11 選択。
「何て素敵な触り心地」
「我に魅了されぬ者は殆ど居らん」
「では、フェリポー様も」
《ジャンとお呼び頂いて構いません》
きっと、私は侵略の口実。
ココに居るだけで、如何に向こうとは違うかが良く分かりました。
教育水準が違うのです、あまりに皆様は出来た方ばかり。
『ジャン、入るわよ』
《あぁ、忘れてましたロフシュコー伯爵令嬢、婚約は破棄となったかと。お帰り下さい》
『なっ、アナタ』
《庶民に好いた方が居られるのでしょう、どうぞお好きに添い遂げて下さい》
『アナタ、いつ』
《後は何か》
『誘拐したそうじゃない』
《いえ同意頂き連れ帰ったまでです》
『アナタね、その鉄仮面で迫ったのでしょう、こんなに若い子に断れるワケが無いじゃない』
《だとして何の関係が》
『罪滅ぼし位は、させなさいよ』
キラキラとした金髪に、真っ青な目の色の綺麗な方。
まるで絵本の中のお姫様。
《貴族籍をさっさと抜き、お相手に婚姻を申し込むべきでは》
『貴族としての負債は残せないわ、良いから協力させなさいよ』
《なら負債は私が》
『それじゃ意味無いでしょうよ、お嬢さんお名前は?』
「あ、はい、アントワネット・マリーと申します」
『私はエレオノール、アナタの教育係になるわ』
《余計な事を、彼女には既に》
『似た年の方が良いわよね?ココでの社交も覚えないといけないのですし』
《アナタの周囲には敢えて禄でも無いのが居るでしょう》
『その処理だって時間が掛かるのよ、良いじゃない、私とお友達になりたいわよね?』
「あの、1つお伺い出来ますでしょうか」
『何かしら?』
「何故、フェリポー様ではダメなのでしょう」
『鉄仮面で可愛く無い、計算高い所が本当に嫌、素直で情に脆い子が良いの。こんな相手じゃ、一生裏を考えなきゃならない、何も素直に喜べないの』
「その、伯爵家のご令嬢でも」
『ウチって多産なのよ、しかも末の私が嫁いだ後には、既に兄が継ぐ事になっているし、姉に至ってはもう2児の母。アナタご兄弟や姉妹は?』
「いえ、母の産後の肥立ちが悪く、私1人で我慢頂いていまして」
『アナタね、産めない方が悪いのよ、予備を残せない親が悪いの。アナタはアナタで生きて良いの、嫌なら意地でも複数産むべき、我慢すべきは寧ろ親よ』
「フェリポー様」
《端的な物言いが過ぎますが、はい、その通りです》
『子も親も選べない、ならより理想に近い子を得る為、複数を産むべき。それが出来無いのなら我慢するしか無い、何でもは得られないわ』
理屈は分かります。
頭では分かっていても、私の心根が追い付かない。
《ロフシュコー嬢》
『箱入り娘に育てたいなら構わないわ、けれど残される方の身になりなさい、愛が有るなら彼女に選ばせるべきよ』
「あ、大変良くして頂いております。とても、身に余る程に」
専属の教師を付けて頂き、各国の常識を教えて頂く事になっている。
そしてお父様やお母様だけで無く、親戚や友人、領民まで保護して頂いている。
これから破滅へ向かうであろう国から、救い出して頂いた。
そのご恩返しが出来るのか、不安で堪らない。
《マリー》
「私、まだ詳しく学べてはいないのですが、如何に不出来かは分かります。どうか婚約者などでは無く、一貴族として扱っては下さいませんか」
『私はそうしてあげる、アナタが気に入ったわ』
「あ、ありがとうございます、ですが」
『良いでしょう、フェリポー様、このままではいずれアナタは彼女を泣かせるわ』
《分かった》
『仲良くしましょうね、マリー』
私に、可愛い可愛い妹が出来た。
落ち着いた色合いの髪色に、癖の無い真っ直ぐな毛質。
金色の瞳に、可愛らしいソバカス。
素朴にして純朴、素直で曲がりの無いお嬢さん。
稀有。
確かに心根の本当に良い子、あの評判が最悪な国で生まれ育ったとは思えない程、綺麗な心根。
「あの、私の顔に、何か」
『肥沃な大地、朝焼けの湖面、若しくは美味しそうなクッキーに見えているの』
「クッキー」
『ほらココに、ゴマかしら、それともケシの実かしら』
「コレは、単なるソバカスで」
『美味しそうなアクセントよ、とっても美味しそう』
「私は、エレオノール様のような美しさが羨ましいです」
『金髪碧眼が珍しいのかしら』
「それも、有りますけれど」
『肉親全員こうなの、多いのよね、北部は特に』
「絵本のお姫様みたいで」
『あぁ、絵本まで違うのね、ウチのお姫様はアナタの外見よ』
「えっ?」
『本当よ、しかもお化粧で幾らでも変身出来てしまうの、本当に羨ましいわ』
派手なだけ、なんですもの。
淑やかにも美しくも可愛らしくもなれる、そんなお姫様になりたかったけれど、コレだものね。
「何故、こんなにも違うのでしょう」
『そうねぇ、賢い子ね、ふふふ』
何でも疑問に思う。
本当に、良い子を見付けて来たわねジャン。
「で、どうするつもりだ」
《どう、とは》
「攫って来たものの、懐いているのはエレオノール、お前は仮にも婚約者だろう」
《選ばせるつもりだが》
「はぁ、無責任なヤツだ」
《何故そうなる》
「口説きもせず流れに身を任せようとする者が、無責任では無いとでも言うか」
《いや、だが彼女は想像以上に無垢なまま、下手に影響させては》
「このままでは、やはり侵略の口実に過ぎなかった、そう落胆させる事になるぞ」
《あくまでも、彼女を幸福にする為に連れて来ただけ、私のモノにする為では》
「ではお前のモノになっては不幸になるか」
《出来るだけ、彼女に選ばせたい》
「なら選ぶ材料を提供してやっても良い筈、何を躊躇う」
《情愛を傾ければ、彼女は断れないだろう》
「覚悟を決めれば良いだけだろう、何を隠している」
《マクシミリアンと、約束をしたんだ》
「全くお前は、全て話せ、全てだ。でなければ一切協力してやらん、一切、だ」
《分かった》
アントワネット・マリーは、王妃を経て幾度となく転生し。
母国への侵略を願うに至った。
そこまでは人種の先達の思惑通り。
だが、アントワネット・マリーは自らの幸福を追求しようとはしなかった。
マクシミリアンに腹を貸し、王族の血を残した事で恩を返し終え。
終生、教育者としての道を行く事を選んだ。
しかもだ、マクシミリアンとコレを添わせるなど。
「女の人生は婚姻こそ全てだとは言わんが、どうしてそうなる、何故婚姻の末に幸福になろうとしなかった」
《婚姻から得られる幸福に、彼女は期待していなかった。諦める前に、望んですらいなかった》
「それでか、無垢なる彼女を救い出し、選ばせる」
《期待をさせてやりたい、けれど私で無くとも構わない筈だ》
「それはマクシミリアンもだろう」
《だが、私を相手とするのは妥当だ》
「そうだな、お前が女になれば」
《いや、向こうではマクシミリアンが女性化した》
「何故だ、お前に女性化させればマリーを巻き込む必要は無いだろう」
《コレでも、一応は宰相になったんだが》
「ではマリーは、結局は道具として扱われただけ、か」
《そして、そう望ませてしまった》
コレだから誰も宿星にと望まぬのだ。
幾度もの人生の果てに有るのは、諦め。
何も良き事だけが経験となり、積み重なるワケでは無い。
負の経験もまた積み重なり、酷い時は身動きが取れなくなってしまう。
最も勘から遠退き、退化してしまう行為。
人らしい一進一退だが。
誰にも気付かれず、以前のアントワネット・マリーの様に、ひっそりと終生を終える事になる。
それを誰も望まぬと言うのに。
人は勝手に縮こまり、身動きが取れぬと泣き喚く。
脆くも弱い生き物。
何と不器用な生き物なのだろうか。
「どちらかだ、どちらかを選ぶしか無い、誰しもな」




