時の神クロノス
オレは勇者だ。名前はタケル。神に選ばれし仲間を集めて長い冒険のすえついに魔王を討ち倒した。王国に凱旋したオレたちは大歓迎を受けて現在は祝賀会の真っ最中だ。城の大ホールでごちそうをたらふく食べると中庭に案内された。中庭では踊り子達がダンスを踊り吟遊詩人が即興の祝福ソングで場を盛り上げてくれている。軍楽隊も参加してにぎやかなことこのうえない。あいにくオレの仲間に踊り子はいないので観て楽しむだけだ。次にバルコニーに案内されると花火が打ち上がった。
ハッピーエンドって感じで気分が高揚する。3人の仲間たちも花火に見とれている。仲間の満足そうな横顔を見ていると幸せでいっぱいだ。しみじみといままでの冒険の思い出に浸る。いろんなことがあったなぁ。ふいに肩を誰かにたたかれる。振り返るとだれもいない。クエスチョンマークを頭に浮かべていると大きな柱の影から視線を感じた。誰かいる。オレはそっちに移動した。柱の裏に回り込むとオレの肩を叩いた人物の正体が判明した。腕組みをして真っ赤なマントをまとった白ネコが宙に浮いているではないか。野良猫のくせに細緻な細工のほどこされた王冠を被り高級な宝石の首飾りをしている。
「どうした?迷子か?」
白ネコは憤慨する。
「ちがうニャン!わがはいは時の神クロノスニャン!」
「クロノス?」
聞いたことがある。時間を自在に操り行き来することができるという伝説の神だ。
「見事、魔王を討ち倒したおまいにチャンスをやろう。もう一度冒険をやり直さニャいか?」
「もう一度冒険をやり直すだと?」
オレは考えた。そんなことができるなら助けることができなかった村や自分の命を犠牲にして死んだ仲間を助けることができるじゃないか!
「本当にそんなことが可能なのか?」
「可能ニャン」
「ぜひお願いする!」
「じっとしてるニャン」
クロノスはオレに近づきおでに手を当てた。額に熱が灯る。
「我が冒険は始まったばかりニャン!」
クロノスが叫ぶとオレの体は次元の狭間に飲み込まれた。星のトンネルの中を超スピードで後ろにぶっ飛ぶ。
「うぉおおおおっ!」
トンネルが終わると、どさりと地面に落とされた。草の絨毯の上にオレはいた。ここは、はじまりの村だ!1000年ぶりに魔王が復活して魔王軍が世界各地で暴れているというウワサを聞いたオレは棍棒一つで村を飛び出したのだった。もちろん手紙は残してきた。魔王を倒してくる、とだけ書いて。オレの親は農家で楽天家だからそれだけでじゅうぶんだ。結婚を約束した幼なじみなんかもいなかったし魔王を倒して一旗あげることに何も迷うことはなかった。オレは魔王もいないのに勇者になると言って毎日、1人で修行に明け暮れていたので変人扱いされ女子にはまったくモテなかった。だが、男には人気があった。男は勇者に憧れるものだからな。魔王の支配から解かれたモンスターはおとなしくて野生の獣と変わらない。あまり脅威ではなかった。勇者の必要のない世界になっていたのだ。兵隊になることも考えたが戦争の道具にされるだけだと親に反対され農家の手伝いをしていた。魔王がいない世界では人間同士が争いだし世界各地で戦争をはじめていた。オレも兵隊になってモンスターではなく人間を殺すのはちがうなと思ってやめといた。
草むらに棍棒が転がっている。拾って握りしめる。なつかしいな。こんなしょぼい武器で最初は戦っていたんだ。軽く振る。しょぼい武器だが何度も死線をくぐり抜け剣の技術をマックスまで高めたオレが使えば鉄ハンマーぐらいの威力は出せるだろう。茂みからスライムがぴょんと飛び出してきたので試しにぶっ叩く。一撃で倒せた。やっぱりな。前回のオレは棍棒を無駄に振り回したあげく2回も当てないと倒せなかった。それがいまや瞬殺だ。モンスターの動きが見切れる目がある。
「よっしゃあああああ!冒険をやり直すぞ!」
オレは踏ん張って叫んだ。新しくない冒険がスタートした。




