表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使ちゃん「てへっ」~僕らをチートステで転生させてくれる純心天使には”素敵”な計画があるそうです。〜  作者: 奥沢ルーザー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第2話:ニート君を救いたい。

その部屋には、季節がなかった。

締め切られたカーテン。外が昼なのか夜なのか、それすらもスマートフォンの時計を見なければ判別がつかない。六畳一間の空間を支配しているのは、画面越しのゲーム実況者の怒鳴り声と、積み上げられたコンビニ弁当の空き殻だけだった。

一ノ瀬海斗いちのせ かいと、24歳。

彼は今、人生の中の長い「夏休み」の真っ只中にいた。

「……また、負けた」

画面の中では、

『YOU LOSE』

の七文字が憎たらしく光っている。

オンラインゲームの世界ランキング。

唯一、自分が「強者」でいられる場所だったはずなのに、最近はそこでも勝てなくなっていた。

海斗がこの部屋に引きこもって、はや二年。

きっかけは、いわゆる「就活失敗」だった。

新卒一括採用というレール。一度でも足を踏み外せば、そこは奈落だ。

海斗は真面目だった。完璧主義が行き過ぎたがゆえに、すべてを先延ばし、行動を起こす事が出来なかった。

母親が買ってきたリクルートスーツは、一度も袖が通されることなくクローゼットに埋もれている。

「明日こそ、外に出よう。ハローワークに行こう……」

毎日、そう思う。だが、太陽が昇ると体が鉛のように重くなる。

「もし、外で知り合いに会ったら?」

「もし、また否定されたら?」

恐怖が肺を押しつぶし、呼吸が浅くなる。

彼は、自分が「怠けている」ことを誰よりも知っている。

その自責の念が、鋭いナイフのように一秒ごとに心を削っていく。

働いていない。稼いでいない。社会に何も還元していない。

自分は生きているだけでコストを消費する「ゴミ」ではないのか。

「……もう、消えちゃいたいな」

何気なく呟いたその言葉は、本気だった。

その瞬間。 部屋の空気が、パキリと凍りついた。

「――はいっ! そのご依頼、確かに承りましたぁぁぁ!!」

「うおっ!? な、なんだ!?」

突然、真っ暗な部屋が太陽を凝縮したような黄金の光に包まれた。

海斗は反射的に腕で目を覆う。

光が収まると、そこには浮遊する一人の少女がいた。

純白の翼。頭上に浮かぶ黄金の輪。そして、水色の髪をなびかせ、完璧な笑顔を浮かべた美少女。

「こんにちは! 頑張りすぎて疲れちゃった人の味方、天界のトップクリエイターこと『転生師』の天使ちゃんですっ!」

「て、天使……? 嘘だろ、ついに幻覚まで……」

「幻覚じゃありませんっ! 海斗さんの心が『助けて』って叫ぶ声、天界の私の耳までちゃーんと届きましたよ! ……それにしても……」

天使ちゃんは部屋を見渡すと、大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。

「ひどいです……! 何ですか、この『絶望のワンルーム』は! 栄養バランスの崩れた食事、日光を浴びない生活、そして何より……自分を責め続けるこの魂の悲鳴!むご過ぎます!ここには悪魔でも住んでるんですか!?」

「いや、ただ俺がダメなだけで……」

「いいえ! 海斗さんは悪くありません! 悪いのは、たった一度の失敗も許さない、このキツキツでカチカチな社会の方です! あなたはもっと、自由で、広い場所で、誰からも肯定されるべきなんです!」

天使ちゃんは海斗の目の前まで飛んでくると、その細い手で彼の手をギュッと握りしめた。

その温もりは、幻覚にしてはあまりにもリアルだった。

「海斗さん。あなたを、この『自責の地獄』から卒業させてあげます。私のプロデュースする異世界で、最高の『セカンドライフ』を始めませんか?」

「異世界……? 俺みたいな、何もできない奴が行っても……」

「大丈夫です! 海斗さんは前世(今)で、戦略ゲームを極めてましたよね? その『支配す

る才能』、私がチート級に引き上げておきましたから! さあ、行きましょう! 輝かしい未

来へ!」

天使ちゃんがキラキラと光る杖を振り下ろす。 海斗の視界は、再び純白の光に飲み込まれ

ていった。


「……ここは?」

次に海斗が目を開けた時、そこは灰色の部屋ではなく、見渡す限りの大草原だった。

空気は澄み渡り、肺の奥まで洗われるような感覚。

そして、目の前には再び不思議な文字が浮

かび上がる。

【通知:『転生師天使ちゃん』による特別加護『引きこもりへの福音』が適用されました】

【メインスキル:『全自動・領地開拓シム・シティ・ゴッド』】

【詳細:あなたの『居場所』と認めた範囲は、思考するだけで自動的に整備されます。また、あなたがその土地に滞在するだけで、土地の生産性と住民の幸福度が1万倍になります】

「……全自動・領地開拓?」

呆然とする海斗の前に、ボロボロの服を着た一人の少女が倒れていた。

頭には可愛らしい犬の耳。亜人の少女のようだ。

「……あ、う……お水……」

「大丈夫か!?」

海斗が駆け寄る。彼女の周囲を見ると、作物は枯れ果て、井戸は干上がっている。

どうやら飢饉に苦しむ村の生き残りらしい。

海斗は無意識に「この村を、彼女が安心して暮らせる場所にしたい」と願った。

その瞬間、スキルが発動した。

地面が激しく揺れ、地中から清らかな水が噴水のように湧き出す。枯れていた畑には、一瞬にして黄金色の麦が実り、崩れかけていた小屋は、まるでおとぎ話に出てくるような立派なレンガ造りの屋敷へと変貌していく。

「な、なんだこれ……!?」

『すごい……! 神様だ、神様が来てくれたんだわ!』

意識を取り戻した犬耳の少女――ミーシャは、目の前の奇跡に涙を流して海斗に縋り付いた。

海斗は驚き、戸惑った。

前世では誰からも必要とされなかった自分が、ただ「願った」だけで、一人の少女を、一つの村を救ってしまったのだ。

「……ありがとう、ございます。貴方様は、私たちの救世主様です……!」

ミーシャの純粋な感謝の瞳。

それは、海斗の凍りついていた心を、太陽のように溶かしていった。

それからの海斗の生活は、嘘のように色鮮やかなものへと変わっていった。

彼が村を散策するだけで、スキル『全自動・領地開拓』が、土地を肥沃にし家々を堅牢な石造りへと作り変えていく。

彼の生真面目さが、荒れ果てた土地を隅々まで最高率に組み替えていく。

噂を聞きつけた周辺の難民や亜人たちが次々と集まり、数日のうちに村は活気あふれる「街」へと急成長を遂げた。

「海斗様、新しい市場の場所を決めていただけますか?」

ミーシャに頼られ、必要とされるたび、海斗の心を満たしていた「自分は不要な存在だ」という自責の念は消えていった。

「家族の笑顔を見たのは本当に久しぶりです。食べるのに困らないことがこれほど幸せなことだとは…!私達、何処までもお仕えいたします!!」

かつて六畳一間で画面を眺めるだけだった彼の手は、今や現実に数千人の笑顔を作り出している。


その様子を、天界のモニターで見つめる天使ちゃん…

「ふふ、いいですねぇ。海斗さん、すっかり馴染んじゃって順調そうです!」

天使ちゃんはポップコーンを口に放り込みながら、楽しそうに笑う。 そこへ、教育係の先輩天使が飛んできた。

「こら! また勝手に加護を盛ったわね! 『土地の生産性1万倍』って何よ!さっき小麦がほぼタダみたいな値段で売ってましたけど!?世界の経済バランスが崩壊するでしょうが!!」

「えー、いいじゃないですか。彼はあの村の王として、これからどんどん勢力を拡大していくんです。何せ、彼のスキルは『領土を広げれば広げるほど、無敵の軍隊が自動生成される』

っていう隠し機能付きなんですから」

「いやいや、やり過ぎだって!天下統一しちゃうって!」

「てへっ」

天使ちゃんは可愛く舌を出し、再びモニターの中の海斗にエールを送る。

「さあ海斗さん! どんどん幸せになって、どんどん領土を広げてください!そして優秀な軍隊を作るのです…全ては最高に幸せな『未来』のためにね……」

(軍隊?未来?)

先輩天使は、天使ちゃんのいつものやらかしに対しどこか違和感を覚え始めていた。

異世界では、元ニートの青年が、自分を慕う亜人の少女の手を引き、新たな国造りの一歩を

踏み出していた。

彼の背後には、彼が歩くたびに芽吹く緑と、黄金の道がどこまでも続いていた。


ーFASE 2 完了ー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ