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TSしたオレが女子バスケ選手としてプレイする話(改訂版)  作者: 武藤かんぬき


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06――ひなたの実力


「おやつも食い終わったし、ちょっと腹ごなししないか?」


 ハンバーガーショップで昼食を済ませた後、イチが腹を擦りながらそんなことを言った。お前が食った量はおやつってレベルじゃないけどな、と胸中でツッコむオレ。


 そんなことはおくびにも出さずに、小首を傾げてイチに尋ねた。


「腹ごなしって、何をするんですか?」


「そりゃこのメンツなら、やることはひとつだろ」


 オレの問いに、イチはニヤリと笑ってそう答える。ちょっと待てよ。今日は運動するつもりなんかなかったから、こんな格好で来たのだが。スカート姿でバスケなんかできる訳ないだろ、これだからバスケ脳は。


「さっき服買っただろ、それに着替えればいいじゃんか」


 ジトッとした視線を向けると、オレの言いたいことがわかったのか更に無神経なことを言い出すイチ。タグもついたままだから外さないといけないし、脱いだ服はシワになるし面倒くさいだろうが。オレが乗り気ではないことがわかったのか、まゆもオレの味方をしてくれた。


「イチは無神経過ぎ! 女の子の準備はそんな風に簡単に着替えるだけじゃなくて、色々と手間が掛かるんだからね」


「うーん、じゃあこうしよう。ひなたはシュートが上手いんだよ、だからスリーポイントのシュート練習だけしないか? まゆもどれくらいの精度なのか、見てみたいだろ」


 まゆの言葉にうんうんと頷いていたオレだったのだが、イチがそんな代替案を出すとまゆの顔にちょっと興味があるという色が浮かんでいた。チームメイトになるであろう後輩がどの程度の実力があるのかという、純粋な好奇心と期待に満ちた視線を感じる。


 確かに昨日の話の中で、イチにはフィジカルも体力も無くなった代わりにシュート力が上がった話をしたけどさ。まだ実際に見てもいないくせに、なんでお前が自信満々な上に自慢気に言ってるんだよとまた胸中でツッコんだ。


 3人組でふたりが乗り気になってしまったら、残りのひとりは多数決の法則に従うしかない。本当は湊とは同級生だけど、ひなたにとっては先輩だしな。先輩にクロと言われてしまったら、後輩はクロだと追従するしかないのだよ……トホホ。


 駅から少しだけ歩くと、自治体が運営しているバスケットコートがある。休日にはストリートバスケを楽しむ若者や、地元のおじさんおばさんの男女混合チームがフルコートで試合をしていたりする。自治体が管理していてフルコートが三面もあるというのは、日本全国探してもなかなかないのではないだろうか。管理人の職員がふたり常駐しているから、手ぶらで来てもボールが借りられるのでありがたいのだ。


 スニーカーを履いてきたのはナイス判断だったな、姉貴が勧めてきたショートブーツだったらまともにシュートなんて打てなかっただろう。


 管理人に借りてきたカラフルなボールをドリブルしながら、イチがゴール下へと移動する。そしてスリーポイントラインから一歩下がった場所にオレが、そんなオレと左右対称の位置にまゆが立った。まずオレがシュートしたボールをイチがリバウンドして、まゆへとパス。そしてまゆからオレにパスが飛んできたら、またオレがシュート。これを繰り返して、どれくらいのシュートが入るのかを知りたいらしい。


「おし、打っていいぞー」


 手をパン、と打ち鳴らして合図するイチ。打っていいぞーじゃないんだっての、まったく。ここまで準備されてしまっては仕方がない、今更取りやめは無理そうだしやりますか。


 軽くその場でドリブルして、ゴールに向かってシュートした。ボールは手首のスナップによる緩やかな回転が掛かった状態でアーチを描くように飛んでいき、リングに当たることもなくネットを通り抜けた。ザシュッというボールとネットがこすれる音が気持ちいい。あ、しまった。スカートなのに軽くジャンプしてしまったので、地面に足がついた時に少しだけフワリとスカートが広がった。軽いジャンプだからよかったけど、本気でジャンプシュートだったらもっとスカートが捲れ上がっていたかもしれない。


「……キレイ」


 まゆが離れた場所でこちらを向いて何かを呟いたが、オレにはよく聞こえなかった。『よし、どんどん打てよ!』とイチがまゆにパスをした。お前には余韻とかそういうものを楽しむ感性はないのな、知ってたけど。


 まゆからオレにパスが繋がって、今度はクイックモーションでシュートを打つ。膝をうまく使って身体全身で打てば、非力な今の身体でもボールを遠くに飛ばすことができるのだ。


 しばらくこの流れで『シュッ、ザシュッ』とシュートを打つ音とボールがネットを通り抜ける音が交互に響く。男だった頃の武器が無くなって、代わりに得たのがこのシュート力だ。


 男だった頃と特にシュートを打つ感覚は変わっていないが、何故かボールがゴールに吸い寄せられるように弧を描いて飛んでいくのだ。もちろん100%の決定率などありえない。最初は半々ぐらいの確率だったのをバスケサークルの人達に協力してもらって、フリーの時やマークが付いている時や複数人に囲まれてブロックされている時などその場面によって練習を重ねて、少しずつ決定率を上げていった。そして現在、フリーの状態ならスリーポイントシュートでも大体8割ぐらい入るようになっている。ただ今のこの状態は出来過ぎだけどね。


 結局30本ぐらいシュートを打って、入ったのは27本。9割は本当にうまくいき過ぎだと思った。周りでバスケを楽しんでいた他のプレイヤー達も、黙々とシュートを決めるオレを気味が悪そうに凝視してたからね。おまけにまゆが逸材を見つけたかのように、女子バスケ部に入るように重ねて念押ししてきたのにもまいった。入るって言ってるのにな、ただ精度の高いシュートが打てるだけで体力にはまったく自信がないからね。後でがっかりとか言わないでくださいね、と念押ししておく。


 そんなオレとまゆのやり取りを、何故かイチが微笑ましそうに見ているのがちょっとムカついた。対外的には後輩だけど、同い年のお前にそんな上から見守られてるみたいな視線を向けられる謂れはねーぞ、こんちきしょう!

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[一言] いつの間にか改訂版が出てたー!
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