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休日の朝

「…ん…?」

駿介は硬いテーブルと頭で挟まれた腕に僅かな痛みと痺れを感じながら頭を上げた。

寝ていた駿介は寝ぼけている様で、瞼を擦りながらに周りを見渡した。


日付は変わっているが窓の外を見ればまだ暗く、時計の指し示す時間はまだ2時と高い。

目の前を見れば駿介と同じように寝てしまったのかテーブルに突っ伏した小嶋の姿が見えた。


「………ああ、そう言えば勉強を教えるとか言ってすぐに帰ってきてたんだっけか」


取り敢えず暖かくなってきたとは言えまだ春。

当然夜は冷えるし、彼女は薄着だったので風邪をひきかねない。

部屋に返すべきかと悩むが、一応こいつも女である。女の部屋に無断で入るのは憚れるし、そもそも鍵も小嶋の服から探し出さなければならなくなるので却下だ。

かと言って放置もまた風邪を引かれそうで怖い。


「仕方ない、毛布でも掛けて放置するか…。

あまり触ったり動かすのもアレだしな」


駿介は薄めの毛布を持ってくれば小嶋の背中にそっとかける。

ぐっすり寝ているようだし余程大きな音を立てなければ起きることも無いだろう。


駿介はと言うとまだ夜遅く、朝は遠いと言うのにやけに頭がスッキリしているのでまた寝付けるかと言われると無理そうだ。


仕方ないので何かやろうとは思うが、静かにやれることが見当たらない。

夕食の時に使った食器を洗おうにもキッチンとソファの位置は近く、水音で起こしてしまいかねないし、なにより彼女の食器と自分の食器を纏めると分かりづらいので少し不便である。


仕方ないと割り切ってやるか、それとも予習を再開するか。

彼女を見るとぐっすり眠っている。

余程疲れたのだろうか、こいつの抱えていそうな問題も気にはなる。


おそらく今日…昨日孤立していたのもそれが原因で壁を作ってとかだろう。

ただそれで駿介の所ににすぐ来るのは何故かと言うのも気になる。


「…ぼーっとしてるのも退屈だし、何かするか」


駿介はそんな風に呟いて席を立った。

何をやるかと言えば食器洗いである。

今やっておけば朝には乾くだろうし、音に関しては注意を払い、食器に関しては水切り用のカゴが予備で納戸の中にしまっておいた筈なので持ってきて分ければ良いだろう。


そうと決まればカゴを持ってきて、取り敢えずテーブルの上に出したお茶のカップも一旦回収する。

駿介は夕食に使った食器類を水に洗剤を少し入れて漬けておき、勉強の際に出したカップと小皿を洗った。

ちなみに駿介は食べた記憶が無いにも関わらず二人分の皿のほとんどが無かったので、全て小嶋が食べている。


一応音を立てないよう必要な時以外に水は止めてはいるものの、やはり完全に水音を止めることは出来ないため駿介は起こさないか冷や冷やしながら食器を洗い終えた。


駿介はある程度の水気をタオルで拭き取ってから水切り用のカゴに食器を揃えて置いておく。


「…よし、無いな。じゃあ予習にでも戻るか」


他にやることも無くなったので勉強に戻るため席に着いた。

教科書を開いて問題を解いていくがその途中で解けない問題にぶち当たった。


どうにも公式の使い方が分からない。

ふと彼女の方を見てみると、同じ問題をやっている場所がチラッと見えていた。


「…少し借りるぞ」


駿介は悪いとは思いつつ、頭の中で「勉強を教えるって言ってたしな」と言う風に言い訳しつつ彼女の下からノートを引き抜いた。


彼女のノートは分かりやすく、要点がまとめられており各問題の引っ掛かりそうなポイントや大事な点が綺麗な字で書かれていた。


起きている時には口頭での説明でだったのでノートをよく見て居なかったが、マメな性格らしい。


彼女のノートを端に置いて、また進めていった。







駿介がもう一度起きた時にはもう朝であった。

どうやら予習を進めている最中に寝てしまったらしい。


時計を見れば七時と、夜中に一度起きてしまった割には早く起きれている。

小嶋の方を見ればまだ寝ており、俄然様子は変わっていなく、健やかに寝息を立てていた。


「流石にそろそろ起こすか…?」


時間は七時、平日としては起きるのにちょうど良い時間だろうが、休日としてはまだ寝れる。ただ昨日の遅刻スレスレを考えると起こしてやるべきか。


駿介がそんな事を考えながら彼女を見ていると彼女が顔を上げた。


「…んぅ…?あれ…どこだっけここ…?」

寝ぼけているらしく瞼を擦りつつ顔を上げた彼女は部屋全体を見渡して少し違和感を覚えているようだ。

それは当然の話だが。


「…んー、あっ!えっ…」

「起きたか。それじゃあとっとと帰れ。一晩も居たんだしな。食器類はキッチンにあるカゴの中に入ってるからカゴは今度返してくれりゃ良い。じゃ帰れ」


駿介はそんな言葉を言っているうちに彼女ノートや筆箱を食器類を持ってきていた鞄の中にと入れて彼女に持たせ、その後にカゴを押し付けた。


「いやいや、帰れないよね!?そもそも何で私ここに居るの!?」

「お前が勉強を教えてやるとか言って来た。そんで途中で寝落ちだ」

「なんで知ってて起こしてくれなかったの!寝顔とか見られるの恥ずかしいじゃん…」

「知らん。ぐっすり寝てた自分に言え」

「むぅ…」

「別に俺としてはお前の部屋に返してやってもよかったがそうするとお前の体から鍵を探さなきゃ行けなくなる。それでも良かったんだぞ?」

「へ!?…いやそのぉ…なんでもない」


ちょっとした意趣返し程度に強がりを混ぜてみたが、効果はてきめんらしく恥ずかしそうにしている。

言っている自分もそんな事したらとか考えるとどこか照れ臭くなってくるので目を逸らしたが。


「…まあ良い、取り敢えず今のところは帰れ。夕食時は暇か?」

「え、あ、うん。暇だけど…」

「じゃあちょうど良い。来い。料理教えてやる」

「あ、分かった。…それじゃあね!また夜!」

「おう」


嵐のように捲し立てたと思えば嵐のように去っていった小嶋は焦っているように見えた。


ちなみにその後駿介は母親にと電話をかけ直し、誤解を解くのに全力を尽くしたらしい。

が、その甲斐なく。

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