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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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小学校編 66時間目 ―そんなに甘くはありません!―

〈桃視点〉

「桃ちゃん!!」

「ん?」

 突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには見慣れた顔がずらりと並んでいた。

 咲姫、胡実、美香、めめ。

 それから、久遠さんと太志さん。

 …………。

 え?

 ちょっと待って。

 みんなどうしたの!?

 しかも、全員なんだかすごく真剣な顔をしてるんだけど!?

 えっ。

 何かあった?

 誰か怪我でもした!?

 それとも、何か大変なことが……。

「えっと、みんなどうしたの?」

 私が尋ねると、六人は顔を見合わせた。

 そして――。

『楽器、教えてくださいっ!!!!』

 …………。

 …………。

 えええええええええええ!?!?

 が、楽器!?

 急に!?

 しかも六人そろって!?

 何!?

 何があったの!?

 …………。

 と、とりあえず。

 話を聞いてみよう。

     *

「……なるほど」

 六人の話を聞き終えて、私は頷いた。

 どうやら、みんな毎日一生懸命練習しているらしい。

 朝練も。

 放課後練も。

 土日の練習も。

 それなのに、なかなか上手くならない。

 だから、私に教えてほしい、と。

 …………。

 なるほどね。

 そういうことか。

 …………。

 いや。

 ちょっと待って!?

「なるほど、みんな毎日練習してるけど、なかなか上手くならない……って」

 私は六人の顔を見回した。

「当たり前だよ!!!」

『えええ!?』

 …………。

 えっ!?

 なんでそんなに驚くの!?

「逆になんですぐにできるようになるって思ったの!?」

『ううっ……』

 六人が、そろって気まずそうな顔をした。

 …………。

 いやいやいや!!

 楽器なんて、そんな簡単にできるようになるものじゃないんだから!!

 音を出すだけでも大変な楽器だってあるし。

 音が出るようになったからって、すぐに曲が演奏できるわけじゃない。

 指使いを覚えて。

 音程を安定させて。

 リズムを合わせて。

 少しずつ練習を重ねていくものなんだよ!?

 それに!!

 演奏できるようになることと、上手に演奏できるようになることは、全然違うんだから!!

「ごめん、桃ちゃん……」

 咲姫が、しゅんと肩を落とした。

「『LET'S GO!!』だと、みんなすぐにできるようになってたから……」

 …………。

 あ。

 …………。

 なるほど。

 そういうことね。

「うんうん……」

 胡実も、申し訳なさそうに頷いた。

「だから私たちも、できるようになるかなって思ってたんだけど……」

 …………。

 …………。

 甘いっ!!!!!

「それはアニメの世界!!!!」

 思わず声が大きくなった。

「本当はもっともっとかかるんだからね!」

『ううっ……』

 咲姫と胡実が、さらに小さくなった。

 …………。

 もう!!

 確かに『LET'S GO!!』は面白いアニメだと思うよ!?

 私だって、あの作品を見て吹奏楽に憧れる気持ちは分かる。

 でも!!

 アニメで簡単そうに見えたからって、現実でもすぐにできるようになるわけじゃないんだから!!

 むしろ、できないことの方が多いんだよ!?

「でも!」

 美香が、勢いよく手を挙げた。

「私たち毎日朝練してるし、放課後練も毎日してるし、土日も練習してるんだよ!」

 …………。

 うん。

 それは分かった。

 もちろん、毎日練習してるのはすごいことだと思う。

 でも……。

「めめち、発明の時間なくなるくらい頑張ってる……!」

 めめまで、悲しそうな顔で訴えてきた。

 …………。

 発明の時間!?

 めめ、そんなに頑張ってるの!?

 それは確かにすごいけど……。

「そんなの当たり前!」

『ええっ!?』

「ほかのみんなだって、同じくらい練習してるでしょ?」

 六人が顔を見合わせる。

『確かに……』

 ほら!!

 そうでしょ!?

 みんなが毎日頑張ってるのは分かる。

 でも、ブラスバンド同好会のほかの子たちだって、毎日一生懸命練習してるんだよ。

 先輩たちだって、何年も練習を重ねてきたはず。

 今は綺麗な音を出せる先輩だって、最初から上手だったわけじゃない。

 きっと何度も失敗して。

 何度も練習して。

 少しずつ、今の演奏ができるようになったんだと思う。

 だから、始めたばかりのみんなが上手くできないのなんて……。

 当たり前なんだってば!!

「はいはいはい!」

 そのとき、太志さんが勢いよく手を挙げた。

「俺なんて音すら上手く出せないんだけど!」

 …………。

 ああ。

 太志くんはトランペットだったよね。

 それなら、最初は苦労するだろうなあ。

「俺も……」

 今度は久遠さんが、控えめに口を開いた。

「音出ないんだよね」

 …………。

 久遠さんはホルン。

 …………。

 うん。

 そりゃあ難しいよね。

 でも!!

「金管なんだからしょうがないですよ!」

 二人が、びくっと肩を揺らした。

「木管でも初心者さんが音を出すのは大変ですけど、金管なんてもっとですよ!!」

 金管楽器は、唇を振動させて音を出す。

 ただ息を吹き込めばいいってわけじゃない。

 唇の使い方も、息の使い方も、少しずつ覚えていかなきゃいけないんだ。

 特にホルンは、狙った音を正確に出すのが難しい楽器だし。

 最初から綺麗な音が出なくても、何もおかしくない。

「自分で選んだんだから、それくらい我慢して少しずつ練習してください!」

『は、はい……』

 久遠さんと太志さんが、そろって頷いた。

 …………。

 もう!!

 みんな、焦りすぎなんだよ!!

 早く上手くなりたい気持ちは分かる。

 私だって、楽器を始めたばかりの頃は、できないことがたくさんあった。

 何度練習しても、同じところで間違えたり。

 思うように演奏できなくて、悔しくなったり。

 そういう経験は、私にもある。

 だからこそ……。

 みんなには、ちゃんと分かってほしい。

「と・に・か・く!!」

 私は六人の顔を見回した。

「みんな、できないできないって言ってるけど、それくらい当たり前のことなの!」

 …………。

 みんなが静かになった。

「みんなが出来損ないとかでは、決してないんだからね!」

 …………。

「みんなが通る道なの!」

 咲姫も。

 胡実も。

 美香も。

 めめも。

 久遠さんも。

 太志さんも。

 みんな、まだ楽器を始めたばかりなんだ。

 できないことがあって当然。

 上手くいかなくて当然。

 だから、そんなに焦らなくていい。

 最初から何でもできる人なんて、ほとんどいないんだから。

「ピアノみたいに押せば鳴るわけじゃないんだから!」

 ……まあ、ピアノだって綺麗に演奏するのはすごく難しいんだけどね。

 でも、鍵盤を押せば、とりあえず音は出る。

 管楽器は、そうはいかない。

 最初の一音を出すだけでも、何度も練習しなきゃいけないことがある。

 だから……。

 できないからって、そんなに落ち込まなくていいんだよ。

『…………』

 六人は、しばらく黙っていた。

 …………。

 あれ?

 …………。

 ちょっと言いすぎた?

 いや、でも。

 間違ったことは言ってないと思う。

 むしろ、ここで簡単にできるようになるなんて言ったら、嘘になっちゃう。

 楽器は、そんなに甘いものじゃないんだから。

 …………。

 でも。

 私は、改めて六人の顔を見た。

 みんな、真剣だ。

 きっと、本当に上手くなりたいんだろうな。

 朝も放課後も、土日も練習して。

 それでも足りないと思って、私のところまで来た。

 …………。

 そう考えると。

 すごいことだよね。

 まだ始めたばかりなのに、そこまで一生懸命になれるなんて。

 その気持ちは、大切にしてほしい。

「……まあでも」

 私は、少し声を和らげた。

「みんなの向上心がすごいことは分かりました」

 六人が、ぱっと顔を上げる。

「教えるのは、別にいいですよ」

『ええっ!?』

 …………。

 えっ。

 そんなに驚く!?

「別に断る理由もないし。私も練習するきっかけになると思うから」

 そう。

 誰かに教えるのって、自分にとっても勉強になるんだよね。

 普段は感覚でやっていることを、言葉にして説明しなきゃいけないし。

 自分がちゃんと理解できていないところにも気づけるかもしれない。

 それに……。

 みんながこんなに頑張ってるなら。

 私だって、できることは手伝いたい。

『いいんですか……!!!』

 …………。

 うわっ。

 みんな、目が輝いてる!!

 さっきまであんなに落ち込んでたのに!

 …………。

 ふふっ。

 なんだか可愛いなあ。

「も、もちろん……」

 私は、少し照れくさくなりながら答えた。

 そして、みんなに向かって微笑んだ。

「みんなで一緒に頑張りましょ?」

 …………。

 すると。

『はい!!!!!』

 六人の元気な返事が、ぴったり重なった。

 …………。

 ふふっ。

 いい返事!

 でも……。

 みんな。

 一つだけ、覚悟しておいてね?

 私、教えるからには手加減しないから!!

     *

 こうして。

 朝練。

 放課後練。

 土日練。

 それに加えて――。

 「桃練」

 という、新しい練習時間が始まったのだった。

 …………。

 さて。

 みんな、これからどれくらい上達するのかな?

 楽しみだなあ。

 ……もちろん。

 私も負けないくらい頑張らなくちゃ!

〈66時間目・終〉

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