11.赤ペンキちゃん
私が声をだす。
少しでも判断を惑わすように、できるだけ低い声で。
「赤ペンキちゃ―ん」
朱墨ちゃんが、こっちへ振り向いた。
「だーかーらー!」
その顔に、幼い少女の面影はない。
怒りに燃える闘士だ。
「赤はママが好きな色だって言ってるでしょ!」
その鬼の形相のまま、こっちに突進してきた!
「いまだ! 広げて!」
私と安菜が左右に別れると、2人の間に大きな灰色の布が広がる。
2人分のブレザーを、袖どうしで結んだものだよ。
それにロケットか猛牛か、とにかく突進するナニモノカになった朱墨ちゃんが突っ込んだ!
ドスン! と、2人がかりでも足が滑るほどの、衝撃!
それでも!
「ぐるぐる巻きにして! 持ち上げる!」
私の望みどうりに、安菜が動いてくれる。
ハンターキラーでもないのに、こういうのがうまいのはなぜだろう?
「どうも。お騒がせしました!」
周りの人に声をかける余裕さえある。
すごい。
よし、私も!
「あそこに行こう! 朱墨ちゃん。
外壁に勢いよくジャンプするイルカの絵があるでしょ」
キャバレーハテノだよ。
朱墨ちゃんは、なんとか2人分のブレザーで、ぐるぐる巻きにする。
「見てよこの絵! シュッ! と海面を突きぬける音が聞こえてきそうでしょ」
その間も、朱墨ちゃんは狂ったように獣のように吠えつづける。
ヒイィッ!
まけない。負けない!
「だけど、長年の雨や風でボロボロになったの」
ジタバタする朱墨ちゃんを、そのまま2人で肩にのせてやる。
今は、朱墨ちゃんとシロドロンド騎士団を引き離すほうがいいと思うんだ。
でもそのことは、今は伏せて。
「お金が稼げれば、あの絵を綺麗に塗り直してくれるかなー?
と思って、イベントがあると通ってる。
私の秘かな希望なの。
あんたも、協力してくれないかなー」