休日の夜
駿介は夜に作る料理の買い出しのために、近場のスーパーに居た。
最初に教えるものなら簡単な物が良いだろうと思いでは簡単なものは何かと考えつつである。
「…そう言えば教わりに来ると言って夜にしたがあいつの飯はどうする…?」
取り敢えず昼間のうちに簡単に平日は一緒に教わりつつ作り、土日は小嶋が一人で作ってみると言う風に取り決めていたが、その時の食事をどうするかまでは決めていなかった。
ちなみに今週の土日だけは一緒に作る形である。
「…一応聞くか?いやでもな…」
駿介は悩むのも馬鹿らしい、そんな風に考えて電話を掛けることにした。
悩んだところで答えは出ない上に一人で決められるものでも無い、なら連絡してしまおうと。
「はいはーい!どしたの駿君。
交換したは良い物を殆ど私からの連絡になるかなーって思ってたのに。珍しいね!」
「珍しいも何も交換して一日も経ってないだろ。お前、夜はどうするんだ?」
「え?夜?夜なら駿君のとこで料理って決めたじゃん」
「…あー、すまん。言葉が足りなかった。夜のご飯はどうするんだ?」
「ご飯…?あ。そっか。二人分作る?」
「それでいいのかお前。…まあ良い。
それなら初日はどんな献立がいい?俺が作る日は俺が決めるはずだが、まず献立が思いつかん。何がいい?」
「え?献立…んー、何がいいかなぁ。
あ、じゃあハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」
急に響く大声に駿介は思わず顔を顰めた上でスマホを耳から離した。
「電話越しに叫ぶな。耳が痛いだろ」
「あ、ごめーん。いやぁ、思いついた時に舞い上がっちゃってねぇ…」
「まったく…まあ分かった。帰ったら半分ほど代金は貰うから用意しとけよ」
「はーい」
ハンバーグということで挽肉や卵などをカゴに入れて、ついでに少なくなっていた醤油なども買っていく。
駿介帰ってくれば取り敢えず買ってきた調味料の類をしまい、挽肉などの材料はキッチンにと置いておく。
「時間はまだ早いだろうし…ゲームでもするか」
駿介はそんな風に呟けば獣を狩るゲームを始め時間が過ぎるのを待った。
6時くらいになった頃にチャイムが鳴り、駿介はゲーム機を切ってから玄関に出た。
「やっほー!駿君、来たよ!」
「あい。取り敢えず上がれ」
ぶっきらぼうないい草ではあるものの少し下がり、駿介は親指で部屋の中を指し示し小嶋に上がるよう促す。
「はーい、おっ邪魔しまーす!ハンバーグだよね!ハンバーグ!楽しみだなぁ」
「お前も作るんだよ。取り敢えず手を洗え。
あと子供じゃ無いんだから落ち着け」
小嶋は駿介の傍を通り過ぎてキッチンにと走って行った。
駿介はそれに対してもはや呆れと言うよりも一種の諦めでため息をついた。
キッチンにと辿り着けば彼女はもう洗い終えたのか手をタオルで拭いているところだった。
「今日はハンバーグだし、取り敢えず玉ねぎを切る。だからその間お前はボウルに入れた挽肉に塩を入れて混ぜてくれ。それくらいは出来るだろ」
「りょうかーい!」
駿介と小嶋はそれぞれの仕事を持って、場所に向かう。
駿介は玉ねぎを手に取って、皮を剥いてから微塵切りに。
小嶋はボウルの中に挽肉を突っ込んでから塩を振って混ぜて塩を振って混ぜてを何度か繰り返した後によく捏ねて混ぜて、と。
「混ぜ終えたら卵とパン粉とか、そこに材料が書いてあるメモがあるからそこに載ってる奴らを入れてってくれ」
「あいあいさー!」
駿介は横目で大丈夫かと小嶋の方を観察しつつ包丁を動かし続けていたが余所見をしていたからか包丁で指を切ってしまった。
あまり深くは無く擦り傷程度として処理出来るくらいだが、どうやら彼女には見過ごさなかったらしい。
「いつ…やべ」
「あれ、駿君指切ったの?消毒して絆創膏貼ってきなよ。そのままやると菌がどうたらで大変ってよく聞くし」
「いや、こんなん唾でもつけときゃ治るし…」
「駄目だよ駿君!それじゃ早く治る物も治らないし!」
「だからいいって」
「駄目!」
彼女はそんな風に叫べば部屋を出て行き、その数秒後プラスチックのケースを持って帰って来た。
よく見れば消毒液や包帯、絆創膏などが入ってるのが見えて救急箱というのがわかった。
「ほら、指出して駿君」
言われるがままに指を差し出すがどうにも慣れてるように見える小嶋の様子。
消毒液を綿に染み込ませ傷口に当てて、その後に絆創膏を貼ると言った鮮やかな手つきである。
「…さんきゅ」
「放置してたら駄目だよ駿君。そう言うのが取り返しのつかない事を招くんだから」
初めて小嶋の奴が頼りになる、と駿介が思う瞬間であった。
間違っても口には出さない。言えば調子に乗る未来が見えるし、何より何を言われるかわかった物でも無いからだ。
「…取り敢えず作業に戻るぞ」
「はーい。で、玉ねぎは入れちゃっていいの?」
「ああ、入れろ。そしたらまた混ぜるぞ。
本来なら手袋なりを付けさせてやりたいが、生憎キレてることを忘れててな」
「んーん、大丈夫だよ。と言うか駿君、その指じゃ触れないし、見ててよ。見ててもらうことに専念してもらった方が駿君も教えやすそうだしね」
「まあ、それはそうだがどうにも申し訳なさがな」
「ほいっ、混ぜ終わったよ」
「したらサイズ感を決めてハンバーグの形を作れ。空気は出来るだけ抜けよ。生焼けの原因になりかねん。あとは真ん中をへこませるってのも忘れずにな」
彼女は駿介がそう言うと集中し始めたのか無言になった。
真面目な顔付きとなってハンバーグの生地を注視している。
ただ恐らく言わなくてもやっていただろうとは思う。
具体的な指示はしてないが、ある程度形作れば左右の手でキャッチボールを始めたので問題は無かった。
ある程度やれば真ん中辺りを親指で押し込み、凹みを作れば俊介に見せてきた。
「どーお?こんな感じでいいかな?」
「…まあいいんじゃないか?」
厚さやサイズも薄すぎず厚過ぎず、小さ過ぎず大き過ぎずでちょうどよく思える。
強いて言うなら挽肉が予想以上に余ったことだがそれも余分に作ってラッピングして冷凍庫に突っ込んでおけばまたすぐに使えるだろう。
「じゃあ焼くがまずは焼き目が付くまで焼いてくれ。そしたら水を少し掛けて蒸し焼きで、完成と言ったところか」
「お、ついに!?楽しみだなぁ」
「まだ焼いてないんだから、落ち着け。それで物を倒されて洒落にもならないことに繋がるのはごめんだぞ」
「あ、ごめんごめん」
薄く油を引いてからフライパンを加熱し、その後に二つハンバーグの種を入れさせる。
そして数分経ったら焼き目がついていることを確認したのちに裏返させて、そのまた数分後焼き目がついているか確認させて、蓋を閉めて蒸し焼き状態にして少し放置しておく。
「じゃ、あとは置いておくだけだし、何か付け合わせでも作るぞ。作れる物はサラダくらいだが、千切りキャベツでも作るか」
「千切りキャベツ…ああやって細く切るのどうやるのかよく知らないんだよね。アレってどうやってるの?」
「慣れれば簡単ではあるぞ。最初うちはよくわからないけどな」
「へぇ。勉強させてもらいまっす!」
最初からそのつもりで来ているだろうに。
そんな風に思いながら駿介は冷蔵庫の野菜室からキャベツを取り出し、外側の一枚を取ってからもう一枚むしってキャベツ本体をしまう。
そうしたら後にむしった方の葉を水で濯いでから包丁で細く切っていく。
この時に葉脈に沿って切っていくと食感がふんわりするのでおすすめだ。
「とまあ、こんな感じに取り敢えずたくさん刃を入れるみたいな感じだ。
あとは葉脈に合わせて切れとしか」
「へぇ、アレってそんな風に切ってたんだ」
「そろそろハンバーグも良い感じに焼けた頃だろうし、一旦爪楊枝取ってくれ。そこの引き出しに入ってる」
「はいはーい。ほい、これだよね」
「そう。それだ。それ以外にあるか?」
駿介が先ず蓋を開けると周囲に焼けた肉のいい匂いと、肉汁の音が響く。
そのどちらもが夕飯時に近いため空いてきたお腹に更に食欲を刺激するいいスパイスになっていた。
駿介は手渡された爪楊枝をハンバーグに刺し、肉汁が溢れていることを確認すれば頷いて火を止めた。
ハンバーグの完成である。