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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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57/156

小学校編 53時間目 ―恋人同士の秘密―

〈紗奈視点〉

「す、好きです! 付き合ってください!」

 目の前には、顔を真っ赤にした男の子。

 緊張しているのか、差し出された手が小さく震えている。

 ……うん。

 気持ちはありがたいんだけど。

 私は一度小さく息を吸ってから、できるだけ穏やかに答えた。

「ごめんなさい。私、付き合ってる人がいるので」

 …………。

 その瞬間。

『ええええええっ!!??』

 ……え?

 何、この反応。

 目の前の男の子だけじゃない。

 近くにいた子たちまで、一斉にこちらを振り向いた。

「さ、紗奈さんに恋人!?」

「嘘でしょ!?」

「誰!? 誰なの!?」

 ……うわあ。

 予想はしていたけど、やっぱりこうなるのね。

 でも、仕方ない。

 だって、実際に付き合ってるんだもの。

 ……名前だけだけど。

     *

「これ、莉玖翔くんに書いてきました! 好きです! 受け取ってください!」

 少し離れた場所では、莉玖翔も女の子から手紙を差し出されていた。

 可愛らしい封筒。

 きっと、一生懸命書いてきたんだろうな。

 莉玖翔はその手紙を見つめると、申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんね。俺、付き合ってる人がいるから、こういうのは貰えないんだ」

 …………。

『ぎゃあああああああ!!!!!!』

 ……うわっ。

 今度は向こうから悲鳴が聞こえてきた。

「莉玖翔くんに彼女!?」

「そんなぁぁぁ!!」

「誰なのよおおお!!」

 …………。

 はあ。

 やっぱり、莉玖翔の方も大変そう。

 私たち、告白を減らすために付き合うことにしたんだけど……。

 もしかして、最初は余計に騒がしくなるんじゃない?

     *

『はぁ……』

 人が少なくなった廊下で、私と莉玖翔のため息が重なった。

 ……あれ?

 まただ。

 昨日も同じことがあったような……。

「あ、お疲れ」

 私が声をかけると、莉玖翔は苦笑した。

「そっちも大変だったみたいだね」

「うん。みんなに問い詰められちゃってさ。莉玖翔も大変だったみたいね」

「まあね。俺も質問攻めにあったよ」

「だよね……」

 ……まあ、初日はそんなもんよね。

 今までずっと誰とも付き合っていなかった二人が、突然恋人がいるって言い出したんだから。

 そりゃ、驚かれるか。

 でも、これで少しは告白が減るはず。

 ……たぶん。

「ちょっとちょっと!! 紗奈ちゃん!!」

「わっ!?」

 突然、後ろから大きな声が聞こえてきた。

 びっくりして振り向くと、そこには見慣れた三人の姿があった。

「美香、愛莉と桃も。どうしたの?」

 三人とも、なんだかいつもより興奮している。

 ……嫌な予感。

「付き合ってる人がいるって本当!!!??」

 美香が勢いよく身を乗り出してきた。

「学年中、その話題で持ちきりよ……」

 愛莉は呆れたようにため息をついている。

 そして、桃は……。

「あと、そこにいる莉玖翔さんも付き合ってる人がいるって大騒ぎだよ! ま、まさか二人が付き合ってるんですか!?」

 …………。

 あ。

 そこまで考えちゃった?

「えええええ!? そうだったの!?」

 美香が目を丸くした。

「ありえない……」

 愛莉は信じられないというように呟いた。

 …………。

 いや、ちょっと待って。

 まだ何も言ってないんだけど。

「いや、あの……」

「違うの?」

「うーん……」

 どうしよう。

 別に、二人が付き合っていることを隠す必要はない。

 むしろ、それを知られた方が告白は減るはず。

 でも……。

 いきなりみんなに話していいのかな?

 私はちらりと莉玖翔を見た。

 ――莉玖翔、言ってもいい?

 目でそう尋ねる。

 すると、莉玖翔も私を見て、小さく頷いた。

 ――いいよ。この子たちなら。

 ……よし。

「実はね……そうなんだよね」

 …………。

『ええええええっ!?』

 ……うわあ。

 やっぱり。

「信じられない……」

 愛莉は額に手を当てた。

 美香は口をぽかんと開けている。

 そして、桃は……。

「嘘、ですよね……?」

 …………。

 あれ?

 桃?

 なんだか、声が震えてない?

「何、紗奈に手出してんですかっ!!!」

「ちょっ、桃!?」

 ……ええええっ!?

 何!?

 なんでそんなに怒ってるの!?

 桃は莉玖翔を睨みつけている。

 莉玖翔はというと……。

「好きになっちゃったんだから、しょうがないでしょ?」

 …………。

 はあっ!?

 ちょっと!!

 何言ってんのよ!!

 偽装だって言わないの!?

 ……って。

 あ、そっか。

 それを言ったら意味ないんだった。

 でも!!

 だからって、そんな堂々と!!

 ……もう!!

「できるだけ内緒にしといた方がいいでしょ」

 莉玖翔が私の耳元で小さく囁いた。

 ……まあ、確かにね。

 どこから話が漏れるか分からないし。

 私たちが本当に好き同士じゃないって知られたら、また告白されるようになるかもしれない。

 それは困る。

 ……うん。

 ここは合わせるしかないか。

「内緒って何ですか?」

 …………。

 うっ。

 桃……。

 耳が良すぎるんだから……!!

 莉玖翔はそんな桃を見て、にっこり笑った。

「君には内緒だよ」

「はぁっ!?」

 …………。

 あ。

 まずい。

「ちょっ、紗奈!! 何なんですか! 内緒って!!」

 うわあああ!!

 桃がさらに怒っちゃった!!

 ……それにしても。

 桃が男の子にこんなに楯突くなんて、珍しい。

 普段はもっと穏やかなのに。

 ……いや。

 今はそんなこと考えてる場合じゃない!!

「桃、落ち着いて……」

 愛莉が困ったように声をかけた。

「桃ちゃん!」

 美香も慌てている。

「だって!! いきなり出てきたやつに紗奈取られたんだよ!!」

 …………。

 取られたって……。

 私、物じゃないんだけど。

 でも、桃が私のことを大切に思ってくれているのは伝わってくる。

 ……ちょっと嬉しいかも。

 いやいや。

 今はそんな場合じゃない。

「ごめんね。紗奈は桃より俺の方が好きみたい」

 …………。

 はああっ!?

 莉玖翔!!

 何してんのよ!!

 完全に桃で遊んでるでしょ!?

「はぁっ!? 何なの!? 表に出ろや!」

「桃ちゃん!! キャラ崩壊してるよ!!」

 美香が叫んだ。

「いい加減落ち着きなさいって……」

 愛莉も必死だ。

 ……もう!!

 これ、私が何とかしなきゃ駄目なやつじゃない!!

 私は桃の前に立った。

「桃、落ち着いて」

「紗奈! でも……!」

「これは、私の問題だから。ね?」

 できるだけ優しく、でもはっきりと伝える。

 すると、桃は一瞬だけ口を閉じた。

「…………」

 そして。

「ううっ……ごめん。取り乱した」

 ……よかった。

 ようやく落ち着いてくれた。

「分かってくれればいいよ。私も言わなくてごめんね?」

「うん……」

 桃はしょんぼりと俯いた。

 ……まったく。

 本当に、私のことになると大げさなんだから。

 でも……。

 そこまで大切に思ってくれるのは、やっぱり嬉しい。

「さすが紗奈ちゃん。桃ちゃんを扱うのが上手いねえ」

 美香が感心したように言った。

「さすがね……」

 愛莉も頷く。

 ……いや。

 感心してないで、さっきもっと止めてよ。

 私は心の中で小さく突っ込んだ。

     *

「あ、でもさ!」

 ようやく落ち着いたと思った、そのとき。

 美香が突然、何かを思い出したように声を上げた。

 ……え。

 何?

 まだ何かあるの?

「前に紗奈ちゃんに聞いたとき、好きな人とかいないって言ってたし、誰かと付き合うつもりないって言ってたよね?」

 …………。

 あ。

 美香……。

 ぶり返さないでよ!!

「そういえば!」

 桃が顔を上げた。

 ……うわっ。

 せっかく落ち着いたのに!!

「隠してたってわけね……」

 愛莉がじっと私を見た。

 …………。

 うっ。

 みんなの視線が痛い。

 どうしよう。

 確かに、前にそう言った。

 だって、そのときは本当に誰かと付き合うつもりなんてなかったんだから。

 ……いや。

 今だって、恋愛として付き合ってるわけじゃないけど。

 そんなこと、言えるわけないし……。

「あ、う、うん! そうなんだよね……。なんか恥ずかしくてさ」

 ……よし。

 これでどうだ!!

「そうだったんだね!」

 美香は納得したように頷いた。

「まあ、あんなに誰かと付き合う気はないとか言ってたら、言いにくいわよね……」

 愛莉も、少し呆れながら理解してくれたみたい。

「一言ぐらい言ってくれてもよかったのに……」

 桃はまだ少し不満そうだった。

「ごめんごめん」

 私は苦笑した。

 ……はあ。

 なんとか乗り切った。

 それにしても、恋人ができたっていうだけで、こんなに大騒ぎになるなんて。

 先が思いやられるわね……。

「じゃあ、私たちはこの辺で……! 二人の邪魔したらいけないしね!」

 美香がにっこり笑った。

「そうね……」

 愛莉も頷く。

「くっ……。悔しいけど、今日だけだからね!!」

 桃は最後まで莉玖翔を睨んでいた。

 ……桃。

 本当に、何と戦ってるのよ。

 私は思わず苦笑した。

 そして、三人は廊下の向こうへ歩いていった。

     *

「みんな行っちゃったね」

 莉玖翔が呟いた。

「そうね……」

 ……はあ。

 疲れた。

 今日だけで、何回ため息をついたんだろう。

「でも、俺らが付き合ってるって、うまく誤魔化せたんじゃない?」

「まあ、そうね」

 確かに、三人とも私たちが恋人同士だって信じてくれたみたい。

 ……ただし。

「でも、桃で遊びすぎ!」

「えっ?」

「桃、ああなるとなかなか大変なんだから!」

 私は莉玖翔をじっと睨んだ。

 すると、莉玖翔は少し申し訳なさそうに笑った。

「ごめんごめん。あんまり挑発しないようにするよ」

「本当にお願いね……」

 ……もう。

 ただでさえ面倒なことになってるんだから。

 これ以上、騒ぎを大きくしないでほしい。

「私たち二人が付き合ってるって、ギリギリまで隠した方がいいよね?」

 私がそう尋ねると、莉玖翔は頷いた。

「そうだね。付き合ってるって言うだけじゃ通せなくなったときの、切り札みたいなもんだし」

「そうだね」

 ……確かに。

 今のところ、みんなには恋人がいるとだけ伝えておけばいい。

 それでも告白が続くようなら、そのとき初めて相手が誰なのかを明かせばいい。

 ……まあ。

 美香たちには知られちゃったけど。

 あの三人なら、わざわざ言いふらしたりはしない……と思う。

 特に桃は、あんなに怒ってたし。

 ……うん。

 きっと大丈夫。

 …………。

 はあっ。

 でも、よく考えたら……。

 学年中に、私と莉玖翔に恋人ができたって噂が広まってるんだよね。

 ということは……。

 明日も。

 明後日も。

 きっと、いろんな人から聞かれるんだろうな……。

 …………。

 あれ?

 私たち、告白されるのが大変だから付き合うことにしたんだよね?

 なのに……。

 なんだか、前より面倒なことになってない?

 …………。

 はあああああ……。

 この作戦、本当に大丈夫なのかしら……。

〈53時間目・終〉

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