18.百万山の瑞獣さんたち
この時、シロドロンド騎士団の子ども騎士がこっちを向いた。
その目はおびえて、それでも私をまっすぐ見てる。
彼以外は、目もくれない。
「第三次世界大戦は、未来で起こるかもしれない地球全土をおおう戦争のこと。
全面核戦争になると言われています」
私の声は、振り向かない騎士たちには、どう聞こえてるんだろう?
「すべての文明が滅びてしまう。
残された者には、原始的な文明しか残りません。
だから、こん棒のような武器しか作れなくなり、第四次世界大戦はそれで戦わなくてはならなくなる。
そういう考えです」
暗号世界では、機械文明は落ちこぼれ。
その痕跡を恥として、残さない世界も多いの。
それでも、機械文明から生まれた誓い、MCOはある。
異能力を持たないはずの命から、なんで生まれたのかわからない力が。
「MCOは異能力のない機械の中でだけ動きます。
しかし、暗号世界に機械を作る力はない。
そこで着目したのが、第四次世界大戦の武器。
こん棒のような武器に取り付かせることで、MCOを運ぶことにした。
それは、たしかに成功しましたね」
「MCOのこん棒って、ハテノ市に、いつ飛んでくるかわからないんだよね」
「送り方が雑だから、折れたりするの、危ないよね」
突然に、朱墨ちゃんより幼い声が聞こえた。
それもそっくりな声が、二つ。
その瞬間、騎士団の残りの3人が振り向いた。
……やっぱり、無能力者のエリートなんてそんなもんか。
瑞獣のうち2人、デコとペタ。
双子の姉弟で、寝癖で頭がデコボコしてるのがデコ。
きれいなおカッパで、髪がペタッとしてるのがペタ。
ふたりで合体して二つ頭の大鷲になるよ。
その見た目はまだ10歳にもなってない子供そのもの。
でも、甘く見てはいけない。
少なくとも1000年以上を生きた、本物の神さま。
その2人は、さらに後ろに立つ2人の女性に目を向けている。
何か言って、というように手を向けてた。
「……全自動こん棒修理マシンには、うるし漆器などの技術を使用されています。
通常では乾燥などに数か月かかる技術ですが、時空湾曲技術により一分以内に修理が完了します」
屈強な女性、天力 狼万さんが説明した。
恐怖をつかさどる狼で、本来絶滅動物のはずだけど、どこかの神社がクローンとしてよみがえらせた。
ほかの動物の遺伝子を組み込み、トラのしなやかさやクマの強さも併せ持つ。
「その時空湾曲技術を作るのが、大変だったんだよね」
天狐の女の子、疾風子さんの妹に見える、高校生ぐらいの子が受けついだ。
「ボルケーナちゃんの本質は時空の女神だからできたんだろうけど、それでヘロヘロになったんでしょ?」
九尾 九尾さん。
九尾さん家に生まれた九尾さん。
血統を重んじた、遺伝子ブレンドで生まれた。
そして、瑞獣たちの隊長。
「それでも、こん棒のMCOと話し合いたいっていうんだから、大した根性だよね」
その声には、騎士団に対するトゲがある。
4人の瑞獣さんたちは、私の言いたいことを、見事に伝えてくれた。
だけど、どうしてもすっきりしないの。
このままじゃ、私たち能力者から、何も伝えられてないみたい……。
「あの、質問していいですか?」
朱墨ちゃんだ。
手を上げて近づいてきた。
「その少年って、誰ですか?」
朱墨ちゃんが気にしたのは、レストランから同行してる、あの少年。
「奴隷OKの世界で、その子をあげるから許してください。て感じじゃないでしょ」
だとしても、嫌悪とともに、お断りしそう。
「もしかして、あなたがリーダーじゃないですか?」
……その発想はなかった!
そして感動した!
小学生の朱墨ちゃんのほうが、状況を見てるじゃないの!
同じ年頃の男の子と女の子の関係とは、思えない。
不思議な違和感。
「もし、そうじゃないとしても、これは私からのお願いとして聞いてほしいんだけど。
君……少年に聴きたいの。
あなたは私たちのために、これから何ならできるの?」