24.上がる、訴え
「お姉ちゃんやめて!」
私の右こぶしはハンマーだ。
瓦15枚だって割れるんだ!
涙の臭いをさせる、こいつには贅沢な一撃だ。
膝を抱え、うずくまるだけの男には!
「やめてってば!」
からだの下半分を、ゴツン!とした感触に閉じ込められた。
そのまま、勢いよく後ろに押し流されていく。
怒りがおさまらない。
何のせいなの。
「しのぶ。みつき」
妹と弟にジャマされた。
「こんなことして何になるの?!
彼らがいないと地球は孤立したままだよ!」
左腰にしがみついてる弟が、にらみあげる。
うるさい! みつき、あんたの正論なんか聞きたくない!
「ねえ、おじさん責任感じてるんでしょ。あやまってよ!」
左腰をとらえながら、妹が振り向いて呼びかけてる。
呼ばれたリッチー副団長は、やっぱり泣いていた。
あの情けなくおびえた目で、ようやくこっちを見た。
親が違うけど、弟と妹は小学5年生。
抱きつかれればプニュンとした体つきになりそうだけど、2人はゴツン!
私と同じロボットのパイロットだから。
その筋肉の固まり2人に逆らう。
逆らってリッチー副団長に向かう!
なにも変化のない役立たずのおじさまに、改めてハンマーを振り下ろす!
そうしようとしたら、今度はこぶしを止められた。
「よせよ」
朱墨ちゃんのパパ、九尾 大さんの、瓦30枚くらい割れそうな腕で。
「娘に当たる」
えっ? 娘?
前には、家の双子。
振り向くと、朱墨ちゃんがいた。
「やめてください」
そう、あまり強制してこない顔でボソッとつぶやいた。
「あの副団長も、何かしたそうですよ」
そういわれて、少し頭が冷えた。
副団長さんはゆっくり、上着の懐に手を入れた。
肩に、リュックサックのベルトのようなものが見えた。
左胸のところが膨らんでいて、何かを入れているのがわかる。
ホルスターだね。
ピストルとかナイフを入れるやつ。
「これを、差し上げたい。
我が家宝です」
そう言って差しだしたのは、一本の短剣だった。
とがった先端、その刀身は両方刃になっていて、20センチぐらいある。
ダガーという種類の刀剣だね。
全体が白っぽい紫色。
片手で握れる分のグリップには青い宝石が埋め込まれ、大きく輝いている。
刃とグリップの間で手を守るツバは、白い鳥の羽の意匠だよ。
大きく羽ばたいた姿で細かく作られている。
作った人の芸術性を感じさせるけど、単なる成金趣味なのか。
きっと、すごい力が込められてるんだろう。
「よせ! リッチーさん!」
突然、オズバーン団長が止めに入った。
「そのダガーだって、MCOパートナーには使えない!
持ち上げることもできず、地面に落ちる!
それで指を折るかもしれない!」
リッチー副団長の表情金がおかしくなった顔。
引きつり、不気味なシワが、まるで刃物で彫り込まれたようなシワクチャの顔。
それから、一瞬でシワが消えた。
「ああっ」と短いうめきだけをあげて。
すべての感情が消えうせたように。
その時、気づいたの。
ダガーを渡そうとしたときに浮かべていた表彰は、笑顔なんだ。
精一杯、友好をしめしていたんだ。
それがようやくわかるほど、引きつっていたんだ。
「だったら、私がいただきます」
そう言って進みでたのは、朱墨ちゃんのママ。
「九尾 疾風子。朱墨の母です」
両手で差しだしたまま、固まっていたリッチー副団長。
その手から優雅にダガーを受け取った。
ああ、あの人(狐だけど、いちいち意思の疎通ができる異生命体というのも、めんどくさい。総称として人と呼んでる)は私とは違う存在なんだ。
「私は忘れません。
貴方の謝罪と、ここへ来た勇気のあかしを」
私には疾風子さんの後ろ姿しか見えない。
その姿が良いものなのかもわからない。
ただ、リッチー副団長は穏やかな表情で涙を流していた。
回りの暗号世界人も、大団円ムード。
困った顔、わからない顔をしてるのは、地球人だけか。
私は捕まったまま。
さっきだって、ボルケーナ先輩だって侮辱されていたのに。
「ねえ、もう離してよ」
私を捕まえていた4人が離れていく。
痛くて重いのは、いやだ。
MCOパートナーなんて、マイノリティだ。
なんで怒りだすのかもわからない、ガラクタさえ手に入れられない少数の人間なんだ。
これって、差別?
それとも私が勝手に感じる不信感?
「待ってください!」
その時、オズバーン団長が声をあげた。




