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100.エレガントがくれるもの

 ついに姿を表した閻魔 文華!

 しかしその姿に騎士の誇りはなく、やつれ果てていた

 その異様さに、うさぎは息をのむ

 なぜなら、彼女も同じ騎士の誓いを立てたから

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


 騎士叙任式を、4歳のころにうけた。

 閻魔 文華に、魂呼長官が腕を吹き飛ばされた直後にね。

 私は、無力感に打ちひしがれた。

 そんな私を見かねて、安菜は精一杯考えてくれた。

 騎士の証である剣を、主君としてさずけてくれたんだ。

 くれた剣は、お家にあったリッパな包丁。

 全く使わないらしい。

 20万円位すると言ってたっけ。

 で、問題がひとつ。

 包丁を他人に見られたら。

「危ない! 子どもが刃物を持っちゃいけません! 」

 こんな感じで怒られる。

 だから普段、人がいない山奥の神社ですることにした。

 幼稚園の遠足で行ったこともあるし。


 歩いてるうちに、安菜が前を行く。

 それが気に入らなかった。

 気がつくと、かけっこしてた。

 神社に着いたときには、汗だくだった。

 どちらかと言うと肌寒い日だったはずなのに。


 安菜が神社の扉の前、拝殿に上がる階段に立つ。

 私はその前にひざまつき、頭をたれる。

 包丁の背で安菜が私の両肩をたたく。

 これがアコレード。

 見届け人も、ごちそうもない。

 私たちの誓いだけが残った。

 

 そうなんだ。

 その時もらった包丁は、もうないんだ。

 包丁がないのを、安菜のお母さんが気づいた。

 安菜は問い詰められたけど、何も話さなかった。

 それを見た私は、その場で理由を話した。

 すぐに包丁をかえした。


 だから、私が騎士だという証明は、ない。

 それでも、誓いは残ってる。

 弱き者の守護者、希望と希望をつなぐ架け橋、最もエレガントなパイロットになれ。

 4歳が考えたにしては、しっかりしてる。

 だから、本物の騎士の、気持ちはわかってるつもりなんだ。


――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


(そう思ってたんだ。

 だけど、あれは? )


 私のウイークエンダー、ブロッサム、ディメイションは、ある一点を囲んで長距離から監視体制にはいってる。

 さっきの訓練どおりにわかれて。

 パーフェクト朱墨は上空を旋回しながら。


 中心にあるのは、道路の交差点だった。

 街と百万山神社を、山沿いと川沿いで挟んでいた道が合わさる。

 そこから金沢市へつなげる道だよ。

 交差点はボルケーナ女神像の真下にあった。


 少なくなってたパトカーのサイレンが、また増えた。

 せっかく戻ってきた市民たちも、また避難しなくてはならなくなった。


 ハンターキラーも自衛隊でも、遠巻きに見張るしかない。

 彼らが道をライトで照らしながら、閉鎖する。

 地球製の戦車や装甲車。ライオン、キツネ型の宇宙製ロボットで。

 これからは、地球製から宇宙製ロボットに主力が変わってくのかな。

 だけど、どれも閻魔 文華だと。

 相手になるとは思えない。

 それは、あっちのパイロットたちもわかってるらしいね。

 道を塞いだあとは戦車からもロボットからもおりた。

 そして後方へ走っていく。

 道を塞いだのは、さらに後方の人々を守るため、少しでも壁にするためなんだ。

 自分たちは、剣でも銃でも使うんだ。

 言わば、歩兵として戦うつもりだ。


 交差点には、信号以外は動くものはなくなった。

 ただひとつ、不自然なものがある。

 青いベンチがある。 

 たぶん、木を青くペンキで塗った、三人座れそうなシンプルな物が。

 焼かれたり、どこかから投げ飛ばされたわけでもない。

 ただ、熱源探知で見るとわかる

 下に、何か暖かい物がある。

 ちょうど、人間くらいの。

(あれが、閻魔 文華? )


 戦車が封鎖する道から、小さな影が進みでた。

 黄色い車両型ロボットだ。

 小さなタイヤで走る車体に、1本だけアームを乗せてる。

 カメラとマイクはついてる。

 映像が配信されてくる。


 ロボットがライトに照らされたベンチ。

 それを細長い、それでも人よりは太いアームがつかんだ。

 そして、ひっくり返した。

 下に黒い何かがあった。

(これが、熱源探知に写った暖かいものなの? )

 怖い。

 閻魔 文華がしてきた悪行が頭をよぎる。

 そいつが今、何を起こすのか。

 恐ろしい。

 

 黒いものが、ゆっくり持ちあがった。

 動き始めると、それが何なのか分かりだした。

 黒いものは、雨ガッパ。

 だけど、ボロボロの穴だらけ。

 役に立つとは思えない。

 それと、長い黒髪だった。

 白い手が、髪をずらす。

 その手は、丸みを帯びた骨や青い血管が浮きでていた。

 髪から現れた顔は、白く、鼻は高い。

 顔立ちはほっそり?

 どうだろう?

 ほお骨が浮きでるほど、やせこけていたんだ。

 それでも。

「閻魔 文華だ」

 間違いなかった。

 赤い目をもつ強大な魔法使い。

 暗号世界の王女。

 魔術学園の、はじまって以来の犯罪者。

 

 それが汚れた顔で、特徴的な目で、無表情でロボットを見つめていた。

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