第2話「風が吹けば新人が飛ぶ」前編
──正式名称【訓練用探索区域・第一区画】通称“ダンジョンごっこ”。
王都ギルドの新人たちが最初に潜る、模擬探索区域。敵は魔物でなく、魔法で作られた“自動防衛型トラップ”とギミック。
派手に暴れるより、地味に学ぶための場所──俺にうってつけだ。
◆ ◆ ◆
「これが……ダンジョン……!」
目を輝かせて入口を見上げるユノ。ひらひらローブが風に揺れてる。
「少し違うな。これは“ダンジョンごっこ”だ」
「えっ、ごっこ!?」
「訓練用の安全区画だよ。死亡リスクは低いが、無様は晒すことになる。油断すんなよ」
「う、うう……気をつけます!」
彼女は自信なさげに杖を抱える。身長は俺の胸元くらい。明るい栗色のツインテールが、気合が空回りしてる感をよく表していた。
この時点で、彼女の装備の焦げ跡が“風魔法の暴発歴”だと気づいていたら、もっと距離を取っていたかもしれない。
◆ ◆ ◆
通路に入ると、すぐにトラップが現れた。
カチリ、と床が鳴った瞬間、俺は冷静に杖をかざす。
「《クロノ・ディレイ(遅延結界)》」
時をずらす結界が発動し、飛んでくる矢が空中で止まった。
「うわっ!? あ、あれ止まってる!? え、止まってますよね!?」
「“少し遅らせただけ”だ。通り過ぎたら、矢はちゃんと落ちてくる」
「す、すごい……!」
「だが火力はない。地味に便利なだけだ」
矢をやりすごして先へ進む。こんなのは序の口──
「いけませんわっ、わたしもやってみますっ!」
ユノがいきなり杖を掲げた。
「待て、位置が悪──」
「《ヴェント・ブラスト(風裂衝)》!!」
ゴオッ!
暴風が通路全体を吹き抜け、ダンジョンの空気が振動する。
そして。
「わ、わわ、わああああっっ!?!?!?!?」
ユノ本人が後ろに吹き飛んだ。
ひらひらローブが舞い、ツインテールが渦巻き、盛大に転がるユノ。
「……いまのは“暴発”か、“いつも通り”か、どっちだ」
「し、しつれいしました……っ! だ、大丈夫ですぅぅぅ……っ!」
ローブの裾を抑えながら涙目で起き上がる彼女。
風属性魔法の特性──威力は制御が難しく、方向を誤るとこうなる。
「一つだけ褒めておく。派手さだけは合格だ」
「ほめてる!? それ、ほめてますか!?」
「たぶん、な」
──こうして俺とユノの“訓練ダンジョン初挑戦”は、波乱の幕開けとなった。