食後の時間
夕食に作ったハンバーグは普通に美味しく、昨日の煮付けとは違って白米がよく進んだ。
と言うか今日のを見てて思ったが小嶋の奴、普通に料理が出来るのでは無いだろうかとは思う。
「食器洗っとくから、お前はリビングの方で休んどけよ。指を怪我したがそれくらいはやれるしな」
「そう?じゃあ向こう居るね。あ、ゲームも借りてるよ!」
と言っているがキッチンからリビングは普通に見えるので態々言っていく必要無いのだが。
駿介は切った指を必要以上に濡らさないよう気を付けつつ皿などを洗って行った。
だが人差し指なので多少いつもより濡れてないかな、程度でしか無いが。
「ねぇ駿君。駿君って私のこと苗字で呼ぶよね。なんで?」
小嶋がゲームをプレイしなから話しかけてきた。画面を見ればロード画面だったので暇なのだろう。
と言うか、初対面なら苗字呼びは普通だと思うんだが。
「なんでって、初対面ならそんなもんだろ。
まだ会って一週間経つか経たないくらいのやつだしな。そんな馴れ馴れしいのも嫌だろ」
「んーん、全然。むしろ下の名前で呼んでくれた方が仲良くなりやすそうだから下の名前で呼んで欲しいなー、なんて」
「…お前のことを清花と呼べ、と?」
「そそ。だって駿君が小嶋とか、そんな風に呼ぶのに私だけ駿君はなんか、アレじゃん?ほら、変」
「言うほどじゃないだろ。むしろ初めっから駿介君と呼んでたお前の方が変だったような気もするが」
「…そう?やっぱ私なんて変?変なのかなぁ。私みたいな女ってやっぱり」
途端に落ち込んだ様な声のトーンに変わり彼女を見るとガチで落ち込んでいるようだった。影がさして俯いて、そんな風に。
流石にこれを自分がさせてしまったと考えると申し訳なさと言うか、罪悪感と言ったそう言う類の物が湧いてくる。
「…あー、いや、やっぱり変じゃ無い。
普通、普通だから、安心しろ」
「そう!?そうだよね!ありがとね駿君!」
先程の雰囲気からうってかわって花が咲いたような満面の笑顔になった小嶋ははしゃぎながらゲームにと戻った。
有耶無耶になってはいるがこれは清花と呼ばなければならないのだろうか。
今更聞き返そうにも先程の反応を見せられたら困ってしまうから聞き返すことも出来ない。
どうするべきか悩んでいると食器類が全て洗い終えていた。
駿介は手の水気を切った上でリビングの席に着いた。
「…あー、なんだその…清花…?」
駿介がそう呼んだ瞬間彼女はパッとこちらを向いて来て、若干恥ずかしそうに答えていた。
反応的には拒絶されてる訳ではなさそうだし、確認のため聞いて終わることにしよう。
「…んえ…ちょっ…なっ、なに…?」
「いやまぁ…なんだ。結局呼んでいいのか、とな。…別に呼びたいって訳じゃないぞ。
俺だって呼ぶのはまあ、恥ずかしいし」
「呼ばれるのは良いんだけどその…改めて異性の子に呼ばれるとなんか恥ずかしいなーって…私から言ったことなのに変とか思われるかもだけどね!?…やっぱ変?」
「いやそんな事はないから安心しろ。絶対無いから」
またどこかから影が見えたために焦って否定を入れる。キッチン越しですらそこそこ罪悪感が凄かったのだ。
近くでやられようものなら罪悪感に呑まれるだけで済む気はしないし、そもそも居た堪れなさ過ぎる。
にこにことした顔が戻ったので安心と言えば安心であり、良かったと思う。
「と言うか相変わらずパーティーゲームか。
一人でやってて楽しいのか?それ」
「NPCが居るからね。楽しいよ?
あ、駿君もやる?まあこれ駿君のゲームだから私の方はダメって言えない気がするけど」
「なら少しやるか。まだ時間あるしな」
「わーい!」
コントローラーを取ってから再度座り直して、清花のゲームがひと段落つくまで待つ。
なんか凄く上手くなっているような気がするのは気のせいだろうか。
「なあ、なんかこの一日でえらく上手くなってないか清花」
「そう?普通に遊んでただけなんだけどなぁ」
「充分上手いと思うが。と言うか始める前になんか持ってくるか。何か飲むか?麦茶か水か炭酸飲料しか無いが、何がいい?」
「麦茶でー!」
「あいよ」
キッチンに戻ればコップを二つ取り出して手際よく麦茶を注いで行く。
お盆にコップを移して机にと運んで行った。
すると清花は勢いよくコップを手に取って勢いよく全部を飲み干した。
「おかわり!」
「お前なぁ…これなら麦茶の容器ごと持ってくる方が良かったか?」
「でもそれじゃ時間が経ったら冷たく無いじゃん」
「あー…まあ次飲みたくなったら言え。追加してやるから」
「はーい」
全く、とそう思いつつ意識を画面に移した。