10.エースの誇り
「類感魔法でしょ
手に入れたい力の持ち主に似せることで、その力を得る魔法」
詰め寄られた相手は、みんな大人だったけど、青い顔をしてたたずんでいる。
黒い燕尾服を着ていた。
それも中世ヨーロッパ物のファンタジーに出てくるような、銀色の豪華な刺繍がしてあるの。
暗号世界の人たちだ。
私たちの世界からは、密接なつながりを持ちながら……。
死んだ人の魂が、生まれ変わったり、時々生きたまま行ったり。
すぐ近くにありながら、それが異能力など、異なる物理法則で隠された世界。
それが暗号で隠されているように見えるから、暗号世界。
……でもこれって、差別的な名付け方だと思うの。
キンキン声の熱弁は続く。
「早い脚がほしいから、鹿や馬の毛皮をかぶる。
力がほしいなら、熊の毛皮をかぶる。でしょ。
それが使えないの。私、無能力者だから」
九尾 朱墨ちゃんだ!
「キュウビ シュズミちゃん?」
名前は習字で使う赤い墨のこと。
さっきの会議にもいた、キツネ型ロボット北辰の部隊、ホクシン・フォクシスを率いた隊長さん。
そして小学5年生の女の子。
朱墨ちゃんは、ハンター・キラーむけのコーナーにいた。
その中でも、強力な商品。
巨大ロボットのコーナー。
今並んでいるのは、地球で作られるロボットがほとんど。
でもそのサイズは巨大とは言い難く、大体5メートル前後。
電線をくぐったり、路地を通りやすくする機動性を確保するためにね。
そもそも、技術的にそれ以上大きなものが作りづらいこともある。
家を無視して踏みつぶすようなまねは、許されない。
ウイークエンダーは、まあ、しょうがない事態にしか使わないということで。
コーナーの中で、ウイークエンダー並の高さ30メートルほど機体が、1体だけある。
(ロボルケーナか)
会議にも出席した、かわいい奥さん宇宙怪獣の姿をしたロボットだ。
ただし、イメージは似ても似つかない。
赤いボディは“血のような”とイメージしたくなるような、敵意を感じさせる鋭さのある装甲。
反対に背中から生えた羽根は、グロス感さえ持つ新雪の白だよ。
しかも羽根は左右3対。
背中、肩、腰を完全に覆っている。
その姿は、中に赤い竜を守る白いピラミッドみたい。
……ちょっとチラリズム感じるね。
確か、ボディと羽根は別の星で作られたんだよ。
そして両方の星には、もうだれも住んでいない。
……戦争で、みんな滅んだから。
MCOを多く含む機械の無事なものを何とか探してきて、二つ合わせて作られたんだ。
そのテストパイロットが、朱墨ちゃん。
「私と言えば、青でしょ。
これは仕様書にも書いたはずですけど」
ここハテノ市が、世界で一番怪獣が現れる場所なのは、もう教えたよね。
彼女は、ここの戦力に空白を生まないための、後づめのエース!
「あっちの海の向こうに山が見えたでしょ」
そのむちゃくちゃ強いエースが、イラついた様子でテントの壁の、その向こうを指さす。
「はい」
指をさされた暗号世界のスタッフも、それは分かったみたい。
確か、シロドロンド騎士団というの。
「あそこから清らかな霊気を感じた?」
朱墨ちゃんが指さす山。
ここの海の向こうには、夏でも雪が消えない山々が並ぶ。
その鋭く、壮大な姿の山は、日本でも有数のありがたい山。
つまり、信仰の対象になり、修行の場ともなる、霊山なんだ。
「はい」
詰め寄られてる、シロドロンド騎士団。
みんな青い顔をしてる。
「私はあそこに配属されたロボット部隊の隊長なんだがね」
朱墨ちゃんにそう言われ、一番冷や汗を流した男の人が答える。
「そ、それは存じております。
ファントム・ショットゲーマー」
朱墨ちゃんのレイドリフト名、ヒーローとしての通り名を知ってるなら、本当だね。
でもスタッフさんの答えは、朱墨ちゃんの望むものではなかった。
「しかしながら……」
一度目をギュっとつむり、意を決した様子で説明する。
「このロボルケーナは、間違いなくわが社の最高傑作であります。
機体とウイングの結合部には、パイロットの異能力によって稼動するため、高い操作性を誇ります」
説明をきく朱墨ちゃんの肩が、震え始めた。
「どうしたの、うさぎ。急に固まっちゃって」
心配した安菜が呼んでる。
そうだ、こうしちゃいられない。
「安菜、力を貸して」
私たちが必死の準備を始めた。
まず、リュックを下ろす。
中からブレザーをだす。
「安菜のもだして!」
対処する私たちの必死さも知らず、暗号世界のスタッフは火に油を注いでる。
「それに、白と赤の組み合わせも、大変視認性が高く、戦場での勝利の象徴としてはふさわしいかと。
異能力者のパイロットと組み合わせれば、必ずご満足いただける戦果を残せるものかと――」
「なんで私個人のゴマンゾクの話になるんですか。
機械しか扱えない人間は、どうせ落ちこぼれなんですね」
きっとこの時、朱墨ちゃんの我慢が限界に達したんだ。
「私はMCOパートナーです!
自分に合った装備を受け取る権利があります!」
火のような怒りを、細い輪ゴムのような意志力、プライドで抑え込んだ、叫び。