同世代とまともに接触したことがなかった愛子はいまいち会話の盛り上げ方が分からなかった。そんな愛子を見て大槻は優しく手招きする。

「これ、もってみ?」

「うん?種?」

「そうだよ。これをこの掘った穴に入れて」

「こ…こう?」

「そうそう。それで優しく土を被せてあげて」

「う、うん」

「そうそう。それでいい」

「これでおしまい?」

「あとは、毎日世話してあげるんだ。花ってさ。ちゃんと愛情注いであげたら、それに応えてくれるんだよ」


「……愛情」


愛子にとって愛情がよく分からなかった。父と母には感謝しているし、尊敬だってしている。殺し屋だって立派な仕事だ。じゃないと私たちは食べていけないのだから。私に殺し屋としての技術、生き方、考え方。その全てを教えてくれたことに感謝している。ただ、愛情というものはまだよく分からなかった。愛子は親に誉めてもらったことが一度もない。一つの技術を収得しても学ばなければならないことは、まだまだ山のようにあるからだ。


「あのとき、こうしておけばよかった」などと殺し屋は後悔することさえ、許されないのだから。下校の時刻となった。校門付近が帰りの生徒で賑やかになる。



「なんか食ってく?」

「え、あ、はい。」

チャンスだと思った。御飯を一緒に食べると仲が一気に縮まりやすいからだ。

「お腹減ったなぁー」

大槻は大きく伸びをし、あくびをかいた。

「……なに食べるの?」

「んー。じゃラーメン食べよっか。学校のすぐそばに南国ってめっちゃおいしいラーメン屋があんだよ」

「…そこのラーメン私も好きだよ。」

「おぉ!気があうねぇ。じゃ決定ね」


南国はいつも通り賑わっていた。カウンターに通される。

「おっ!あつし君!彼女かい?」

「違う違う。友達」

「なーんだ。友達か」

「うるせぇや」

大槻はこの店の常連客で店長と仲がよかった。南国ラーメンはいつも通りおいしかった。髪の毛を耳にかけ麺をすする。



……友達か。

どうやら大槻敦の中では、私はすでに友達認定されているらしい。嬉しい誤算だ。このままだったら楽に殺すことが出来そうだ。

「店長ごちそっさん」

「おう。また来いよな!」

「ご馳走さまでした」

「おう。お嬢ちゃんもまた来てな」


外はすっかり暗くなっていた。寒い夜風が二人に吹き付ける。

「うわっ。さぶ」

「…せっかく温まったのにねぇ」

「ほんとそれ」

いつもより体を小さく丸める。

「これ。つけときな」

大槻敦は自分の首に巻いていたマフラーを愛子に巻く。

「うわ。ガバガバじゃん。山中さんってやっぱ小さいんだね」

と大槻敦は笑顔で言った。


「あ、え、でも、悪いよ。大槻君が寒くなるじゃん」

「いーの。明日もってきてね」

「……うん。ありがと」

マフラーからは男の子の匂いがした。十二月。気づけば雪が降り始めた。

「おおっ。初雪」

大槻敦は、白い息を吐いてはしゃいだ。街灯の光に照らされて舞い散る雪。

「キレイ……」

愛子も白い息とともに言葉を漏らした。



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