ヒーラーのソフィ、今日も仲間が見つからない
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
冒険者ギルド──それは力ある者が集い、依頼をこなし、名声と富を手に入れる場である。強靭な剣士、華麗な魔術師、勇猛なる槍使い……そうした面々が日夜酒を酌み交わし、次なる冒険を語らう伝説の場所──。
……と、普通はそう思うだろう。
しかし現実は違う。
少なくとも、ヒーラーのソフィにとっては。
「今日こそは! 今日こそはまともな仲間を紹介していただきます!」
ギルドの掲示板の前で、ソフィはぎゅっと拳を握りしめた。金髪に碧眼、ふわりとした癒し系の雰囲気を持ち、誰から見ても“理想的なヒーラー”だ。
にもかかわらず、なぜか彼女が紹介されるのは毎回、ろくでもない冒険者ばかりだった。
「おーい、ソフィちゃん! 今日も紹介する人材がいるよ!」
ギルド受付嬢のミランダがにっこりと呼びかける。彼女はいつも笑顔でソフィに冒険者を紹介するのだが、なぜか“変なやつ”しか回ってこないのだ。
「今回は期待していいんですよね?」
「もちろん! 彼はすごいわよ! なんたって──」
そのとき、扉がバァンと開いた。
「俺に紹介したいヤツってのは、こいつか?」
現れたのは、身長二メートルはありそうな筋肉ムキムキの大男だった。
(す、すごい威圧感……つ、強そうじゃない? 今回は当たりじゃない?)
「そうよ。こちらは“ヒーラー”のソフィ」
ミランダが紹介すると、大男は胸を張って名乗った。
「俺は、“パティシエ”のレイモンドだ」
(パ、パティシエ……? いや、もしかしたら、某人気漫画のように、とても強いシェフもいますし……)
「ミランダさん、パティシエって……?」
「そうよ! 彼の作るお菓子は最高よ!!」
「戦闘は? この方は強いのでしょうか?」
「弱いわ!! スライムにもボコボコにされるわ。でも、お菓子は最高よ!」
(え、弱いの……? こんな大男なのに……筋肉隆々なのに……)
「……すみません、次をお願いします」
ソフィは一礼して、彼をそっと視界から消去した。
二人目。
「俺の名はバルド! 剣を抜けば……うっ、あ、あいたたたっ!」
細身だが高身長の男が現れたかと思えば、剣を抜いた瞬間に腕を脱臼して床に倒れ込んだ。
「彼は“虚弱体質剣士”よ!」
「そんな肩書の方はいりませんから!」
ソフィは慌てて回復魔法を施した。脱臼は治るが、戦うたびに回復が必要そうだった。
「……却下で」
三人目。
「私はマチス。歌で仲間をサポートする“吟遊詩人”ですぅ」
ぱっと見は清楚で優しげな少女。ソフィは内心ほっとした。ようやくまともな人材かもしれない。
「では一曲……♪」
マチスがリュートをかき鳴らす。……が、流れ出たのは妙に物悲しい旋律。
「死んでしまった貴女のために~♪ 墓を掘りましょ掘りましょ~♪」
「縁起悪っっっ!」
却下。
四人目。
「俺は“シーフ”のバゴス。俺に盗めないスネ毛はねぇ!!」
「なぜ、スネ毛を……!?」
却下。
五人目……?
次に現れたのは、一匹のカタツムリだった。
「……」
「ミランダさん、これは……?」
「“カタツムリ”のロブスター君よ。防御に関しては最強クラスよ!」
(カタツムリなのに、ロブスターという名前……。ワケがわからないわ。タンク役としてはうってつけかもしれないけど……)
ソフィは戦闘時をイメージしてみたが、どんなに想像しても自分のほうが目立って狙われる──そんな未来しか見えなかった。
却下。
こうして一日が終わるころ、ソフィの心はすっかり折れかけていた。
「どうして……どうして私にはまともな人が紹介されないんですかぁ……」
涙目のソフィ。
ミランダは「うーん」と首を傾げた。
「ソフィちゃん……あなたのストライクゾーンが狭すぎるんじゃない?」
「そんなことは、ありません!!」
そのとき、ギルドの扉が再び開いた。
「すみません、ヒーラーを探しているんですが……」
そこに立っていたのは、爽やかな笑顔の青年剣士。背筋も伸びていて、剣の柄に添えた手も凛々しい。
「!?」
ソフィの心臓が跳ねた。やっと、やっとまともな人が──!
「自己紹介を……俺の名はカイル。スキルは──《裸族》」
スパァン! と服が脱げ、彼は全裸になった。
「……」
「《裸族》はね……裸になると攻撃力が三倍になるのよ!」
ミランダが説明すると、ソフィはそっと顔を伏せた。
「ミランダさん……私、もうパーティーを組むのを諦めていいですか……?」
「ダメよ。きっと、明日こそ、あなたに合う変な冒険者が見つかるわ」
(え、変な冒険者? もしかして、私、遊ばれてる?)
こうしてソフィは今日も、変なやつばかりのギルドで翻弄され続けるのだった。
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