殺し屋さん
女子高生の愛子にはもう一つの顔があった。それは人殺しだ。
愛子の家系はだいだい殺し屋を生業としており、愛子もそれを引き継ぐことになっている。両親は厳しく躾け愛子は立派な殺し屋になった。愛子は中学卒業の日初めて仕事で人を殺した。仕事とはいえ人を殺してしまった。しかしそのことに対して罪悪感を抱くことはなかった。そう教育されてきた。そうじゃないと心がもたないからである。殺し屋の世界は非常に厳しい。
そしていくつかのルールがあった。
・依頼主と契約を交わした時点で、途中で降りることは許されない。もし任務を遂行出来ないと判断された場合、ほかの殺し屋に消される。
・半年に一人しか殺してはいけない
・殺し屋は一般人に正体を知られてはいけない
・殺人を行ったことを、知られてはいけない
他に細かい契約は依頼主との間で行われる。殺し屋と依頼主を結ぶギルドというところから依頼が申請され殺し屋がギルドに承認してようやく依頼主と殺し屋は直接顔を合わすことが出来るのだ。
高校一年 冬
愛子は誰も友達を作らなかった。殺し屋とは基本天涯孤独。結婚は殺し屋同士しか認められていない。愛子は今日も教室の端の自分の席で読書をしていた。同世代の子供たちの遊びは楽しそうだった。でもそれは自分には関係のないことだ。深入りするときっと悲しくなってしまう。そういう人生なのだ。
家に帰ってパソコンをチェックする。ギルドからの依頼を確認する。これは毎日の日課だ。そこから自分のクリア出来そうな殺しの依頼を探す。殺し屋にもレベルがあり、初心者の殺し屋が大物を狙うことは出来ないようになっている。危険を伴う上、失敗し未来の殺し屋の生命が奪われるくらいなら大切に育てていこうというこの業界の方針なのである。ギルドから紹介された内容を見るとターゲットは高校生だった。つまり楽勝である。愛子はこの依頼を受けた。
日曜日。依頼主と顔を合わせる。
依頼主は神奈川に住んでいたので、東京住みの愛子は電車で向かう。駅前の喫茶店で落ち合った。
「こんにちは」
喫茶店で先にコーヒーを飲んでいた男はスーツ姿で、腕に高そうな時計をしていた。
「……こんにちは」
「驚いたなぁ。こんな小さな殺し屋さんもいるんだな。しかも女の子。出来るのかい?」
「依頼を完璧にこなすことが、私の仕事ですから」
「そうかそうか」
男は大きく笑った。
「まぁ、今回のターゲットは高校生だ。難しいことはない。正直訓練されてない一般人でも余裕で殺せる。ただ、公にされたくない。だからギルドに依頼しただけなんだ。だから安心したまえ」
「はい」
愛子は熱いコーヒーをすする。必要な資料を依頼主から受け取り、愛子は喫茶店をあとにした。契約完了である。