表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/30

第1話「追放された俺は、地味魔法で飯を食う」

「貴族の宴に、おまえの魔法は地味すぎる──」


それが俺の追放理由だった。


戦場で敵の大砲を止めたのも、地下遺跡の暴走装置を封じたのも、誰だと思ってる?


……そう、この俺。シグ=ノクスだ。


だが、評価はこれだ。地味、分かりづらい、派手さがない。


貴族たちにとって、俺の時間魔法は「ドカンと爆発して場が盛り上がる」ものではなかった。


そして本日──


「……王都に着いた。俺は、今日から自由だ」


俺は荷馬車から降り、肩を軽く回す。


背中には魔術道具と旅用の荷物を詰め込んだ地味なカバン。服装も同様、余計な装飾を削ぎ落とした機能特化型。黒髪短髪の地味男が、今日からこの都市で生きていく。


そして、俺の唯一にして最大の武器は──


時間属性魔法クロノ・マギア。火力ゼロ、見栄えゼロ、でも応用性は無限大」


地味に金を稼いで、地味に地位を上げて、あの貴族どもを“実利”で見返してやる。


 


◆ ◆ ◆


 


王都・冒険者ギルド。


「正式名称は【王立冒険者育成組合】──通称“ギルド”」


そう看板に書いてあるが、誰もそんな長い名で呼んでいない。


ガチャリ、と扉を開けると、中はざわついていた。冒険者たちが報酬を受け取ったり、任務の相談をしたり。武器の音と怒声が混ざるこの空気、俺は嫌いじゃない。


「新規登録を頼みたい。魔術職で」


受付嬢に書類を渡すと、彼女は事務的に手続きを進めた。


「職種は?」


「解析・封印系。時間属性クロノ魔法を扱える」


その言葉に、一瞬、彼女の目が光った。


「……時間、ですか?」


おそらく、最初に浮かんだのは「強そう」というイメージだろう。


だがすぐに、それは「地味魔法」のラベルに置き換わる。


「ええと……時間属性って、例のアレですよね。補助系で、発動にクセがあるってやつ」


「正解。火力ゼロ、見栄えゼロ。でも状況制御にはそこそこ強い。“器用貧乏の権化”ってやつさ」


「……じゃあ“特殊魔法”で登録しておきますね」


手慣れた様子で記入する彼女を見て、俺の魔法の評価がこの都市でも変わらないことを察した。


「魔力計測、お願いします」


手をかざすと、魔力球が淡く灰色に光る。


「うわ……ほんとに地味、じゃなくて、非属性系ですね」


「いつもの反応だ。驚くことじゃない」


軽く笑って受け流す。


こういうのには、もう慣れている。


 


◆ ◆ ◆


 


仮登録が済み、胸に初心者冒険者のバッジをつけて振り返ると、名前を呼ばれた。


「ユノ=フェルメリアさん? 新規登録の同行者です」


現れたのは、明るい栗色のツインテールを揺らしながら、背中に巨大な杖を背負った少女。


ひらひらしたローブが目立つし、何より装備の端々が軽く焦げている。


「えっ、えっと……わ、わたし、ユノ! 初心者です!」


やや挙動不審ながら、元気に名乗ってきた。


「シグ=ノクス。解析屋だ。よろしくな」


見上げるように視線を合わせてくるユノの背は、俺の胸元あたりしかない。


「時、時間属性……!? す、すごそうですね!」


「いや、全然。派手さゼロの、地味魔法だ」


「あ、あれ? そうなんですか? なんか“時間”って、チートっぽい響きなのに……」


「名前詐欺だな。見て強そうな火とか雷のほうが、ずっと人気者さ」


「な、なるほど……わたし、まだよく知らなくて……」


少し落ち込んだ様子だが、素直で憎めない性格なのが分かる。


「まあ、こっちは地味にやるから。君は君で派手に暴れてくれ」


「えっ、は、派手に!? わ、わたし、そんなつもりは──!」


「冗談だよ。たぶんな」


 


──このときはまだ、“風属性でスカートめくり地雷”の異名をとる彼女の片鱗すら知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ