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43.姫獅子の時

 こっちから見ると、右側に1キロメートルほどかな。

 今夜は月明かりもない、滑走路のはし。

 達美さんが開いた太陽のような光、ポルタから。

 

 キイイー キキイイイー


 タイヤのブレーキ音が聞こえる。

 しかもけたたましいエンジンではなく、ずっと静かな電気モーターの音だよ。

 1台や2台じゃない。

 大変な数でせまってくる!

 ポルタから細かい光が流れでた。

 あれは見慣れた光。

 滑走路の端は赤で、ターミナルビルへの道は青で、縁取りはオレンジの小さな常夜灯だけ。

 その真っ暗な滑走路にそって走りだす。

 車のライトだね。

 左右に激しくカーブを描き、絡まりあって走る。

 一部は空を飛ぶものもいる。

 目を奪われた。

 息を合わせた動きは、ぶつかることも、よどむこともない。

「ボンボニエール、だね」

 そう。ドラゴンメイドの言う通り。

 よかった。もう怯えてない。


 4本足にタイヤをつけて、足ごとカーブさせることでできる鋭い軌道が、あれに求められた性能なんだ。

 空を飛んでるのは、4本足にはかせる飛行用ジェットエンジンを備えたから。

 それは分かる。

 だけど、ここに来たのはすーごい数。

 セカンドの前のファーストもふくめた、この世に存在するボンボニエールが全て来たようにもおもえるよ。


「あんな、パレード?

 見たことある?」

 武志さんの質問。

 あの光をパレードと考えるまでにも、悩んだんだろう。

 そしてそんなパレードは。

「見たことも聞いたこともありません」 

 その時、ドラゴンメイドは手が4つある。

 獅子の顔をした鎧武者が手を窓につけて見いってるのは、シュールかもしれない。

 でも、すぐ真っ直ぐ立ち直った。

「下に行ってみよう!」

 背中の羽は、広げれば2メートルほどになるけど、今は亀の甲らみたいにまとまっている。

「私が出したなら、少なくとも害はないはず!」

 それは・・・・・・願いを、あらゆる制約から自由に実行するのが神の力なら、そうかもしれないけど。

 ドラゴンメイドは宣言すると同時に、変身を解除した。

 装甲や第3、4の腕、翼が赤い液体金属にのって分解され、体内にしまわれる。

 あっという間に、左肩に白い藤の花の刺繍がされた、赤い仲居服に戻った。

 振り返ってエントランスへ、走る。

 ガガガ、と木をけずるような足音。

「オーナー。これからどうすれば!?」

 有村さんが聴いてきた。

 その手に持ってるのは、私が頼んだカプチーノじゃない。

 ボタンだよ。

 あの、私の動画『何が忘れられたのか』で前藤さんが押していたような、非常用ブザーのボタンだよ。

「管制室に行って!

 指示はそっちからもらって!」

 それだけ言うと、人間には絶対できない素早さで、エントランスの向こうへ。

 その後に続くのは、やっぱり武志さんだ。

 あの人は、達美さんの同型サイボーグなんだ。

 達美さんは実験もあって、だいぶいじくってるけど。


 私も後をおう。

 アーリンくんも付いてきた。

 初めてあったときと同じ、黒のドレス・ユニフォーム。

 現代日本でも自衛隊の礼服に使われる、ブ厚くてキッチリしたジャケットとズボンだよ。

 左胸には勲章がたくさんある。

 それに、白い上底カバーのある帽子。

 ひさしの他に、帽子の上の方で脹らみがある帽子。


「あんたたちも! 付いてきなさい!」

 管制室からも誰かでてきたんだろうか?

 その人も率いる達美さんの声が下から。

 アーリンくんに追い抜かれた。

 あっちの方が走りやすいからな。

 私は遅れを少しでも取り戻したくて、エスカレーターの手すりに飛び乗って、滑り降りた。


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