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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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89/171

小学校編 85時間目 ―いざ、運動会へ!賑やかすぎる朝の大集合―

〈桃視点〉

 いよいよ、今日は運動会!

 ……なのに。

 さっきまであんなに賑やかだった玄関が、急に静かになっちゃった。

 ブラスバンド同好会のみんなが、ファンファーレの最終練習に向かったからだ。

 美香も、めめも、咲姫も、胡実も。

 太志さんも、久遠さんも、帝耀さんも。

 みんな、最初はあんなに緊張してたのに、最後には元気よく出発していった。

 ……ふふっ。

 大丈夫かな。

 ちゃんと落ち着いて演奏できるといいなぁ。

 私は、みんなが出ていった玄関を眺めながら、そんなことを考えていた。

 すると――。

「桃、おはよ」

 後ろから、聞き慣れた声がした。

 振り返ると、そこには紗奈が立っていた。

「あ、紗奈! おはよ! 今ちょうどブラスバンド同好会のみんなが行ったところだよ!」

「ふわぁぁ……。みんな朝から大変そうだね」

 紗奈は、大きなあくびをした。

 …………。

 ちょっと待って。

 今、何時だと思ってるの!?

「紗奈は寝坊に入るくらい遅すぎ!!」

「ごめんごめん。なんかぐっすり寝ちゃった」

 紗奈は、悪びれる様子もなく笑った。

 ……もう!

 紗奈ったら……!

 こういう大事な日に寝坊するんだから!!

 まあ、運動会にはまだ間に合うんだけど。

 それでも、今日くらい早く起きてもよかったんじゃない?

 ……いや。

 もしかしたら、昨日は緊張してなかなか寝られなかったのかな。

 …………。

 でも、ぐっすり寝ちゃったって言ってたよね。

 ……紗奈らしいなぁ。

「あ、おはよ」

 そのとき、また声が聞こえてきた。

 振り返ると、莉玖翔さんと燈李さんがこちらへ歩いてきていた。

「二人ともおはよう! 今日は頑張ろうね!!」

 紗奈が、元気よく声をかける。

「莉玖翔さん、燈李さん、おはようございます! 頑張りましょうね!!」

 私も、笑顔で挨拶した。

 ……ああ。

 なんだか、少しずつ運動会当日って感じがしてきた!

 まだ家から出てもいないのにね。

「あれ、愛理は?」

 莉玖翔さんが、辺りを見回した。

「いつも一緒にいるよね?」

「あ、愛理なら朝から走ってるみたいです!」

 私が答えると、紗奈が目を丸くした。

「え、偉い……」

 …………。

 うん。

 偉い。

 本当に偉い。

 だって、今日は運動会本番だよ!?

 それなのに、朝から自主練習してるなんて!

 愛理、頑張り屋さんだなぁ。

「紗奈も誘おうとしてたみたいだけど、遅いから先行っちゃったよ!」

 私がそう言うと、紗奈は少し考え込んだ。

 そして――。

「まだ時間あるし、急いで愛理のとこ行ってくるわ!」

 ……おおっ!

 紗奈、やる気になった!

「二人もどう? 一応、選手と補欠だし」

 紗奈が、莉玖翔さんと燈李さんに尋ねる。

「俺はパス」

 莉玖翔さんは、即答した。

「じゃあ俺も大丈夫!」

 燈李さんも、笑顔で断った。

「分かった! じゃあ行ってくるね!」

『行ってらっしゃい!』

 私たちは、紗奈を見送った。

 ……ふふっ。

 紗奈も偉いなぁ!

 まあ、今からだと、あんまり走る時間はないと思うけど……。

 それでも、最後まで頑張ろうって気持ちがあるんだもんね。

 ……私も見習わなきゃ。

―――続々と集まる友達―――

「桃たん、おっはー!」

「桃ちゃん、おはよう!」

「桃ちゃん、今日は頑張ろうね!」

 …………。

 あっ!

 この声は!

「めめ……じゃなくて、未穏! 舞! 魅月! おはよう! うん、頑張ろうね!」

 元気いっぱいにやってきたのは、未穏と舞と魅月。

 ……あはは。

 危ない危ない。

 さっきまでめめのことを考えてたから、つい名前を間違えそうになっちゃった。

「めめたんも美香たんも、朝から練習だって行っちゃってさ。未穏、寂しい……」

 未穏が、しょんぼりと肩を落とした。

 …………。

 ああ。

 そっか。

 いつも一緒にいる二人が、今日は先に出発しちゃったんだもんね。

「そっか、二人ともブラスバンド同好会だもんね」

 私は、未穏に頷いた。

 すると、魅月が優しく笑った。

「あんまり寂しさ紛れないかもしれないけど、私たちもいるから!」

 …………。

「魅月たん!!」

 未穏が、ぱっと顔を上げた。

「うんうん! 一緒にめめちゃんたちのこと応援しようね!」

 舞も、にっこりと笑う。

「舞たんも……! いい子すぎるよぉ!!」

 未穏が、二人に感動している。

 …………。

 ……ふふっ。

 分かる。

 すっごく分かるよ、未穏!

 魅月も舞も、本当にいい子だよね。

 騎馬戦の練習のときも、四人で一生懸命頑張ってたし。

 よさこいの練習でも、みんなで協力してた。

 だから、きっと今日も大丈夫!

 ……ああ。

 それにしても、朝から可愛い会話を聞いちゃったなぁ。

 なんだか、私まで嬉しくなってきた。

 すると――。

「みんな、おはよう。今日は頑張りましょうね」

 落ち着いた声が聞こえてきた。

「おはよう!」

「頑張ろうね!」

「頑張ろう!」

 …………。

 あっ。

 来た!!

「四人とも、おはよぉー! 頑張ろーねー!」

 未穏が、元気いっぱいに手を振った。

 現れたのは、紺、璃央、色端、瑞稀の四人。

 …………。

 …………。

 は、華やかーずっ!!

 ……ちなみに。

 これは、私が勝手につけた名前。

 だって!

 この四人がそろうと、本当に華やかなんだもん!!

 紺は、落ち着いていて綺麗だし。

 ほかの三人も、それぞれ違った魅力があって。

 四人並ぶと、なんというか……。

 周りの空気まで華やかになる気がする!!

 …………。

 きょ、今日もお美しいでござんすっ!!

 ぐふふっ!!

 ……って。

 何考えてるんだろ、私。

 朝からテンションがおかしくなってるかも。

 でも、仕方ないよね!

 綺麗な子たちが四人も並んでるんだもん!

 ……はぁ。

 目の保養だなぁ。

「桃ちゃん、おはよー!」

 そんなことを考えていると、また別の声が聞こえた。

「わ! 結構そろってた!」

「みんな、おはよー!」

 ……あっ!

 今度は、有羽、凪喜、春夏!

「有羽、凪喜、春夏! おはよう! 今日は頑張ろうね!」

『うん!』

 三人が、元気よく頷いた。

 ……ふふっ。

 みんな、いい笑顔!

 騎馬戦では、有羽が騎手だったよね。

 最初は少し緊張してたみたいだけど、凪喜と春夏、それから咲姫と胡実に支えられて、ちゃんと騎馬を組めるようになった。

 ……今日も頑張ってほしいなぁ。

 それにしても……。

 なんか、みんな続々集まってきた!!

 さっきまで静かだった玄関が、どんどん賑やかになっていく。

 笑い声が聞こえて。

 誰かが誰かを呼んで。

 今日の運動会について話して。

 ……わぁ。

 いよいよ、運動会が始まるって感じがする!

 ……まあ。

 まだ家すら出てないんだけどね。

―――吉沢派も集合!―――

「お〜! いっぱい居るね〜!」

 聞き慣れた、のんびりとした声がした。

 ……あっ。

 蓮さん!

「なかなかの集まり具合だね」

 華人さんが、辺りを見回しながら笑った。

「……だな……」

 皇輝さんも、小さく頷いている。

 ……うん。

 本当に、すごい人数になってきた。

「こんなに集まっても狭く感じないこの家、本当すごいよな」

 圭さんが、感心したように言った。

 …………。

 それは、本当にそう!

 こんなにたくさんの子が集まってるのに、まだ余裕があるんだもん。

 吉沢家の別邸って、本当に広いなぁ。

「だからといって、あんまりごちゃごちゃするなよ」

 海斗さんが、みんなに注意した。

「迷惑はかけないようにね!」

 るるさんも、優しく声をかける。

『はーい!』

 みんなが、元気よく返事をした。

 …………。

 ……ふふっ。

 こんなこと言っていいのか分からないけど……。

 海斗さんとるるさん、保護者感すごい……。

 だって!

 海斗さんは、ちょっと厳しめに注意して。

 るるさんは、優しく言い聞かせて。

 ……なんだろう。

 まるで、二人でみんなを引率してるみたい。

 ……あはは。

 なんか、ちょっと面白い。

 でも、二人ともちゃんと周りのことを考えてるんだよね。

 ……うん。

 頼もしいなぁ。

―――前髪が決まらない!?―――

「莉玖翔ー! ごめん! 遅くなった!」

 突然、慌ただしい声が響いた。

 ……ん?

 振り返ると、明日夏さんたちがやってきたところだった。

「あすか、前髪決まんないとかで、なかなか出られなくてさー!」

 遼さんが、呆れたように笑った。

 …………。

 前髪?

「どうせ運動して崩れるんだからね」

 綺さんが、さらりと言った。

「うんうん。それくらい諦めればいいのに」

 勇さんも、頷く。

 ……確かに。

 今日は運動会だもんね。

 走ったり、動いたりしたら、髪形は多少崩れちゃうと思うけど……。

「お、俺には今が大事なの!!」

 明日夏さんが、必死に反論した。

 …………。

 ……あははっ!

 明日夏さん、前髪命すぎますね!!

 ちょっと美香に似てるかも……!

 美香も、身だしなみには結構こだわるもんね。

 ……ふふっ。

 二人で髪形の話を始めたら、すっごく盛り上がりそう。

「まあでも、時間には間に合ってるし、いいんじゃない?」

 湊さんが、穏やかに言った。

「俺らは大丈夫だよ!」

 燈李さんも、笑顔で頷いた。

「本当ごめんっ!」

 明日夏さんは、もう一度頭を下げた。

 ……うんうん。

 何だかんだで、ちゃんと間に合ってるんだから大丈夫だよね。

 それにしても……。

 朝から、みんな個性的すぎる!

 まだ出発もしてないのに、こんなに賑やかなんだもん。

 今日の運動会、どうなっちゃうんだろう……!

―――最後の五人!?―――

「皆様、おはようございますわ」

 …………。

 あっ。

 今度は、綺麗な声が聞こえた。

「あら、わたくしたちが最後でございましたのね。お待たせしてしまい、大変失礼いたしましたわ」

 丁寧に挨拶しながら現れたのは、杏絆。

 その後ろには、綾音、望結、可恋、蘭の四人もいた。

「みんな、ごめん! お待たせー!」

「遅くなってごめんね!」

「まさか、こんなに集まってたとはね」

「お待たせしました!」

 五人が、それぞれ挨拶する。

 ……あっ!

 これで、ほとんどみんなそろったんじゃない!?

 そう思った、そのとき。

「げっ……来たか……」

 …………。

 ……ん?

 今、何か聞こえたような……。

「あら、華人さん?」

 杏絆が、にっこり笑った。

 …………。

 あっ。

 華人さん……。

 今の、聞こえちゃったんだ。

「それは、どういう意味ですの?」

「え!? あ、いや……なんでもない……」

 華人さんが、明らかに動揺した。

 ……あらら。

 これは……。

「聞こえてましてよ」

 杏絆は、笑顔のまま言った。

「な、何が……!?」

「『げっ……来たか……』でしてよね?」

 …………。

 わぁ。

 しっかり聞こえてたんだ……。

「そ、空耳じゃないかな……?」

 華人さんが、苦し紛れに笑う。

 …………。

 いや。

 さすがに、それは無理があるんじゃ……。

「わたくしの耳を疑っていまして?」

「いや……」

 華人さんが、視線を泳がせる。

「わ、悪かった! マジごめん!」

 …………。

 あっ。

 謝った。

 ……よかった。

 これで、何とか収まるかな?

「別に怒ってなどいませんわ」

 杏絆は、相変わらず落ち着いていた。

「悪名は無名にも勝るとも言いますし。まあ、少し違いますけれど」

 …………。

 ……えっ。

 悪名は無名にも勝る……?

 ……うーん。

 なんか、すごいこと言ってる……。

 杏絆って、本当に言葉をよく知ってるよね。

 でも……。

 今の状況で、その言葉が出てくるのはちょっと面白いかも。

「そ、そっか……」

 華人さんは、少しほっとしたような顔になった。

「じゃ、じゃあね……」

 そのまま、そそくさと離れていく。

 …………。

 ……あはは。

 華人さん、逃げちゃった。

 杏絆は、怒ってないって言ってたけど……。

 ……本当かな?

 …………。

 まあ、深く考えないでおこう。

 と、とにかく、これで全員集合!!

 ……だよね?

 もう、誰も忘れてないよね?

 私は、辺りを見回した。

 ……うん。

 みんなそろってる!

 ……あれ?

 …………。

 ……あっ。

 ちょっと待って。

 まだ二人いた!!

―――本当の全員集合!―――

「ただいまー! って、みんな集まってる!」

 玄関から、紗奈の声が聞こえた。

「本当ね……」

 その隣には、愛理もいる。

 …………。

 あああっ!!

 二人のこと、すっかり忘れてた!!

 ごめん!!

 そうだった!

 紗奈、愛理と一緒に走るって言って出かけてたんだった!

 みんなが次々に集まってきたから、うっかり忘れちゃってたよ……!

「二人とも、お疲れ様!」

 私は、慌てて声をかけた。

「ありがと!」

 紗奈が、笑顔で答える。

 愛理も、小さく頷いた。

 ……ふふっ。

 二人とも、朝から頑張ったね。

 ……あっ。

 そういえば、もう出発の時間かな?

「お疲れ様でございます」

 斎森さんが、私たちの方へ歩いてきた。

「ちょうど、よいお時間でございますね」

 …………。

 あっ!

 時計を見ると、確かにそろそろ出発しなきゃいけない時間だった。

「ほ、ほんとだぁ!」

 未穏が、慌てて声を上げる。

 ……よし!

 それじゃあ、いよいよ出発だ!

「それじゃあ、斎森さん! 行ってきます!」

 私は、元気よく声をかけた。

『行ってきます!』

 みんなの声が、玄関いっぱいに響いた。

 ……わぁ。

 すごい。

 こんなにたくさんの声が一斉に重なると、迫力があるなぁ。

 斎森さんは、私たちを見回して、優しく微笑んだ。

「はい、皆様。行ってらっしゃいませ」

 そして、丁寧に頭を下げる。

「頑張ってください。斎森、ここから応援しておりますよ」

 …………。

 ……うん!

 斎森さん、ありがとう!

 私は、ぎゅっと拳を握った。

 よし! 今日は頑張るぞー!!

 ……正直に言うと。

 私、運動は苦手。

 というか……。

 むしろ、嫌い!!

 走るのだって、そんなに得意じゃないし。

 騎馬戦も、最初はちょっと怖かったし。

 運動会って聞いても、普段ならそんなにわくわくしない。

 ……でも。

 今年は、少し違うんだ。

 だって。

 みんなと、いっぱい練習してきたから。

 騎馬戦の練習では、紗奈たちと力を合わせた。

 よさこいの練習も、みんなで頑張った。

 ほかの競技だって、みんなが一生懸命練習しているところを見てきた。

 それに。

 ブラスバンド同好会のみんなも、毎日、本当に頑張ってた。

 ……だから。

 みんなと頑張ってきたこと、無駄にはしたくない。

 運動が得意じゃなくても。

 足が速くなくても。

 できることは、きっとある。

 私だって、ちゃんと頑張れる。

 ……うん!

 せっかくの運動会なんだもん。

 苦手だからって、最初から諦めたくない。

 今の私にできることを、精一杯やろう!

 私は、みんなの後を追って玄関を出た。

 外には、気持ちのいい朝の空気が広がっていた。

 そして、隣にはたくさんの友達がいる。

 ……ふふっ。

 なんだか、ちょっと楽しみになってきちゃった。

 よーし!

 みんなと頑張ってきたこと、精一杯出し切るぞー!!

〈85時間目・終〉

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