12 思いがけない出来事。
《マリー》
エレオノール様に何か仰られたのか、フェリポー様が婚約者らしい振る舞いをして下さる様になった。
とても嬉しいけれど、素直に喜ぶ事が出来無い。
きっと、私に侵略の口実だったと思わせない為、礼節の範囲内の社交辞令。
魔獣を得てしまった私には分かってしまう。
彼は私を好いてはいない、と。
「ありがとうございます、フェリポー様」
せめてもの、私の矜持。
一線を越えない事が、私なりの誠意の示し方。
「フェリポー様、陛下がお呼びです」
《あぁ、では》
「はい、行ってらっしゃいませ」
私の心根が澄んでいるそうですが、ココの方々も十分に澄んでいらっしゃると思います。
私に嫌がらせをする方は勿論、贔屓も偏りも無しに接して下さる方ばかり。
外見の事も。
過度に褒める事も、貶す事も無い。
とても穏やかで優しい場所。
『あぁ、やっと見付けた』
「あ、私でしょうか」
《お下がり下さいロベスピエール様》
『何故、ジャンの友人として、挨拶に来ただけなんだけど』
《フェリポー様より接触させぬ様にとのご命令ですので》
『僕ね、ジャンを愛してるんだ』
《行きましょうアントワネット様》
「あ、はい」
『僕は本物の血筋だよ!!君の居た国のね!』
怠惰国の、本物の血筋。
では今の王族は。
《ロベスピエール様のご乱心です!直ぐに捕縛を!!》
陛下からの呼び出しの、ほんの一瞬をマクシミリアンに付け入られた。
アントワネット・マリーは、真実に気付いてしまった。
「偽物の王国だから、誰も相手にしなかったんですね」
以前の彼女同様に、悲壮な表情を浮かべるワケでも無く。
ただただ無表情のまま、淡々と吐露した。
《段階を経て、君にも教える手筈だった》
「そうですよね、突然では驚いてしまいますから」
《すまない、暴走させたのは私だ》
距離を置き、更には私に婚約者が出来た事が許せなかったらしい。
しかも本来なら母国である筈の、怠惰国の者。
「当然です、私では嫌でらっしゃっても仕方無い」
《それも私のせいなんだ、すまない》
「いえ、分不相応なのは確かです、どうか婚約破棄をしては頂けませんか」
傷付けるつもりは無かった。
彼女を幸福にする為に連れて来た筈が。
《すまない、必ず納得させる》
「いえ、それよりお仕事をなさって下さい、そんな事より真の王族をお支え下さい」
どちらかを選ばなければならない。
選んだつもりで居た。
つもり、程度だった。
《すまない、必ず君を幸福にさせる、本当にすまなかった》
「あ、フェリポー様」
彼女1人を幸福に出来ず、何が宰相だ。
『良くもっ、私のっ、可愛い、妹をっ』
許さない、絶対に許さない。
何が真の王族ですか。
こんな男より、マリーの方が。
《エレオノール!マクシミリアンは》
『何が真の王族ですか、人を傷付ける為に家名を使うだなんて。許さない、絶対に』
《コレ以上は君まで怪我を》
『目に見える傷が何です、見えない傷こそ気を配るべきだと言うのに、この男はっ』
《腐っても真の王族なんだ》
『だからって許されるとでも仰るの!!この卑怯者!!だから滅ぼされたのよ屑王族が!!恥晒し!!』
《エレオノール、後は私が罰する》
『どうかしらね、散々に甘やかしてコレでしょう、アナタの罰は当てにならないわ』
《私は家を捨てる、マクシミリアンもだ》
『そんな、ねぇ僕が悪かったから』
『そう、なら任せるわ』
『ねぇ、嘘だよね、あんなに頑張って』
《お前が台無しにした、私が台無しにさせた》
『何で、そんな女1人の事で』
《彼女を幸せに出来なければ、国が滅ぶとしてもか》
『だからって、何でジャンが』
《私もそう思った、だからこそ私はお前に任せたらしい》
『何の事』
《私は宿星だ》
『あぁ、成程ね』
《嘗ては彼女も宿星だった。アントワネット・マリーが帝国に侵略を請いに来た、けれど悪魔は彼女の幸福を願い、やり直しを行った》
『けど、でも、ジャンじゃなくても』
《お前にも同じ事が言える筈だ》
『僕はジャンしかダメなんだ、ジャンじゃなきゃ』
《思い込みでは無いと何故言える》
『試したよ、女も男も』
《思い込みでは無いとどうして言える、私は便利だろう、お前にとっては確かに適任者だろうな》
『違う!僕は』
《誰かの犠牲の上で成り立つ幸福を、幸福と感じられる王族に仕える義理は無い》
『ジャン』
《間違っていたんだ、結局は彼女を犠牲にしてしまっていた》
『ごめん、謝るから』
《いや、覚悟が足りなかった私の失敗だ》
『もう何もしないから!言う通りにするから!!』
《1度では済まない、その事も想定が甘かった。すまない、もう1度だけ、やり直させて欲しい》
《良いわ、頑張って》
私は、初めて悪魔を見た。
どんな像より慈悲深い微笑みで、その後光の後ろに地母神さえ見えた気がした。
あぁ、確かに神々はいらっしゃる。
マリーを、とても大切に思って下さっているのね。
《マリー》
怠惰国に初めて、諸外国から使者が訪れる事になり。
王子の婚約者候補である私達が、先ずはお出迎えさせて頂いたのですが。
その時は何も無かったのです。
穏やかにご挨拶なされ、何事も無く私達は下がる事に。
そして馬車で家に着いたと同時に、何故か帝国の方がいらっしゃった。
赤茶色の髪に、綺麗な緑色の瞳の方、帝国の使者でらっしゃるフェリポー・ジャン次期侯爵候補が。
そして、私を婚約者に、と。
私は王子の婚約候補の1人だった筈なのですが。
候補から外す手紙と共に、帝国領へ花嫁修業に行けとの勅命を受け。
帝国領に来てしまい。
フェリポー様の婚約者候補の1人として、学園なる場所に通う事に。
私は14才、フェリポー様は19才。
そしてフェリポー様のご友人でらっしゃる、ロベスピエール様は16才。
学園は16才で卒業ですので、ロベスピエール様は今年ご卒業。
フェリポー様は、教員補佐として働いてらっしゃり。
「あの、候補の1人ですので」
《周囲の者が君に決めている事を覆したいなら、成果を出せば良い》
「あの、私が覆したい場合は」
《何が不足か言って欲しい、直すべき所が有れば直す》
「私に不足が有るのです」
《私が補う、何が不満か言ってくれないだろうか》
何度目のやり取りでしょうか。
私では力不足だと何度もお伝えしているのですが、全く聞き入れては下さいません。
怠惰国は情操教育含め、圧倒的に教育不足なのです。
なのに何故か、私を好いて下さっているのです。
謎なのです、全く分かりません。
『いらっしゃい、フェリポー、それと私の妹』
《あぁ》
「お邪魔致します、エレオノール様」
ココまで、とても長かったわ。
幼い頃、ジャンは宿星として目覚めた。
そして早々に私との婚約を破棄し、庶民に下る手伝いもしてくれた。
代わりに私はジャンに協力した。
ジャンの中に情愛が芽生えるかどうかの手伝いや、マクシミリアンについて。
危うかったわ。
幼いながらにマクシミリアンは僅かに歪んでいた。
真の王族で有る事の不安を、ジャンに依存する事で解消しようとしていた。
愛着と情愛の混同、その違いを分からせるのに少し手間取ったけれど、何とか区別させる事が出来た。
問題はマリーの居る怠惰国。
あまり悠長に構えていては、マリーが処刑されてしまうか、娶られてしまう。
「あの、初対面かと」
『ふふふ、まだ言って無いのね』
《私は、宿星なんだ》
ジャンが宿星となる前は、マリーが宿星だったらしいの。
そして、とてもとても大変な思いをしていた。
そこで嘗て女神様だった方、ソロモン72柱29位、アシュタロト勲功爵がお力を貸し。
マリーは幸福になる筈だった。
けれど、ジャンが日和り、マクシミリアンが利用し。
とても貴族の女とは思えない道を選ぼうとした。
確かに結婚が全てでは無いわ。
けれど結婚に夢すら見られないだなんて、愛される事を放棄するだなんて、あまりに惨い事。
幼い私は泣いたわ。
可哀想なマリー、愛を知らず何度も生を終えたマリー。
だからこそ協力した、可愛いマリーを妹として可愛がる日を夢見ていた。
だって私、末っ子なんだもの。
「では、以前の私を知ってらっしゃるから」
『ふふふ、それは少し違うわ、だってジャンはポンコツだもの』




