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青春学校  作者: むにょこ
小学校編

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39/124

小学校編 36時間目 ―秘密を守るって難しすぎる!―

〈明日夏視点〉

(……ぬわぁぁぁぁ!!)

やってしまった。

またやってしまったぁぁぁ!!

俺は廊下を歩きながら、頭を抱えた。

さっき、莉玖翔と燈李の前で大声を出して逃げてしまった。

しかも、ただ逃げただけじゃない。

「元気もりもりふぁんたじー」なんて、意味不明なことまで言ってしまったのだ。

(……絶対、変な奴だと思われた)

いや、絶対どころじゃない。

もう確定だ。

あの二人の顔を思い出すだけで、恥ずかしくなってくる。

(……はぁぁ)

また、間違った選択をしてしまった。

普通にしていればよかったのに。

普通に挨拶して、普通に会話して、普通に別れればよかったのに!!

(……そもそも普通って何だよぉぉ!!)

もう分からない。

俺は一体、どうすればいいんだ。

***

(……まあ、いいや)

とりあえず、気を取り直そう。

こういうときは、前髪でも直すに限る。

俺はポケットから、いつも持ち歩いている手鏡を取り出した。

(……うん)

今日の前髪も、なかなかいい感じ。

……でも、やっぱり少し乱れている。

(……あーあ)

本当なら、学校のトイレにある大きな鏡で直したいところなんだけど。

(……無理)

あの日以来、俺は学校のトイレに行けなくなってしまった。

いや、正確には。

あの男子トイレに近づくことすら、怖くなってしまったのだ。

(……だってさぁ!!)

思い出すだけで、心臓が嫌な音を立てる。

前髪を直そうとしただけなのに、あんな秘密を聞かされるなんて。

まるで、ある種のPTSDみたいじゃないか。

(……俺の大事な前髪がぁぁ!!)

あの大きな鏡、使いやすかったのに。

もう二度と、気軽に前髪を直せないかもしれない。

(……なんてこった)

秘密を知った代償が、大きすぎる。

俺は手鏡を覗き込みながら、慎重に前髪を整え始めた。

……そのとき。

「明日夏!」

「……ん?」

「大丈夫!?」

振り返ると、遼が走ってきた。

(……あ)

そういえば。

さっき、俺を追いかけるって言ってたっけ。

自分のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。

「……あ、遼」

「よかった、追いついた!」

遼は少し息を弾ませながら、俺の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

「うん。全然大丈夫」

俺は、できるだけ自然に答えた。

すると、遼は心配そうに眉を下げた。

「目、痛むの?」

「……え?」

「保健室、行かなくて大丈夫?」

(……ああ)

そうだった。

こいつ、俺の目が痛いと思ってたんだ。

(……なんでそうなったんだっけ)

……いや。

俺のアイコンタクトを、完全に勘違いしたからだった。

(……遼らしいなぁ)

「目は、痛まないんだ」

俺は、安心させるように笑った。

「大丈夫だよ」

「……え?」

遼が、きょとんとする。

「そうなの?」

「うん」

「……そっか!」

ぱあっと、遼の表情が明るくなった。

「ならよかった!」

「…………」

「心配したんだよ」

遼は、屈託のない笑顔を浮かべた。

(……ああ)

本当に。

こいつって、いい奴だよな。

俺が変なことを言っても、変な行動をしても。

馬鹿にしたりせず、ただ心配してくれる。

(……遼)

お前、ほんと優しいな。

……そう思ったら。

「……なあ、遼」

気づけば、俺は口を開いていた。

「ん?」

「お前、ほんといい奴だよな」

「ええっ?」

遼が、少し照れたように笑った。

「急にどうしたの?」

「……いや」

俺は、手鏡をしまった。

そして。

「お前さ」

「うん?」

「もし、とんでもない秘密を知っちゃったら、どうする?」

「…………」

(……あ)

言ってしまった。

(……しまったぁぁぁ!!)

何聞いてんだよ、俺!!

そんなこと聞いたら、不自然だろ!!

しかも、今の俺が!!

明らかに様子がおかしかった俺が!!

(……ああああ!!)

また、やらかした。

俺は、恐る恐る遼の顔を見た。

……けれど。

「ええっ……」

遼は、特に怪しむ様子もなく考え込んだ。

「うーん……」

(……あれ?)

「俺だったら、誰にも言えないかな」

「……え?」

思わず、聞き返してしまった。

遼は、真剣な表情で続ける。

「だって、秘密なんでしょ?」

「……うん」

「だったら、勝手に誰かに話すのはよくないと思う」

(……そっか)

「でも……」

遼は、少し首を傾げた。

「もしかしたら、自分が危ない目に遭うときなら、怖くなっちゃうかも」

「……危ない目?」

「うん」

遼は、ゆっくり頷いた。

「そういうときは、咄嗟に誰かに助けを求めちゃうかもしれない」

「…………」

(……なるほど)

意外だった。

遼が、こんなに真剣に答えてくれるなんて。

「……そっか」

俺は、小さく呟いた。

(……確かにな)

今回のことは、俺自身には関係ない。

誰かに脅されているわけでもないし。

危ない目に遭っているわけでもない。

……ただ。

偶然、知ってしまっただけ。

(……だったら)

やっぱり、黙っておくのが一番なのかな。

誰にも言わずに。

何も知らなかったことにして。

そのまま、忘れてしまえば……。

(……いや、待てよ)

俺は、ちらっと遼を見た。

遼は、相変わらずにこにこしている。

(……こいつさ)

もし、俺と同じ目に遭っていたら。

そもそも、それが重大な秘密だってことにすら気づかないんじゃないか?

(……だって遼だし)

呑気だもんなぁ。

誰かが秘密の話をしていても、「へえ、そうなんだ!」で終わりそう。

(……いやいや)

そんな奴の言うことを、真に受けていいのか?

……でも、さっきの答えは結構まともだったし。

(……ああああ!!)

結局、分かんない!!

俺はどうするのが正解なんだよぉぉ!!

***

しばらくして、俺たちは莉玖翔と燈李のところへ戻った。

「……あ」

先に気づいたのは、燈李だった。

「明日夏!」

「……ん?」

「大丈夫だった?」

燈李が、心配そうに駆け寄ってくる。

(……ああ)

まだ心配してくれてたんだ。

「いや、俺、別に体調悪いわけじゃないし」

俺は、いつもどおりの調子で答えた。

「目も痛くないから、大丈夫」

「……えっ?」

燈李が、一瞬驚いた顔をした。

そして。

「ほんと!?」

「うん」

「よかったー!」

ぱあっと、笑顔になる。

「心配したよ!」

「……あはは」

(……燈李ぃぃ)

お前も、本当にいい子だよな。

何て優しいんだ。

俺なんかのこと、こんなに心配してくれて。

(……泣けてくる)

いや、本当に。

なんだか泣きそうだ。

(……それに比べて俺は)

燈李たちに隠し事をして。

勝手に焦って。

勝手に変な行動をして。

挙げ句の果てには、心配までかけている。

(……最低じゃん)

……いや、別に悪いことはしてないはずなんだけど。

でも、何となく申し訳ない。

「……明日夏?」

燈李が、不思議そうに首を傾げた。

「どうしたの?」

「……いや」

俺は、慌てて笑った。

「何でもない!」

(……危ない危ない)

また変な顔してたかもしれない。

今日はもう、余計なことを考えないようにしよう。

***

「みんな、おはよー!」

(……ん?)

明るい声が聞こえた。

振り返ると、湊と久遠が登校してきたところだった。

「朝から集まって、どうしたの?」

湊が、不思議そうに尋ねる。

「おはよう」

久遠も、いつもの落ち着いた様子で挨拶した。

「おはよー!」

俺は、手を振った。

(……ああ)

湊も、いい奴なんだよなぁ。

久遠も、真面目でいい奴だし。

(……ほんと)

こっちの人たち、みんないい人すぎない?

燈李も。

莉玖翔も。

遼も。

湊も、久遠も。

(……それに比べて)

俺は、ふと吉沢派の奴らの顔を思い浮かべた。

(……あっちの人たち、怖いんだよなぁ)

何かにつけて、からかってくるし。

距離感も妙に近いし。

それに。

(……明日夏ちゃん、って!!)

俺のこと、明日夏ちゃんとか呼ぶんだぞ!?

(……誰がちゃんだよ!!)

俺は男だ!!

立派な男子小学生だぞ!!

(……ったく)

あいつら、絶対面白がってるだろ。

特に、蓮とか華人とか。

(……はぁ)

できれば、あんまり関わりたくない。

……でも。

(……あいつらと一緒に住んでるんだよな)

俺は、ちらっと莉玖翔と燈李を見た。

(……あ)

また思い出しちゃった。

(……忘れろ、俺ぇぇ!!)

***

「……あれ?」

久遠が、周囲を見回した。

「勇と綺は、まだ来てない?」

そういえば、まだ見てないな。

すると、莉玖翔が思い出したように答えた。

「さっき、街頭指導だって」

「……ああ」

「明日夏たちが来るちょっと前に、すれ違ったよ」

「そっか」

久遠が、納得したように頷いた。

(……街頭指導)

俺は、思わず感心した。

(……勇と綺、偉いなぁ)

毎日、朝から街頭指導なんて。

雨の日も。

雪の日も。

ちゃんと委員会の仕事をしている。

(……すごいよな)

眠い日だってあるだろうに。

面倒くさいと思う日だってあるだろうに。

それでも、きちんと続けてるんだから。

(……偉い!!)

本当に偉い!!

(……それに比べて)

俺は。

朝から何をしていた?

莉玖翔と燈李を見て、勝手に動揺して。

意味不明なことを言って。

突然叫んで逃げて。

遼に心配をかけて。

挙げ句の果てには、秘密の相談までしてしまった。

(……あああ)

朝から大失敗じゃん!!

俺は、がっくりと肩を落とした。

(……はぁぁぁ)

みんな、ちゃんとしてるなぁ。

俺も、もう少ししっかりしないと。

……いや。

(……その前に)

この秘密、どうにかしないと。

でも、どうすればいいのか分からない。

誰かに相談したい。

だけど、相談したら秘密を話すことになってしまう。

(……うわぁぁ)

秘密を守るって、難しすぎるだろぉぉ!!

俺は、心の中で叫んだ。

今日もまた、長い一日になりそうだ。

〈36時間目・終〉

〈雨宮湊〉

歌がめちゃくちゃ上手な心優しい子。漢字が苦手で極度の運動音痴。

赤ん坊の時から施設で育ち、そこの先生からギターを習った。

同じ施設で育った望結は、妹のような存在らしい。

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