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第10章 エピローグ

 これで最終章となります。


 今回の長期外遊も、長兄がフェンドルン王太子の外務省の担当官吏として追随していたし、彼らがいかに親しい間柄なのかは間近で見ていてわかっていた。 

 しかし、なんと二人は、王太子が十歳で外交デビューした時からの縁だったらしい。


 そう、例のカルフール王国への初訪問だ。あの時兄はまだ成人を迎えたばかりの頃で、官吏に成り立てだった。


 それなのにそんな大役を任されていたなんて、やはり兄はかなり優秀だったようだ。


 そして付き添いの官吏の中で一番年齢が近かったので、二人はすぐに親しくなったらしい。


 しかもその時兄は、何気に私の話もしていたみたいだ。恥ずかしい妹自慢を。

 だから仔猫騒動があった時、王太子はすぐに私の正体に気付いたのだという。


 


 それにしてもお兄様と王太子はよく似た性格をしているらしい。だから気が合ったのかしら?


 メリッサとの婚約が決まった頃、フェンドルン王太子は兄に、それまで誰にも言えなかった愚痴を思わず口にしてしまったという。


 当然兄はメリッサとは幼なじみのような関係だったので、彼女のことはよく知っていた。

 だから、彼女では王太子の婚約者、未来の国母になるには無理があると思っていたらしい。


 上に立つ者は孤独だ。そのたった一言で、国の、そして国民の運命を変えてしまうのだから。

 だからこそそんな過酷な使命を持つ天上人には、寄り添い助け合える人が絶対に必要なのだ。

 しかし、それはメリッサでは無理だと兄は思ったそうだ。


 


 そして兄が目を付けたのが私だったらしい。

 しかもそれはなんと王太子も同じだったというわけで、あの歓迎パーティー後に王太子から密約を申し込まれた時、速攻でそれを受けたらしい。


 道理で私に婚約の話が一切なかったわけだ。

 てっきりそれは我が家が持参金を準備できないからだと思っていたけれど。さもなくば私が兄姉達のような美しい容姿に恵まれなかったせいなのかと。


 


「お前が恋愛や結婚、男性に興味ないことを知っていた。だから誰でもいいのなら、本気でお前を望んでくれる王太子殿下がいいかなと思ったんだよ。 


 そもそも妃になれるだけの能力がお前にはあると思っていたからな。


 けれど、お前の幸せを一番に考えていたから、どうしても結婚したくないと言われたら、正式な契約じゃないのだから断ろうと思っていたよ」


 


 なんて兄は言っていたけれど、その言葉を正直信じられない。本当かしらと。でも結局私は王太子を好きになってしまったのだから、兄を責めることはできない。


 そしてこのことは我が家の両親と国王陛下夫妻も大分前から了承していたらしい。


 なんて手回しがいいのかしら、フェンドルン様って。


 


 そうそう、今日から私は婚約者を名前呼びすることになった。

 思いが通じ合ってからというもの、私が敬称呼びをする度に彼は不機嫌になっていたけれど、公私は分けなければと思っていたので、ずっと殿下と呼んでいたのだ。


 でもどうせ名前呼びをするのならと、『フェン』という愛称呼びを誕生日プレゼントとして贈ったわ。


 それと、王太子の象徴である大鷹を刺繍したハンカチを。


 その大鷹の刺繍はなかなかの出来だと自画自賛している。翼を広げて大空を舞うデザインにしたの。将来広い視野で社会全体を見渡せる国王になれますように、との願い事を込めて。


 


『フェン』はそれはもう喜んでくれたわ。あんな幸せそうで嬉しそうな笑顔を生まれて初めて見たわ。その笑顔が見られただけで私も僥倖です。しかも、


 


「ありがとう。最高の贈り物だよ、愛してる」


 


 と言って優しいキスを返してくれた。優しいといっても、それは軽いものではなく大人のキスを。


 私は前世でもこの世界でも、男性からこんなに素敵な笑顔を向けられたことはなかった。そしてこんな幸せにしてくれる言葉をもらったことも。


 


 


 フェンの誕生日の一週間後、学園の卒業式があった。

 最終学年を半年間しか通わなかった私が久し振りに現れて、首席として名前を呼ばれた。

 そして卒業生を代表して登壇すると、周りからざわめきが起こった。


 私はそれを無視して堂々と答辞を読んだわ。この半年、近隣諸国を周って外交の手伝いをしてきた私には、かなり度胸がついていたので、この学園の生徒の反応なんて気にもならなかった。


 それにこの後起こるであろう出来事を想像すれば、なおさらなことだった。


 


 案の定、式典の後に卒業記念のダンスパーティー会場へと様変わりした講堂の中は、私が王太子フェンドルン殿下のエスコートで会場入りすると、ものすごい歓声と悲鳴が轟いていたのだから。


 


 フェンの色である薄茶色のスパンコールの花柄ドレスに身を包んだ私と、私の色である薄いグレーのスーツ姿のフェンは、音楽に合わせて軽やかにステップを踏んだ。


 この半年、各国の社交場で踊り続けてきた私達のペアは完全に出来上がっていたので、周りからは感嘆の声が上がった。


 しかもフェンは落ち着いた色合いの服装をしながらも、これまでは顔を隠すように垂らしていた前髪を後方へ撫で付けて、眼鏡を外し、その整い過ぎる美しい顔を惜しみなく晒していたので、ため息がこぼれるほど煌めいていた。


 そして痩せマッチョの均整の取れた体躯に、男女漏れなく皆見惚れていた。


 


 うふふっ、この素晴らしい方が私の婚約者なのよ、と私は自慢げに微笑んだ。


 こんな図々しい思考をするなんて自分でも信じられない思いだが、会場入りする直前にその婚約者から、


 


「フランシーズ、本当に綺麗だよ。君はまるで女神のようだ。


 六年間ずっと思い続けた君が、私色に染まってくれるなんて、こんな幸せはないよ。この世界一素敵な君の婚約者はこの私なんだと、みんなに自慢して回りたいよ」


 


 なんて言われたのだから、仕方が無いわよね?


 こんな素敵な人にそう言われたら、私自身も彼と同じくらい素敵な人間なのだと思わなければ、やっていけないものね。他人になんと言われようとも。


 だから今日から私は、もうモブでいることをやめようと思っている。


 王太子であるフェンの横に立ち続けるために……


 


 


 


 ✽✽✽✽✽✽✽


 


 


 


 フランシーズが学園を卒業して、王城で女性初の官吏として働き始めて二か月後、メリッサとコンドール辺境伯が辺境の地で結婚式を挙げた。


 


 国王夫妻に王太子とその婚約者、そしてカルフール王国の王太子と元義父である騎士団長までが参列する、一度目と変わらないほど立派な式だった。


 その結果、辺境伯がいかにメリッサを大切に思っているのかを、皆に周知させることになった。


 愛らしい二人の子供達と手をつなぎ、夫と微笑み合う花嫁の姿はとても幸せそうで、フランシーズは感動で胸が一杯になって涙が溢れた。


 そして、親友の恋を応援したいという彼女の願いを代わりに実現してくれたフェンドルン王太子に、彼女は深く感謝したのだった。


 


 


 それから半年後、今度はフランシーズとフェンドルン王太子が、王都で盛大な結婚式を挙げた。


 


 二人の結婚式は王族としては異例といえるほど婚約期間が短かった。


 それにもかかわらず盛大かつ完璧な挙式を何の不備なく行い、他国の招待客から絶賛された。


 なぜそれが可能だったのかというと、少なくとも今から三年以上前から、密かに準備が進められてきたからだった。


 しかし、その事実を知っていたのは、王家と花嫁の実家、そしてなぜだか、この結婚式に婚約者とともに招待されていた、隣国カルフール王国のタイドユ王子だけだった。


 




 二人はこの上なく幸せそうだった。


 


 


 地味なカップルとして有名だった、シャローン王国の王太子とその婚約者だった伯爵令嬢。


 ところが結婚式で二人のその素顔を初めて見た各国の王族や首脳陣は、その秀麗さと優雅さに絶句して見惚れた。


 


 頭でっかちで冷徹な人間だと思っていたあの王太子が、こんなに眉目秀麗だったとは……


 完璧に仕事をこなすだけの地味令嬢だと思っていた伯爵令嬢が、これほど才色兼備だったとは……


 


 国内外の多くの未婚の招待客達が、惜しいことをしてしまったと非常に悔しがった。


 


 


 王太子妃となったフランシーズは、その後片時も夫であるフェンドルン王太子の側を離れなかった。


 そしてある時は補佐として、またある時はアドバイザーとして意見を述べ、楽しそうに夫と討論を交わしていた。


 女性がいかに優秀なのか、彼女は気負うことなく自らそれを証明した。それによって、遅れていたこの国の女性の地位も徐々に向上していった。


 やがて四人の子供にも恵まれ、王妃となったフランシーズは日々忙しそうだった。

 それでもいつも微笑みを忘れず、夫と共にシャローン王国をより良い国へと導いて行ったのだった。 

 最後まで読んでくださってありがとうございました。

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