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82.求められた強さ

「な、なに言ったの」 

 何を言われたのか、わからなかった。

 思いだしてみる。


「それがどうした。

 俺は足を折られた?

 な、何なのあんたたち」

 口が、うまく動かないけど、なんとか言い返せた。

 そしたら、どなられる。

「何がおかしい!! 

 痛みにたえ、そこから立ち上がることこそ、名誉だ! 」


 その返事に。

「ちょっとだけ、共感はできるよ」

 本当に、少しだけ。

 訓練中のミスとか、仕事上仕方なくなら、まだ折りあいがつく。

「でも、それを他の人になにかをさせるため強いるなら、それは敵だ。

 そう教わったよ」


 わずかな対話時間は、打ち切られた。

「お仕置きだ! 」

 振り落とされる黒い巨人のパンチ。

 迷いはなかった。


「なんで?!

 頭を叩きつづけると、頭のなかでアイディアがパチッと合わさって、良いアイディアが生まれるとでも言うの?! 」


 閻魔 文華、あんたが求めるものは、こんなものだったのか。

 どんな目にあっても疑問を持たない。

 ケガしても、ミスがあっても。

 ただひたすら自分に従う。

 そんな兵隊が、ほしかったのか!


 あれ?

 そもそも、ここに閻魔 文華がいないのって・・・・・・。


「そうか」

 安菜、なにか気づいたの?

「こん棒エンジェルスが現れたのは、私たちの救助訓練。

 あいつらは、一人でも多くの人を痛めつけるために、この時を選んだ!

 はーちゃんは、そのスケジュールを調べるためだけに送り込まれたんだ! 」


 その結果が、むやみやたらに街を破壊する、あの戦いなんだ。

 人の命も、街の歴史とか生活とかも、どうでもいいんだ。


「うさぎさん! 」

 はーちゃんが呼んだ。

 私をしかるような声で。

「アイツの足を見てください! 」

 巨人の足を見た。

 かろうじておさえこんでる、ウイークエンダーより、さらに大きな足。

 それが、ひび割れていた。

 しかも、ふくらんでる?

 それにつられて私たちのキャプチャーにも、ひびが走ってる!

 あれは、あの現象は知ってる。


「魂呼さんの腕をうばったときと同じだよ! 」

 安菜も気づいた。

「力を逃げ場のないところで高めつづけてる! 」

 アイツの足も、動けないわけじゃなかった。

 中から膨らむことで、キャプチャーを破ろうとしてる!

「このままだと、両方壊れちゃう! 」

 私は、両手を失ったばかりの魂呼さんを思った。

 一度、距離をとる。

「あんた、覚えてくれてたんだ」

「今、そんなこと言う?! 」

 怒られた。

「大問題だよ!

 あんなことが起こらないよう、がんばってくれたのは、あんたなのに!

 それを潰したのは、私・・・・・・!

 ごめんなさい!! 」

 ほっぺたが熱くなる。

 涙なのか、興奮で体温が上がったのか。

「あんたって、こういう時にめんどくさいね」

 これは生まれの良さゆえだい!

 

「ウオおお!! 」

 あきらめることなく、黒い巨人はキャプチャーごしに拳を振り下ろす。

 いえ、拳と言っていいのかな?

 2本の腕は、もう間接や骨格と言った人間的なイメージを失っていた。

 もう? ムチだ。

 丈夫でしなりやすく、ふり回せばその先は音速をこえると言う、武器になってる。

 キャプチャーへも、深くささるようになった。

 何度もくりかえすうちに、ささるほど迫る!

 くやしい。

 魔法炎の質は、あっちが上なんだ。

 私はよけた。

 ウイークエンダーだけが、すばやく動けるキャプチャーも、もうすぐ維持できなくなる。

「キャプチャーのメッセージ表示を停止してください」

 音声入力。

 私が、止めた。

「もう限界だよ。

 全力で離脱するから、衝撃に備えて」

 安菜は「わかった」、はーちゃんは「わかりました」とだけ言った。

 すばやく駆動系をチェックして、足をちぢめる。

 ジャンプの体制になる。

「5、4、3ーー」

 巨人のムチが、もう一度ささった。

 だけど、まだ距離がある。

 それでも巨人はあきらめない。

 右腕を突き刺したまま、左腕を振り上げて、下ろす!


 ドーンと、ウイークエンダーの右肩が炸裂音をあげた。


 足がめり込む!

 キャプチャーで水が取り除かれた川底が、派手にはね上がった!

 完全にへたり込む体制になってしまった!


 そして、見た。

 巨人は、ささったムチの中に、自分のムチを差し込んでいた。

 先のムチの中を、抵抗なくしなるムチが、ウイークエンダーの右肩をとらえたんだ!

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