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天使ちゃん「てへっ」~僕らをチートステで転生させてくれる純心天使には”素敵”な計画があるそうです。〜  作者: 奥沢ルーザー


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3/3

ギャンブラー君を救いたい。

ブーッ、ブーッ……。


鳴り止まない督促電話のバイブレーションだけが、魂の抜け殻となった男をこの世に繋ぎ止める唯一の鎖だった。


荒木駿あらき しゅん、29歳。 深夜の寂れた歩道橋の上、覇気のない瞳で濁った川面を見つめていた。


もともと、彼にこれといった趣味はなかった。

やりたいことも、情熱を注げる対象もない。

ただ、空っぽの心を埋めるために手を染めたギャンブルが、気づけば人生のすべてを飲み込んでいた。


「……終わった」


ポケットの中には、クシャクシャになったハズレ舟券が一枚。

消費者金融からの督促電話は、もはやマナーモードにする気力すら奪うほど鳴り響いていた。


最初はただの暇つぶしだった。 ビギナーズラックで手にした数万円が、脳を焼き切った。

負けを取り返そうと熱くなるたび、沼は深く、暗くなっていく。


友人、親の信頼、職、そして最後には自分への尊厳。すべてを賭けて、すべてを失った。


彼は手すりに足をかけた。 夜風が冷たく、彼のボロボロのジャンパーを揺らす。


「もし、もう一度だけやり直せるなら――」


そんな、ギャンブラー特有の、根拠のない「もしも」を抱きながら、彼は身を投げようとした。


その瞬間だった。


「はいっ! その『もしも』天界の特等席からバッチリ聞き入れましたぁぁぁ!!」


「……え?」


鼓膜を突き破るような超高音の明るい声。 直後、深夜の歩道橋は、太陽をそのまま持ち込んだかのような、目に痛いほどの黄金の光に包まれた。


「うわあああっ!? ま、眩しいっ!」


駿が腕で顔を覆うと、光の中からふわりと一人の少女が舞い降りてきた。 純白の翼を羽ばたかせ、頭上にはキラキラと輝く金の輪。 へたくそなウィンクを決める美少女。


「こんにちは! 運を使い果たしてどん底まで落ちちゃったあなたを救う、『転生師』の天使ちゃんですっ!」


「て、天使……? ついに脳がイカれたか」


「失礼ですねぇ! 幻覚じゃありませんっ! 駿さんの心が『助けて』って叫ぶ声、天界の私の耳までちゃーんと届きましたよ!」


天使ちゃんは駿の周りをくるくると飛び回ると、突然、ダムが決壊したかのように大粒の涙を流し始めた。


「ひどいです……! 何ですか、この『絶望の多重債務』は!日がたつほどに減るどころかますます増えていく借金……むご過ぎます!!どういう仕組みですか、これ!!??」


「いや、ただ俺が自堕落なだけで……」


「いいえ! 駿さんは悪くありません! 悪いのは、一度負けたら二度と這い上がれない、このキツキツでカチカチな社会の仕組みの方です! あなたはもっと、自分の才能を信じて、大逆転を謳歌すべきなんです!」


天使ちゃんは駿の目の前まで飛んでくると、その白く細い手で彼の手をギュッと握りしめた。


「駿さん。あなたを、この『負け確の人生』から卒業させてあげます。私のプロデュースする異世界で、最高にスリリングでハッピーな『セカンドライフ』を始めませんか?」


「異世界……。俺みたいな、運に見放された奴が行っても……」


「大丈夫です! 駿さんは、死ぬほど『確率』を愛していましたよね? その『勝負師の才能』、私がチート級に引き上げておきましたから! さあ、行きましょう! 全てがあなたの思い通りになる、輝かしい未来へ!」


天使ちゃんがキラキラと光る杖を振り下ろす。 駿の視界は、再び純白の光に飲み込まれていった。



次に駿が目を開けた時、そこは冷たいアスファルトの上ではなく、豪華絢爛なシャンデリアが輝くカジノのど真ん中だった。 周囲には見たこともない豪華な衣装を着た貴族たちや、筋骨隆々の冒険者たちが溢れている。


【通知:『転生師天使ちゃん』による特別加護『ギャンブラーへの福音』が適用されました】 【メインスキル:『万象確率操作オール・オア・ナッシング』】

【詳細:あなたの観測するあらゆる事象の確率を、任意に変更できます。あなたが『当たる』と確信した瞬間、確率は100%へと収束します】


「……マジかよ」


駿は、目の前のルーレット台に適当なチップを置いた。 確率は、38分の1。


(……当たれ)


そう念じた瞬間、ルーレットの球が物理法則を無視した急ブレーキをかけ、彼の選んだ数字に吸い込まれるように静止した。


「「「おおおおおっ!!」」」


場内がどよめく。一回、二回、十回……。


駿が賭けるたび、ディーラーの顔は青ざめ、チップの山は見たことのない高さに積み上がっていった。


「ははっ、これが『確変』ってやつか」


前世で彼を苦しめた「不運」という概念は、もはや存在しなかった。


そんな駿の前に、乱暴に引きずられていく一人の少女が現れた。

長くしなやかな耳を持つ、美しいエルフの少女だ。


「放して! お父様の借金は、必ず返しますから……!」


「黙れ! 返せないなら、その体で払ってもらうのがこのカジノのルールだ」


下卑た笑いを浮かべるのは、この街のカジノを支配するバロン・グリーシー。 彼は少女――リリアをオークションにかけようとしていた。


その光景を見た瞬間、駿の胸に熱い不快感が走った。


責任感から逃げ回っていた自分と、理不尽な借金に縛られる少女。

その姿が、かつての自分に重なって見えたのだ。


「おい。その娘の借金、俺が肩代わりしてやるよ」


駿の声に、場が静まり返る。


「ほう……。よそ者が威勢がいいな。だが、彼女の借金は金貨一万枚。いくら運がいいからといって、一朝一夕で払える額ではないぞ?」


「なら、ギャンブルで決めようぜ。俺が勝てば彼女は自由。負ければこのチップの山と……俺の『命』をくれてやる」


「いいだろう……。面白い」


グリーシーの口角が吊り上がる。 彼もまた、この世界の理を超える「力」を持つ者だった…


「勝負は、『一発勝負ルーレット』偶数に球が入ればお前の勝ち、奇数に球が入れば俺の勝ちだ。」

グリーシーが低い声が響く。


「このルーレットは0を含めて偶数が出る確率の方が高い、ずいぶんとなめられたものだな」


グリーシーは不敵に笑いながら、ルーレットを回した。


「知らないのか? このカジノのルーレットは、私のスキル『絶対盤面支配フィクサー』によって管理されている。私の許可なく『当たり』が出ることはないのだよ!」


盤面が異様な黒い霧に包まれる。 駿は冷ややかな目でそれを見つめ、自身のスキルを発動させた。


球は猛烈な勢いで回転し、グリーシーの魔力によって「ハズレ」の溝へ誘導される。


しかし、駿が「当たり」を念じた瞬間、球はガタガタと震えだし、空中にふわりと浮き上がった。


「な、なんだと? 球が浮いている!?」


グリーシーのスキルと、駿のスキルが衝突し、ルーレット盤の周囲で空間が歪み始める。 球は右へ、左へ、重力を無視して飛び回り、火花を散らした。 お互いの「確率」が相反した結果、因果律が崩壊し始めているのだ。


「ふふ、なるほど……お前も『力』の持ち主か……しかしまだ、扱いなれていないな?」


球は小刻みに揺れながらゆっくりと、グリーシーの勝利となる奇数を示すポケットへと着地した…………


と思われた。


駿の瞳に、かつてなかった強い光が宿る。



一瞬の間を置き球は偶数を示す黒のポケットへと動いた。



「……勝ちだ」


静寂の中、駿の声だけが響いた。


「「オオオオオオオオオオオオ!!」」

怒声にも似た歓声。


リリアは涙を流しながら、救世主となった駿に縋り付いた。


「どういうことだ??あり得ない!!」


「正直『力』はあんたの方が上だったよ、だから最初のポケットはお前に譲り、そこで一度お前の能力を終了させた。そして俺は即座にもう一度『力』を使い球の『運命』を変えた。驕り高ぶったお前はもう一度『力』を使うなんて発想には至らなかっただろうな」


現実世界では俺を地獄へといざなった『諦めの悪さ』が招いた勝利だった。



その様子を、天界の特等席で見守る天使ちゃん。


「ふふーん! さすが駿さん!持前の『諦めの悪さ』で大活躍です!!」


天使ちゃんはポップコーンを口に放り込みながら、楽しそうに足をバタつかせる。


「こーらー!! 天使ちゃん! またやり過ぎよ!」


背後から飛んできたのは、教育係の先輩天使。 彼女はモニターを見て、顔を引きつらせた。


「『万象確率操作』って何よ! 世界の物理法則がバグってるじゃない! 砂漠に雨が降ったり、火山から金貨が噴き出したりしたらどうするのよ!駿さんも駿さんで、『命』を簡単にベットし過ぎでしょ!どこまでギャンブラーなのよ!!」


「えー、いいじゃないですか。駿さんはあんなにヒーローしてて楽しそうですし。何より、彼が強くなればなるほど、私の『計画』も捗るんですから……」


「計画? 」


「てへっ、なーんにも! 駿さーん、どんどん稼いで、どんどん勢力を広げてくださいねっ!」


天使ちゃんは可愛く舌を出した。

手には3つのチェスの駒を大事そうに握っている。


異世界では、元ギャンブラーの青年が、自分を慕うエルフの少女の手を引き、次なる大勝負――いや、新たな人生の歩みを進めていた。


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