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TSしたオレが女子バスケ選手としてプレイする話(改訂版)  作者: 武藤かんぬき


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40――全国大会に向けて

全国大会編のプロローグ的な話です。


「監督、本当にこれを日課にするんですか?」


 ゲンナリした表情を浮かべながら確認するオレに、満足そうに頷く監督。バスケットコートのセンターサークルをさらに味方側に歩幅一歩分寄ったところに、たくさんのボールが入った大きなカゴと共にオレは立っている。その数50球。ゴールまでの距離は長いけどノルマの半分である25本ぐらいはシュートを決められないとお話にならないと言われ、25本未満だった場合は最初からやり直してもらうと告げられた。


 県大会の決勝戦、なんとかオレ達のチームは勝利を収めたが色々と課題が見えた試合だった。


 このチームのオフェンス力はすさまじいものがあるが、逆にディフェンスは他の強豪校に比べると少し弱い。あと不測の事態に対する対応力も、個々の実力が高いからかチグハグになりがちで後手後手に回っていたように思う。


 これについては試合中でもコミュニケーションを密にして、とにかく失点を防ぐことを目標とすることになった。これまでは少しおざなりになっていたハンドサインや声掛けなどを、再度重視していく。なまじ個々の実力が高いからそんなことをしなくても円滑に試合を進められていたことが、逆に弱点になってしまった感じだろうか。


 今さら基本的なことを意識してやるのは少しの恥ずかしさや違和感があって、最初はみんなギクシャクしていた。それでも練習試合形式で繰り返し練習をした結果、楽しくなってきたのか部員たちは自分から率先して声を出してコート内の意思をまとめるようになっていた。


 そもそもどれだけ上手い選手でも初心者の頃はあったし、チームをスムーズに動かすためにコミュニケーションを密にしていた経験は絶対にしているはずなのだ。その頃の自分達の姿を思い出して初心に戻ったのかもしれない。


 そんな風ににぎやかにレギュラー対控えチームが練習試合をしている隣のコートで、オレはこうしてカゴとセットでポツンと立っている。


「ひなー、こっちは準備OKだよ!」


 大きな声でそう言ってくれたのは、ゴール下やその周辺に立っているあかりちゃん達。同じ1年生部員なのと友達のよしみで、球拾い役を買って出てくれた。


 オレのシュートが入る入らないに関わらずボールを拾って、空っぽの大きなカゴに入れるのが彼女たちのお仕事だ。こうしておけばこっちのカゴの中のボールが無くなっても、速やかにまた満杯になったカゴと入れ替えることができるからな。


 早速ボールを手に取って軽くその場でドリブルした後で、すばやく狙いを定めて膝をめいっぱい使ってシュートを打った。何しろディープスリーなんて目じゃないくらいのロングシュートだ、今のオレの華奢な体躯では届くだけでも拍手喝采ではないだろうか。それにプラスしてボールをリリースするまでの速さと精度を求められるのだから、あの監督は教え子に無茶振りして楽しむドSなんだと思う。


「ああ~……」


 ガン、とリングに嫌われてオレが打ったシュートが外れてしまう。ボールの軌道を追っていた同級生達が残念そうな声を上げたが、リングまで届いたのだからあとは数回の微調整で入りそうだ。これまではチートに頼って深く考えなくても感覚に従って打てばシュートが入っていたからズルをしているみたいな罪悪感があったんだが、こうして苦労して感覚を自分の物にしていく努力をした後なら胸を張ってチート能力も自分の実力だと言えそうな気がする。


 そんなことを考えながらも微妙に力加減を変えながらシュートを打っていると、5本目にこれまでと違う手応えのようなものを感じた。『これは入るぞ』と思うよりも先に、ボールがリングの真ん中をノータッチで通過した。その感覚を忘れないうちに、続けてさっきの動きをなぞるようにシュート練習を続ける。


 シュッ、シュパッとシュートを打つ音とボールがリングとネットを通り過ぎる音が交互に鳴り続ける。きっと見守ってくれている同級生達にはオレが簡単に超ロングシュートを決めているように見えるのかもしれないが、この筋力のない体でバスケットボールをゴールまで届かせるというのは全身の力を無駄なくボールに伝えなければいけないのでものすごく疲れるのだ。


 ヘロヘロになりながらもなんとか50球のうち40球をゴールに入れられたので、練習初日にしてはかなり良い結果ではないだろうか。ここから成功率を少しずつ上げていって、最終的には必ず決められるぐらいの自信を持ってシュートを打てるようになるのが理想だ。そこに至るまでには、まだまだ課題は多いのだが。


「ふへぁっ……!?」


 両膝に手を突きつつ息を整えていたら、突然後ろから膝の裏を押されてカクンと曲がった。力が入らずに前に倒れ込みそうになったので変な声が出たが、オレがコケる前に誰かの両手が腰に巻き付いて支えてくれたのでなんとかコケずに済んだ。


「ひなたちゃん、ゴメン! ちょっと驚かそうとしただけだったんだけど、大丈夫?」


 ほんのちょっとの汗の匂いと、嗅ぎ慣れた制汗剤の香り。オレの耳元で慌てたように謝る声から、背後から抱きつくようにオレを支えてくれたのはまゆだと察する。ちょっとしたイタズラ心での行動だろうけど、オレが思っているよりヘトヘトになっててびっくりしたんだろうな。


「大丈夫です、ちょっと足に力が入らなかっただけで。それよりまゆ先輩、そちらの試合はもう終わったんですか?」


「うん、私達の勝ちだったよ。でもみんなで声掛けしながらバスケすると、チームの雰囲気も明るくなって気持ちいいね」


 背後から抱きつかれたまま首を後ろに少し向けながら言うと、嬉しそうな声がまた耳元をくすぐった。まゆの先輩達もそうだったらしいが、どうやら強豪校の自分達が試合中に声を出してコミュニケーションを取るのはカッコ悪いという気持ちから、粛々とプレイすることを心掛けていたらしい。


 確かにそういうプレイスタイルだと相手に威圧感を与えられるし、なんか自分の仕事をコツコツこなす職人みたいでカッコ良く見えるもんな。個人競技ならストイックに自分との戦いみたいでそういうのもいいかもしれないが、チームでプレイする競技なんだからチームメイトとのコミュニケーションは最優先にするべきだ。


「まゆ先輩、私の汗がついちゃいますから離れてください。シャツが濡れたり肌がベタつくのイヤじゃないんですか?」


「ひなたちゃんの汗なら別に気にならないよ。でも逆に私の汗でひなたちゃんのシャツが湿って、風邪を引くといけないから離れるね」


 まゆはそう言うと抱きしめていたオレの体を解放する。背中にあったまゆのぬくもりや柔らかさが離れていくのが、なんとなく寂しく思えた。なんだろうな、体が冷えて他人の体温が恋しくなってしまったのだろうか。


 自分の感情に戸惑っているとまゆはそのまま隣に並んで、オレの手に自分の手を重ねてぎゅっと握ってきた。指が絡まるようなこの繋ぎ方はいわゆる恋人つなぎ、というものではないだろうか。


 まぁでもそっとまゆの表情を窺い見ても、特に普段と変わらない。恋人同士がする繋ぎ方というイメージが強いが、別に部活の先輩後輩同士でしてはいけないという決まりはない。多分たまたまこういう繋ぎ方になっただけなんだろうな。さっきの後ろからのハグされたことといい、ちょっと自意識過剰になっているのかもしれない。合宿で一緒に風呂に入って隣の布団で寝たこともあるのに、手の繋ぎ方ぐらい今さら気にするようなことではないだろう。


「どうしたの、ひなたちゃん?」


 オレの表情に考え事をしていたことが出ていたのか、まゆは不思議そうな表情でそう尋ねてくる。それに『なんでもないです』と言いながら首を横に振ると、オレの手を引いて監督のところに向かう。ノルマを大きく超えてシュートが入ったことを伝えると、監督も初日からそんなに高いシュート決定率が出るとは思っていなかったのか、すごく唖然とした表情を浮かべていた。


 『自分で指示した練習なのにそんなに驚かなくても』とちょっと呆れた表情を浮かべていたのがバレたのか、さっきまでのシュート練習に加えて位置を左右に移動してのシュート練習も明日からのメニューに追加されてしまった。確かに真正面からのシュート練習だけよりは汎用性が上がるんだろうけど、単純に球数ノルマが3倍になるのはつらい。正面からの50本だけでもこんなにクタクタなのに、果たしてちゃんとこなせるのだろうか。


 不安になりつつも体力向上のために頑張るしかない。オレは決意を新たに、自分の胸の前で両手をぎゅっと握った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 決勝でその性能を示した以上、対策を取られるはず。それをされても物ともしないようにしないと!ひなたちゃん頑張れ!
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