第3話「商会の依頼と、風の暴走」前編
王都・冒険者ギルド、翌日。
初依頼を終えた俺とユノは、思いのほかスムーズに登録済み探索者として扱われ、依頼掲示板の前で次の仕事を選んでいた。
「うーん……討伐はムリそう、護衛も私じゃ役立たなそう……。あ、これどうですか!? “商会からの簡単な調査依頼”!」
「依頼詳細を確認……ふむ。指定区域の魔力変動調査、危険度:低、報酬:そこそこ。悪くない」
「やったー! 低リスク高リターンの神案件ですよ、シグさん!」
「いや“そこそこ”だ。テンションが高すぎる」
ギルド受付で依頼を申し込むと、また昨日の受付嬢が対応してくれた。
「おっ、またあなたたち? 早速の継続依頼とはやる気ね。こっちはエレクトラ商会さんからの依頼。指定区域は郊外のマナ畑です」
「畑?」
「ええ、魔力植物を育ててる農場。最近ちょっと魔力の流れが不安定らしくて……まあ、何かの余波でしょうけどね」
「了解。ユノ、準備はいいか」
「はいっ! 杖も心も、万全です!」
──万全なのは心だけだったと気づくのは、もう少し先の話だ。
◆ ◆ ◆
郊外のマナ畑。
魔力を吸って育つ特殊作物たちが、規則正しく並ぶその風景は──なぜか一部、根こそぎ倒れていた。
「風の仕業、かな……?」
「いや、風というより……暴風。しかも“渦巻いてる”痕跡があるな。ユノ、最近変な魔法撃ってないか?」
「え!? へ、変って、そんな、ちょっと爆発したくらいで……」
「やっぱりおまえか」
「えっ! ち、ちがっ、ちょっと風がねじれただけで……」
「ねじれ風って、だいたい竜巻だぞ。確認する。マナの流れを解析してみよう」
俺は時間魔法《クロノ・ビジョン(時流視認)》を発動。
視界が切り替わり、魔力の動線が“過去から現在へと流れる色帯”で浮かび上がる。
「……3日前に局地的な暴風が発生。原因は……この畑の中心。どうやら魔力灌漑装置が暴走してたらしい」
「わ、私じゃないですね!? ね!? セーフですよね!?」
「まあギリギリ無罪でいい。が、問題はまだ解決してない。装置がまだ不安定だ」
「直せるんですか?」
「封印して停止できるなら。だが……」
そのとき、空気がざわついた。
次の瞬間、マナ畑の中央から渦巻く風が立ち上がる。
「うわっ!? き、きましたよシグさん! 竜巻モードですっ!」
「了解。《クロノ・ディレイ》展開──!」
暴風の中心に時間遅延の結界を張るが、マナ装置の出力がそれを上回る。
「くっ……この風、まさか……精霊反応!?」
ユノの顔が青ざめる。
「ちょっ、ちょっとだけ、呼び出し練習したのが……もしかしたら……えへ……」
「えへ、じゃない。反省してから“えへ”れ」
風の精霊が暴走し、マナ装置の出力を拡大。これは放っておけば畑ごと吹き飛ぶ。
「ユノ! おまえが呼んだなら、言葉で“なだめられる”かもしれない!」
「む、無理ですよ!? ぜったい怒ってますもん!」
「その通りだな。なら──力ずくで止めるしかない」
「えええええええっ!?」