表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/30

第2話「風が吹けば新人が飛ぶ」後編

「……これ、抜け道じゃないか?」


シグは壁際の不自然な風紋を指差した。

淡く光る“流風”の痕跡――空気の流れが違う。


「ユノ、そこの風をもう一度使ってみてくれ。少しだけ、軽くでいい」


「か、軽く……軽く……よし、やってみます!」


ユノは慎重に杖を構え、さっきの吹っ飛び事件の教訓を生かして息を整えた。


「《ヴェント・ブリーズ(風微動)》!」


ふわりと風が吹くと、隠し扉の縁がわずかに揺れた。風の流れで、構造の甘さが露見した形だ。


「当たりだな。ここから先は“模擬トラップエリア”。落とし穴、迷路、あと、魔力干渉の仕掛けもあるはずだ」


「うう、なんか名前だけで胃が痛くなってきました……」


「派手に突っ込むと全部作動する。ここからは俺が前に出る。君は風の感知に集中してくれ」


「はいっ!」


 


◆ ◆ ◆


 


ダンジョン後半、難易度は一段階上がった。


床の魔力陣がかすかに光り、誤って踏み込めば“模擬毒霧”が部屋に充満する。


そこでシグは《クロノ・フェーズ(時相転写)》を発動。

床の魔力発動を“3秒前の状態”に巻き戻し、無効化する。


「すご……! 本当に地味だけど、地味にすごい……!」


「評価が褒めてるのか下げてるのか分からんが、まあいい」


さらにギミック迷路では、時間魔法で“開いた状態”の扉の情報を記録・再現し、通常なら10分はかかる通路をショートカット。


だが、そんな中でも──


「えっ、えっ!? なんで!? また風が勝手に!? きゃああああっ!」


突然の暴風で、隣の通路から飛んできたユノ。


「……またか」


「ち、ちがうんですっ! 今のは、たぶん、風の精霊が……くしゃみ、みたいな……?」


「風の精霊がくしゃみ?」


「なんか……そんな感じの魔力の反応が……ひゅるって……」


「……説明はできてないが、まあいい。無事なら」


 


◆ ◆ ◆


 


そして、最奥部。


模擬トラップのラストは、風圧と幻惑魔法の複合式。


「来るぞ。視界がゆがむ。ユノ、正面注意!」


「わ、わかりました! ヴェント──」


だが、ユノの杖の先に魔力が溜まる前に、幻影が動いた。

彼女の足元に、魔力反応付きの仕掛けが浮かぶ。


(まずい、踏む……!)


シグは反射的に魔法を発動。


「《クロノ・ディレイ(遅延結界)》──!」


時間を0.5秒遅延させた結界がユノの足元に発動。トラップ発動の寸前で“時を留める”。


「うわっ……!? ふ、踏んでた……!?」


「もう一歩後ろだ。いま、ずらす」


シグが手をかざし、《クロノ・シフト(時空移動)》を行使。

ユノの身体を“ほんの1秒前の位置”に戻す──それだけで、罠の発動は回避された。


「……ふう、冷や汗が出た」


「わ、わたし……ほんとにダメダメですね……」


「いや、動きは悪くなかった。方向感覚と風圧制御が、惜しいだけだ」


「それ……つまりほぼ全部じゃ……?」


「伸びしろがあるってことだろ」


「むぅ……でも、ありがとうです、シグさん」


 


──最後は無事、全クリア。


探索報告を終えると、受付の人は「へえ、君たち意外といいコンビなのね」と笑っていた。


「……え、コンビ、ですか?」


「え?」


「ち、ちがっ、ちがいますよ!? そ、そんな、いきなり、まだ、ぜんぜん……!」


「いや、俺もびっくりした」


「シグさんまで!?」


 


◆ ◆ ◆


 


こうして、俺とユノの冒険者ライフが本格的にスタートした。


地味魔法と風地雷──噛み合っているのかいないのか微妙な二人組。

それでも、最初の一歩は、思ったより悪くなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ