112.私がやらせた盗みは
『たぶん文華は、果てしない不安の中にいます。
だからバリアを張って、立てこもっているんです』
何も食べず、命をけずりながら?
そういうことだよね。
今の会話をしてるのは私と朱墨ちゃん、その後ろにいるアーリンくんだけ。
「だけど、それをみんなに話して、信じてくれるかな? 」
『そんなの、本物を見ないと分からないですよ! 』
たしかに、朱墨ちゃんの言う通りだけど。
それって予測はムダなことってこと?
『予測したことはムダになりません』
アーリンくんの言葉。
『起こりそうなことに対する、心構えはできたでしょ』
さすが。
アーリンくんが朱墨ちゃんとっての、私にとっての安菜みたいな存在なのかな。
だったらいいな。
「そうだね」と答えておいた。
本当は、今も不安を感じながら。
『良かったこともあります。
こん棒エンジェルスをスピーディーにとらえることができました』
そうか・・・・・・そうかもしれないね。
夜の帳が明るく開いていくシーンは、映像としては美しい。
けど、やる方はとんでもない。
そう考えると、今の状況はまだマシなのかな。
「ありがとう。
もうヒトガンバリしようね」
『『了解』』
話のおかげで、決心ができた。
早く終わらせて、休ませなきゃならない人が、大勢いるんだ。
『こん棒エンジェルスが、また来るぞ』
朱墨ちゃんのパパ、そしてホクシン・フォクシス副隊長の九尾 大さんだ。
本当だ。
私たちの足元、河川敷にゾクゾク集まってくる。
河川敷のすぐ横にある、ポルタを目指して。
『あの、佐竹隊長』
ホクシン・フォクシスの心晴です』
あれ? と思った。
なんだか、困ってる?
『護送の列から、あなたに質問が来ています』
質問?
『動画を見ていただいた方が、早いそうです。
それを見てから説明を、こん棒エンジェルスにしてほしいそうです』
それは・・・・・・何だろう?
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その道は、もう少し行けば巨大キャプチャーのある所。
『放せよお! 』
ロボットに抱えられたキャプチャーから、こん棒エンジェルスが叫んでる。
『私たちは無実なんだよ! 』
キャプチャーは、あまり黒くない半透明。
一方、ロボットの腕は、人の胴体ほど太い。
キャプチャーと腕なら、腕の方が強そうだ。
次のキャプチャーも、半透明だった。
なんだ。
ルルディ騎士団が来る前と、あんまり代わりないじゃない。
でも、分かるかも。
キャプチャーは同じもの。
使う人間も地球人なら、大した差はないのかな。
それより目をうばわれた。
騎士団とハンターキラーが、ちゃんと列をつくって運んでる。
ルルディ王夫妻の気持ちは、伝わったんだ。
今も従ってると言うことだよね。
これもきっと、良いことなんだ。
『だいたい、お前らが悪いんじゃないか?! 』
文句は止まらない。
『我々は、こん棒を贈った!
滅びた星の遺志を込めたやつだ!
それで鍛えてやろうと言うのに! 』
滅びた星の遺志・・・・・・MCOのことだね。
彼らはそれが生まれたことを、悲劇だと思ってるのかな。
『そうだ!
何で我々の願いを叶えない?!
さっさと終わらせようとしないんだ?! 』
カメラの持ち主が、叫びの主に向かう。
たぶん、ハンターキラーが。
『あなた達が街の上にぶちまいた木や鉄の固まりから、何を学べばいいと言うんだ?! 』
本気の怒りの叫びだ。
それに対する、答えの叫びは。
『そのこん棒こそが学びだ!
お前たちはそれをーー』
叫びは、何か布をこするような音がたち切った。
同時に、カメラが大きくゆれた!
『こん棒、貸してください! 』
新たな声の主が、ハンターキラーをゆらしてるみたい。
ハンターキラーのカメラは、ヘルメットについていた。
そのカメラが、後ろを向く。
そこにいたのは、黒い鎧。
『アイツらをブン殴ってやるんです! 』
ルルディ騎士だった。
『何そんなムダなことするんだ?! 』
ついに、つかみ合いになった!
『だって、だって、佐竹 うさぎも殴ってたじゃないですか!
ハテノ市の、シロドロンド騎士団の時に! 』
マイケル副団長を、殴ろうとした時?
あれも動画を流されてたんだ。
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情けないなぁ、私。
「あのあと、お父さんにスッゴク怒られました。
それに体罰なんてムダだって伝えます」
身からでたサビが、この忙しい時に。