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TSしたオレが女子バスケ選手としてプレイする話(改訂版)  作者: 武藤かんぬき


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33――友達同士の会話と県大会へ出発


「んー、ひなの髪質が好きなんだよね。私」


 教室で友人達としゃべっていると、オレの髪を持ち歩き用のクシで梳いてくれていた美咲が、どこか楽しそうな声色で言った。最初はひなたと名前で呼ばれていたのだが、いつの間にか『た』が取れて『ひな』と呼ばれるようになっている。


「えぇー、なんで?」


「だってサラサラなんだもん、よっぽどしっかりと手入れしてないとこうはならないよ」


 美咲繋がりで仲良くなったクラスメイトが短く尋ねると、美咲はオレの髪を自分の手のひらでふわっと持ち上げた。そして手のひらから落とすと、オレの髪が靡くように重力に引かれて元の位置に戻る。どうでもいいけど、他人の髪で遊ぶのはやめてくれんかね。


「光に当たるとこうキラキラ光るし、天使の輪っかもしっかりとできるからね。高校生にもなると明るい色に染めたくなるけど、ひなの真っ黒つやつやの髪を見てると髪色はそのままでお手入れの方にお金回した方がいいのかなと思っちゃう」


 クラスメイトの言葉に、美咲が『だよねー』と言いながら後ろからオレの首に両手を回して抱きついてくる。ふわりとコロンか何かのいい匂いが広がって、なんだかほっこりした。


 姉貴曰くオレ達ぐらいの女子は自然といい匂いを撒き散らしているらしいので、もしかしたらこの匂いがそうなのかも。オレも同じような匂いがするのかなとブレザーの袖あたりをクンクンとしてみる。好奇心でやってはみたものの、はっきり言って自分の匂いなんか全然わからないんだけどな。


「そう言えばひな、今週末は県大会なんでしょ。応援に行ってもいい?」


「来てくれたら嬉しいですけど、私は多分出ませんよ?」


 唐突な美咲の言葉に、オレは小首を傾げながら言った。急にどうしたんだろうと思っていると、少し不満げに『えぇー』と唸る。


「なんで? 控えメンバーに入ったんでしょ?」


「私の得意なことが簡単に言うとバレたら終わりの一発芸みたいなものなので、なるべく全国大会まで隠したいっていうのが監督の意向なんです」


「なるほどね、ゲームで完全回復アイテムを大事な時まで残しておきたいっていうのと同じか」


 オレの説明を聞いてクラスメイト――秋月宮乃あきづきみやのが何やら納得したように頷きながらそう言った。多分宮乃はその大事に残していたアイテムを機会を逃して、使わずにクリアするタイプなんだろうな。


「でもさぁ、せっかく友達が頑張ってるんだから応援しに行きたくなるでしょ。全国大会はここじゃなくて余所でするんだから、高校生じゃなかなか気軽に応援には行けないし」


 バイトもあるし、と付け足す美咲。それはそうだろう、バイトしてたら自由な時間が減ってしまうのだから予定だって入れにくくなる。みんなが休みたい時に働いて欲しいと求められるのがバイトなのだ。そして全国大会って、そのみんなが休みたいところで大会日程が組まれるんだよ。保護者が応援に来やすいようにとか、色々と大人の思惑があるんだろうけどさ。


「来るなら日曜日の方がいいかもしれませんよ、決勝戦がありますから」


 どちらかと言えば出場する可能性があるのは決勝の方だろうと考えてそう言うと、『じゃあそうするね!』と美咲はどこかワクワクしているような様子で答えた。秋月さんも一緒に応援してくれるって言ってくれて、オレはなんだか申し訳ないやら嬉しいやら複雑な気持ちだった。


「そう言えばもうすぐ入学して2ヵ月になるのに、相変わらずひなは敬語が抜けないよね」


 友達なのに水臭いと言いたげに秋月さんが言って、うんうんと美咲も頷く。そうは言うが、カジュアルな女同士の会話が未だによくわからん。変に男言葉が出たり、逆に不自然に媚びたような言い方になったら変に思われるのではないかと思って不安になる。でもオレがふたりの立場だったとしたら、いつまでも敬語で話す友達なんてちょっと距離を取りたくなるかもしれない。


 あんな風に行動はできないけど、話し方だけでもまゆの真似をしてみようかな。少しは努力しないと、こうして友達付き合いしてくれてるふたりにも申し訳ない。


「ご、ごめん……これから気をつける、ね」


 すでに癖っぽくなっていた敬語を出さないように語尾を気をつけながら言うと、嬉しそうにふたりが笑った。それを見たらなんか難しく考えすぎていたのかなと思いつつ、肩の荷が少しだけ軽くなったような気がした。でも変に思われないように、これからも気をつけようっと。




「ひなたちゃん、そう言えばこの間の診察の結果はどうだったの?」


 県大会の会場への移動中、突然思いついたようにまゆが聞いてきた。急にどうした、と思いつつとりあえず答えを返す。


「とりあえず現状維持だそうです。あ、ほんの少し身長が伸びてました」


「……伸びなくていいのに」


 オレの報告にまゆが何事かポソリと呟いたが、生憎こちらの耳には届かなかった。小首を傾げながらジッとまゆを見ていると、何かを誤魔化すように苦笑して『なんでもない』と手を振る。


 身長ぐらいなら明かしてもいいけど、他の余計なことは言わないように気をつけないと。そう、胸が少し大きくなってブラがキツくなっているとか。言ったら最後、今日の帰りにでも駅前のショッピングセンターに引きずってでも連れて行かれそうだ。


「まぁ伸びたって言っても、目視だとわからないぐらいじゃない? 見た感じの変化はなさそうだし」


「それはそうですけど、少しずつでも伸び続けたら最終的には数センチぐらいになるかもしれないじゃないですか」


 オレがそう反論すると、まゆはぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべて急にオレのつむじを軽く押してきたので慌ててガードする。やめてくれ、これ以上背が伸びなくなったらどうしてくれるんだ。


 こいつにとってオレの身長が伸びると、何か不都合なことがあるのだろうか。部にとっては少しでも身長の高いヤツが増える方が、有利になると思うんだけどな。


 電車が目的の駅に到着すると、地区大会を勝ち抜いてきた24校が集まるということで構内は混雑していた。部員全員で一度集合して、はぐれないようにまとまって移動する。


「ほら、ひなたちゃん。はぐれたら大変だからね」


 まゆはそう言って、オレにスッと手を差し伸べてきた。今度はオレがぐぬぬ、と唸る事になる。だって先輩に手を繋がれているヤツなんて、うちの学校はもちろん周囲の学校にもいない。


 子ども扱いしやがって、と抗議するようにまゆを見上げるように見ると、彼女はしょんぼりとした表情を浮かべる。悲しそうな、寂しそうな、そんな表情。


 あー、もう。こっちの負けでいいよ。仕方がないなと柔らかいまゆの手を取ってぎゅっと握ると、まるで太陽みたいに明るくて嬉しそうな笑顔を浮かべたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 切り札は「もしも」の時の用心であり、使わなければならない物ではないのだから使わなければ越したことはないのだけどね。 努力を省いて足りない分を埋める為に切り札を使うより、努力をして切り札を使…
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