表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/30

第6話「静寂と暴風と、ユノの知的探究」

ギルドの依頼掲示板をひと通り眺め、俺は軽く首を振った。


「……昇格試験までは、あと三日。中途半端な日程だな」


「じゃあ、私ちょっと……勉強、したいです」


「ほう。魔導訓練か?」


「いえ、座学のほうで。ちゃんと精霊について調べたくて……その……また怒らせないように……」


その言葉には珍しく真剣さがにじんでいた。


あの精霊暴走事件、本人なりに反省しているらしい。


「……よし。じゃあ図書館だな。調べ物にはちょうどいい」


「えっ、付き添ってくださるんですか!?」


「参考資料は専門用語が多い。独学じゃ誤解も多いからな」


「ありがとうございますっ!」


 


◆ ◆ ◆


 


──王都中央図書館。


冷たい石造りの階段をのぼり、扉をくぐった瞬間、凛とした沈黙に包まれる。


膨大な蔵書の匂いと、かすかな羽ペンの走る音。これぞ知の殿堂。


「し……しずかですね……」


「図書館だからな。騒げば即退場だ。覚えておけよ」


「は、はいっ……!」


ユノは目をきらきらさせながら閲覧ホールを見回し、まるで宝物を見つけた子どものように駆け出しかけ──


「走るな。というか騒ぐな。というか息がうるさい」


「うぅ……知の重圧が……!」


「耐えろ。おまえが来たいって言ったんだからな」


 


そんなやりとりを交わしながら、精霊関連の魔導書コーナーへ。


古びた革表紙の本が整然と並ぶ棚の前で、ユノはそわそわと本を探し──


「あっ! これです! 『風精霊との共鳴と交信』! 読んだことないけど、タイトルだけで内容がわかります!」


「いや読んでないならわからんだろ。とりあえず座れ」


「はいっ!」


 


◆ ◆ ◆


 


数時間後。


ユノは魔導書を前に半分魂を抜かれたような顔で座っていた。


「えっと……クロス・スピリト……レゾナンス……って、なんですか……?」


「精霊との交信に必要な共鳴振動の一致状態だ。魔力の波形を合わせることで──」


「まってくださいもうちょっとやさしく……波形ってなんですか……?」


「おまえ、精霊と話してたんだよな?」


「はい……気合で……!」


「知ってたけど、雑すぎる」


 


一方その頃、図書館の司書に俺は目で睨まれていた。


原因はもちろん、隣で「ひぃ~」とか「むぅ~!」とか「えっ、そんな理論あったの!?」とか、小声のつもりで割と大きな声を出しているユノだ。


「……おい、そろそろ静かにしろ」


「はい……でも精霊言語の擬音体系、かわいくて……あっ、風の“うれしい”は“シュフシュフ”なんですね!」


「声がでかい。あと“かわいい”とかで分類するな」


「しゅふしゅふ~……」


「やめろと言ってる」


 


最終的に、ユノは三冊分の資料を読み終えたかどうかのタイミングで、半分とろけた顔で机に伏した。


「しぐさーん……もう無理です……脳が飽和してます……」


「それを“知恵熱”というんだ。まあ、多少は理解できたか?」


「なんとなく……“ちゃんと呼ぶときは敬意を持て”ってことは、わかりました……」


「うむ。それがすべてだ。おまえの場合はまず“呼びつける前に準備しろ”だがな」


「うぅぅ……痛いところを突かれた……」


 


◆ ◆ ◆


 


帰り道。


夕暮れの風が静かに吹いていた。


「……今度、また精霊が来てくれたら、ちゃんと迎えたいです」


「ならまず、今日読んだ本の内容を要約してみろ。五行以内で」


「ええぇぇ……!? もうちょっと……せめて十行……!」


「三行でいい」


「つ、つらいぃぃ……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ