小学校編 38時間目 ―女子を増やそう大作戦!―
〈美香視点〉
「……ねえねえ、みんな!」
私は、ふと思いついたことを口にした。
「ん? どうしたの、美香?」
桃ちゃんが、きょとんと首を傾げる。
「私ね、さっきからちょっと気になってたんだけど……」
「……何?」
紗奈ちゃんが、こちらを見る。
私は、指を折りながら人数を数えた。
「さっき男子たちが、二対八だの何だの言ってたじゃん?」
「ああ……言ってたわね」
「でもさ!」
私は、勢いよく顔を上げた。
「こっちからしてみれば、四対十だよね!?」
「…………」
「…………」
「…………」
一瞬、沈黙が流れた。
そして。
「……確かに」
紗奈ちゃんの顔が、みるみる青ざめていく。
「……お父さんには、絶対に言えない!!」
「……あ」
(……そうだった)
紗奈ちゃんのお父さん。
娘のことになると、ものすごく心配性になるんだった。
(……うわぁ)
もし、今の状況を知ったら……。
女子四人に対して、男子十人。
しかも、みんな同じ家で暮らしている。
(……想像しただけで怖い!!)
「……連れ戻しに来そうね」
愛理ちゃんが、冷静に呟いた。
「うんうん……」
私は、何度も頷いた。
きっと、鬼の形相で迎えに来るに違いない。
……あ。
(……お兄さんも一緒に来そう)
親子そろって、ものすごい勢いで。
「紗奈ぁぁぁ!!」
……なんて叫びながら。
(……ひえぇぇ)
絶対に大騒ぎになる!!
「私のパパも、なんか心配しそうな気がする……!」
桃ちゃんまで、不安そうな顔をした。
「……そうよね」
「うーん……」
みんなで顔を見合わせる。
せっかく楽しく暮らせるようになったのに、これじゃ落ち着かない。
(……よし!)
そこで私は、あることを思いついた。
「はいはーい!」
元気よく手を挙げる。
「美香から提案がありまーす!」
「……何?」
「私たちもさ!」
私は、にっこり笑った。
「誰か誘っちゃう!?」
***
「……え?」
「……誰かを?」
「……ここに?」
三人が、目を丸くした。
「そうそう!」
私は、大きく頷く。
「だって、男子ばっかり増えるのも何か悔しいじゃん!」
「……まあ」
紗奈ちゃんが、少し考え込む。
「帝耀のお父さんには、誘ってもいいって言われてるしね」
「……いいんじゃない?」
愛理ちゃんも、頷いた。
「女の子が増えたら、賑やかになりそうだし」
「でしょでしょー!」
(……よかった!)
みんな、賛成してくれそう!
……すると。
「……ふふふ」
(……ん?)
桃ちゃんが、何やら怪しい笑みを浮かべていた。
「……桃?」
紗奈ちゃんが、眉をひそめる。
桃ちゃんは、にやにやしながら呟いた。
「女の子いっぱい……ウハウハ……」
「…………」
「…………」
「…………」
(……え?)
ちょっと待って。
今、何て?
「桃、やめなさい」
紗奈ちゃんが、すかさず注意した。
「……危険人物ね」
愛理ちゃんまで、呆れたように言う。
「桃ちゃん危険!!」
私も、思わず叫んでしまった。
「ちょっと!!」
桃ちゃんが、慌てて手を振る。
「何もしないよ!!」
「……ほんと?」
「ほんとだってば!」
桃ちゃんは、少し頬を膨らませた。
「でも、女の子がいっぱいいたら嬉しいよね!」
「……まあ、それはそうだけど」
(……桃ちゃん)
時々、何考えてるのか分からなくなるんだよね……。
***
「それでさ!」
私は、話を戻した。
「みんな、誘いたい子とかいるー?」
「……うーん」
紗奈ちゃんが、腕を組む。
「結構重要なことだし、簡単には決められないよね」
「そうね……」
愛理ちゃんも、考え込んだ。
(……確かに)
ただ遊びに来るのとは違う。
一緒に暮らすとなったら、相手にも事情があるだろうし。
誰でもいいってわけじゃない。
(……うーん)
誰か、いい子いないかなぁ。
……そのとき。
「あっ!」
桃ちゃんが、突然声を上げた。
「……ん?」
「私!」
ぱっと顔を輝かせる。
「誘いたい子、いるかも!」
「えっ、ほんと!?」
私は、思わず身を乗り出した。
「誰誰ー??」
「それはね……」
桃ちゃんが、嬉しそうに笑った。
***
「咲姫! 胡実ー!!」
桃ちゃんが、廊下の向こうに向かって大きく手を振った。
すると。
「ほえっ!?」
元気な声が返ってきた。
「桃ちゃーん!!」
「おっはよー!!」
こちらに駆け寄ってきたのは、咲姫ちゃんと胡実ちゃん。
二人とも、いつも明るくて元気な女の子だ。
「おはよおはよ!」
桃ちゃんが、嬉しそうに笑う。
「今日も元気に参りましょー!」
(……あ)
始まる。
「せーの!」
そして、三人は息をぴったり合わせて。
「「「いっくぞー! レーッツゴー!!」」」
(……はい、出ました)
いつもの、あれ。
「……相変わらずね」
愛理ちゃんが、呆れたように呟く。
「ほんと、何やってんだか」
紗奈ちゃんも、ため息をついた。
私は、そんな二人を見て笑った。
「でも、誘うにはぴったりだよね!」
「……まあね」
「そうね」
二人も、頷いた。
(……うんうん!)
やっぱり、いい人選だと思う!
***
「ねえねえ!」
桃ちゃんが、興奮した様子で二人に尋ねた。
「『LET'S GO!!』の最新話、見た!?」
「見た見た!!」
咲姫ちゃんが、勢いよく頷く。
「最っ高だったよー!!」
「分かるー!!」
胡実ちゃんも、目を輝かせた。
「特にさ、あのシーン!!」
「きゃー!!!!」
(……あはは)
始まっちゃった。
『LET'S GO!!』。
それは、桃ちゃんと咲姫ちゃん、胡実ちゃんが大好きな、女の子向けのアイドルアニメ。
三人は、よく放課後にゲームセンターへ行って、関連するゲームで遊んでいる。
私も、桃ちゃんに何度もカードを見せてもらったことがある。
(……ほんと、好きだよね~)
「もう、あそこがさ!」
「分かる分かる!!」
「最高だったよねー!!」
三人は、すっかり自分たちの世界に入り込んでいた。
……そして。
「「「LET'S GO!! 最高の瞬間へ♪」」」
(……あ)
歌い出した。
しかも、打ち合わせなんてしていないのに。
ぴったり揃ってる。
(……すごいなぁ)
……いや。
もう、誰も驚かないんだけどね。
だって、いつものことだから。
「……コホン」
(……ん?)
紗奈ちゃんが、わざとらしく咳払いをした。
「……桃」
「……ん?」
「本題、本題」
「…………」
桃ちゃんが、一瞬固まった。
そして。
「あっ!!」
(……忘れてたんだ)
「そうだった!」
桃ちゃんは、慌てて二人の方を向いた。
「ちょっと、ご相談が……!」
***
「「ええー!!? 帝耀くんの家で、みんなで暮らしてるー!!?」」
「しーっ!!」
(……うわぁぁ!!)
声!!
声が大きいって!!
ただでさえ声がよく通る二人なのに!!
そんな大声で叫んだら、周りにバレちゃうじゃん!!
私は、慌てて辺りを見回した。
(……誰か聞いてない!?)
右。
左。
廊下の向こう。
……よし。
誰もいない。
(……ふぅぅ)
危なかったぁぁ!!
「ちょっと、二人とも!」
私は、声を潜めて注意した。
「声が大きいよ!」
「……あっ」
「ごめん!」
「これは、機密事項なんだから……!!」
私が真剣な顔で言うと。
「……機密事項ですね……!」
咲姫ちゃんが、急に姿勢を正した。
「隊長!」
「隊長!」
胡実ちゃんまで、勢いよく敬礼する。
「詳しく教えてください!」
「…………」
(……え?)
隊長?
誰が?
……すると。
「うーん……」
桃ちゃんが、首を傾げた。
「それが、よく分からないんだよね……」
「「ええー!?」」
(……だから声!!)
私は、もう一度周囲を確認した。
(……この二人、大丈夫かな)
元気なのはいいことだけど。
秘密を守るの、ちょっと苦手そう……。
「まあまあ、二人とも!」
私は、慌てて間に入った。
「落ち着いて!」
「一回、落ち着きましょ……」
愛理ちゃんも、苦笑しながら声をかける。
***
それから私たちは、改めて事情を説明した。
帝耀くんのお父さんの提案で、みんなが別邸に住むことになったこと。
そのあと、男子がさらに増えたこと。
そして、私たちも女の子を誘いたいと思っていること。
「それでね!」
私は、二人を見た。
「咲姫ちゃんと胡実ちゃんも、誘おうってことになって!」
「……え?」
「私たちを?」
「そうなの!」
紗奈ちゃんが、優しく頷く。
「もしよかったら、って」
「…………」
「もちろん、すぐ決められることじゃないと思うけど……」
……と。
紗奈ちゃんが言い終わるか終わらないかのうちに。
「「その話! 乗ったぁぁぁ!!」」
「…………」
(……え?)
「……はやっ!?」
私は、思わず叫んでしまった。
(……即答!?)
ちょっと待って。
そんな簡単に決めていいの!?
「二人とも、本当にいいの??」
紗奈ちゃんも、心配そうに尋ねた。
「女子、私たちしかいないんだよ……?」
「……え?」
咲姫ちゃんが、きょとんとした。
「逆に、いいの!?」
「……ん?」
「私たち、誘われちゃって!」
「うんうん!」
胡実ちゃんも、何度も頷いた。
「そんなすごいところに、私たちまで行っていいの?」
(……ああ)
そっちを気にしてたんだ。
私は、にっこり笑った。
「帝耀くんのお父さんにはね」
「……うん?」
「むしろ、いっぱい誘ってねって言われてるの!」
「…………」
「…………」
二人が、固まった。
(……あれ?)
……次の瞬間。
「なんと太っ腹ぁぁ!!」
「神様仏様ぁぁ、帝耀くんのお父様ぁぁ……!!」
「……ええっ!?」
二人が、その場に倒れ込んだ。
そして、なぜか拝むようなポーズを取っている。
(……ちょっと!?)
何やってるの!?
「……えっと」
紗奈ちゃんが、困ったように二人を見下ろした。
「二人とも……」
「……はいっ!」
「とりあえず、今日来てみる?」
「…………」
二人が、顔を上げた。
「……いいの?」
「うん」
「……ほんとに!?」
「もちろん!」
すると。
「やったー!!」
咲姫ちゃんが、勢いよく立ち上がった。
「桃ちゃん!」
胡実ちゃんも、満面の笑みを浮かべる。
「誘ってくれて、ありがとー!!」
「うん!」
桃ちゃんが、嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、また放課後ね!」
「「うん!!」」
***
こうして。
咲姫ちゃんと胡実ちゃんが、今日の放課後、帝耀くんのお家――吉沢家の別邸に遊びに来ることになりました!
(……ふふっ)
二人とも、すっごく嬉しそうだったなぁ。
私も、今から楽しみ!
(……これで)
女子が増えるかもしれない!
そうなったら、もっと賑やかになるよね。
……まあ。
(……あの二人が来たら)
今より、さらに騒がしくなる気もするけど。
私は、思わず笑ってしまった。
(……ま、いっか!)
楽しいことは、多い方がいいもんね!
〈38時間目・終〉
〈三葉咲姫〉
食べるのが大好きな女の子。アニメが好き。特に女児向けアニメが好きで桃や胡実とよく語っている。
大食いだが太らないという幸運体質。
胡実とよく行った子ども食堂のおばちゃんに胡実と一緒に育てられていた。
将来はアニメに関わる仕事がしたいと思っている。




