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84.ドロ試合の予感

 雨の空がかき回される。

 黒い炎の巨人が宙を舞うから。

 失った腰からロケットのように黒い火を吐きながら。

 前から見ると1つ目に、頭の左右にもついたは、丸い窓、のような目は無表情のままだよ。

 その牙のならんだ口からは、雨にも雷にも負けず。

「うわあああ!!! 」

 困惑の叫びを、数秒遅れでひびかせる。

 そのままの勢いで落下するのは嫌なのか。

 絶妙のバランスで炎を地面に向けている。

 良い腕だって思うよ。

「当分、落ちてくることはないでしょう」

 はーちゃんがAIらしからぬアバウトな説明をした。

 いえ、それは偏見かもしれないな。


 それにしても、あの巨人。

 なんと言うか、実用的な知識を持ってない感じ?

 彼らを鍛えた、閻魔 文華。

 いえ、鍛えたと言えるのかな?

 はーちゃんを送り込んだのは、閻魔 文華。

 だけど、こん棒エンジェルスたちは、閻魔 文華を探せと言う。

 どうも、はっきりわからない。

 そんな曖昧なもののために、みんなが苦しんでる。

 怖くて、腹が立って、身も凍る。


『凍ってないで、自力で降りてくれない? 』

 背中から、今は下になってる部分から声をかけられた。

 真脇 達美さんの声だ。

 灰色のスリムな人型ロボット、七星が、2機がかりで横倒しになったウイークエンダーを支えてくれる。

 ウイークエンダーは足を黒い魔法炎にいれたまま。

 これは珍しい状態だといえるかも。 

 ウイークエンダーの身長は50メートル。

 七星の人型形態は20メートル。

「はい」

 ・・・・・・恥ずかしくなった私は、背中がわに手をついた。

 川の水位が、上がってた。

 待てよ、この水って。

『君のキャプチャーが塞き止めたんだよ。

 早く水を流さないと、あふれでちゃう! 』

 鷲矢 武志さんに慌てて言われた。


 そうか。

 さっきこん棒エンジェルスのせいで流れ込んだ海水は、大分流れきったと思う。

 けど、このままじゃ二の舞だよ。

 急がないと!

 

 そう言えば、ここから海まで10キロメートルはあるんだ。

 そこまで、こん棒エンジェルスのポルタはフラフラ飛んでいったんだ。

 そんなドジにテンヤワンヤされたと思うと、余計イライラしてくる。


『お姉ちゃん、手を上げて! 』

 言われた通り、両手を空に上げる。

 そしたら、手をつかまれて、スゴく大きな力で持ち上げられた。

「みつき! 」

 安菜が気づいた。

 さしのべられた、白い大きな腕に。

 ディメンション・フルムーンに引き上げられる。

「あんた、こん棒エンジェルスはどうしたの?! 」

 そう、あのしがみついていた大群!

 それが知りたい!

『なんとか、ちぎっては投げしてきた。

 戦いは決した、というのかな? 』


 振り向けば、七星くらいの大きさの黒い巨人が、倒れこんだまま山積みになっていた。

 

 ディメンションがウイークエンダーを川辺におく。

 大人が小さい子を運びあげるように。

「ありがと」

 草が切り揃えられて、大きめの駐車場が整備された、河川敷の公園だよ。


 見れば、2機の七星も背中にぶら下がっていた。

 川の勢いは、ただ立ってるだけの七星を押し流すほどになったんだ。

「キャプチャーを消すよ。

 その前に、警告ってだせますか? 」

『市が協力してくれるけど、時間かかるよ」

 達美さんの言う通りだろう。

 でも、おねがいします。

『キャプチャーと言っても、意味がわからないだろうね。

 土砂くずれで川がふさがって、それをずらさないと町がしずむ。とつたえるよ』

 そういう気の使い方もあるんだ。

「いきなりキャプチャーを消す選択肢はないでしょう。

 おねがいします」

『・・・・・・よし、つたえた。

 ところで、機体の方は良いの? 』

「火器はなくなりましたが、機体は大丈夫です。

 だいぶ痛めつけられたはずなんですけど。

 これがMCOの能力なんでしょうか」

 ありがたいと思った。


 だけどね、今まで無能力者のパイロットとして働いていた身としてはね。

 今まで一緒だと思ってたパイロット仲間はそれなりにいる。

 そんなみんなとの間に、壁とか格差ができるとか、変化が起こりそう。

 それが、不安な気持ちにさせる。


 いえ、今はそれどころじゃない。

 ここは落ち着いてきたけど。

 街は、まだ襲われてる最中なんだ。

「みつき、急速充電をおねがい! 」

 背中のソケットを開くと、ディメンションの右手が差し込まれる。

 バッテリーの電力が一気に満ちてきた。


 でも、焦りがつのる。

 目の前に広がるのは、住宅街。

 そのなかに目立つ白いビル、病院だってあるんだよ。

 ほっとけない。


「その心配は、すこしへりそう」

 安菜が気づいた。

「ボルケーナ先輩が来てる。

 上に! 」 


 空では、相変わらず巨人の上半身が

さ迷っている。

 そのさらに上から、赤と白の巨影が雲を貫いて襲い掛かった。

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