ノーマルエンド
オレはバルコニーから2度目の打ち上げ花火を眺めていた。前回は気付かなかったが、星やハートの花火も混じってる。趣向を凝らした演出で勇者パーティを祝福してくれている。
オレは仲間の横顔を見つめる。クルミ、シュン、ミゲル、ライチ、みんな幸せそうに笑っている。最高だ。今回はミゲルも生きてるし魔王軍に焼き討ちにされるはずの村も救った。完全制覇と言っていい。こういうエンディングを望んでいた。
「タケル泣いているのだ」
「あんがい涙もろいんだな」
「ハッハッハッ。安心しろ。オレも涙が止まらん」
「ぼくたち本当に魔王を倒したんですね。夢じゃありませんよね?」
「頭を蹴ってやろうか?」
「ひえー!シュンさんの蹴りを喰らったらぼく死んじゃいますよ!」
ミゲルの背中に隠れるライチをみてみんなで笑った。なんの不満もないいい夜だった。ふと誰かに肩を叩かれる。振り返ると柱の影から何者かの視線を感じる。デジャブだ。オレは柱に後ろに回った。仲間たちははしゃいでいてオレが移動したことに気づいていない。
「ひさしぶりだニャン」
クロノスは親しげに笑う。オレは相合を崩した。
「ああ、ひさしぶりだな。あなたのおかげでオレは最高のハッピーエンドを迎えることができたよ。礼を言う。ありがとう」
「こんなのノーマルエンドニャン。こんなんで満足ニャン?」
「満足だが?」
「満足するにはまだ早いんじゃニャいか?今回のおまいのクリア記録は8000時間ニャ。前回の半分の時間でクリアしてるニャン。もっともっと早くクリアできると思わニャいか?」
「はやくクリアすることになんの意味がある?」
「はやければはやいほど救える命がたくさんあるニャン」
オレは顎に手をそえる。たしかに冒険中、世界各地でモンスターと戦っている人間がいた。オレが知らないだけで襲われてる村もあるだろう。魔王を倒した瞬間、モンスターは魔王の影響から逃れて野生動物程度の脅威となる。クリアタイムがはやければはやいほど1人でも多く命が救える。しかし、正直言ってめんどくさい。
「いや、どんなにがんばっても全員の命は救えない。限界がある」
「限界にチャレンジするニャン。わがはいは何度でも協力するニャン」
オレは頭をかいた。
「いまさっきクリアしたばかりだしなぁ。もうちょっと時間をおいて冷静になってから判断したい」
「ダメニャン。クリアして24時間以内じゃないと戻れないニャン」
「そうなのか。う〜む」
「出会ってない仲間、隠しダンジョン、隠しボス、秘密の宝箱、命がけの恋、まだみぬ冒険がそこにはあるのニャン」
クロノスの言葉はオレの冒険者魂に火をつけた。違う仲間や違うルートで冒険するのもありなんじゃないか?最短ルートはどれだ?クルミと恋人になったが他にも運命の相手がいるんじゃないか?魔王が次に蘇るのは1000年後だから、ここで冒険を終えればもう2度とオレは冒険できない!黄金の日々を懐かしむだけの余生なんてまっぴらごめんだ!まだまだオレは冒険したりない!
「頼む!もう一度、はじめから冒険させてくれッ!」
「おやすい御用ニャン」
クロノスはオレに近づきおでこに手を触れる。ああ、再び冒険の日々がはじまるのだ。オレはタイムループしながら至福の喜びに包まれた。




