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窓の外が仄かに明るみを帯び始め、朝の気配がグリフスの街に漂い始める。
ビルギットは、太陽の気配を身体で感じ取り、寝台に寝かせていた身体を、上体からゆっくりと起こす。
「――おはようございます! ビルギット様」
ビルギットの側に立ち、溌剌とした声と共にぺこりと頭を下げる女性。質素な小間使いの服に身を包む彼女は、昨夜からビルギットに同行している『見届け人』のリーシャであった。寝起きでわずかに髪に癖のあるビルギットと違い、身なりがきっちり整えられている。
「……いつから起きていたの」
声に呆れに近い何かを宿しながらビルギットが問う。
「1ロット(約1時間)ほど前からです」
はぁ、とビルギットがため息をつく。
「私、昨日あんたに『しっかり寝ておけ』って言わなかったっけ」
起き上がり、少し伸びをしてから、調子を確かめるように身体を動かし始めるビルギット。
「もちろん、ちゃんと寝ました! 城では夜遅くに寝て朝早くに起きる生活だったので、これぐらいへっちゃらです。起きている内に外出の準備を整えておきましたのでご安心を」
「まぁ今日はいいけど、次からは寝られる時にちゃんと寝ておいてよ。体力勝負なんだから」
「はい!」
ビルギットはやれやれといった様子で起床後の運動を済ませ、窓から天気を窺う。雲が少なく、青空が目に飛び込んでくる良い空であり、一先ずの幸先の良さを感じた。
「じゃあ、昨日も言ったけど、今日明日は準備に使うわよ。街を行ったり来たりしなきゃいけないから、ちゃんと付いてきて」
「はい!」
「その前に朝の食事だけどね」
「はい!」
リーシャの返事はとにかく明るく元気なもので、とても命の刻限の迫る人間には見えない。ビルギットは、彼女のその明るさのせいで脳裏に『忠犬』という言葉がよぎっていた。そう、彼女は確かに、すごい忠誠心があるのだ。
ビルギットは、昨夜のことを――皇女シヴルカーナと対面したことを――思い出す。