夕食
七時になって少しが経った頃、またチャイムが鳴った。
今度は声はしなかったが物音が凄い。
なんだなんだと開ければ何も無いと言う風に鍋と、肩掛けの鞄を持った小嶋が立っていた。
「やっほー、駿君。出来たから持って来たよ!」
「…鍋ごと?いや待てお前、そっちの肩にかけてる鞄はなんだ?」
「何って…食器だけど。ほら、感想聞くならリアルタイムの新鮮なやつの方がいいでしょ?」
「食ったら後で感想だけ伝えるから帰れ。
隣なんだからそう時間もかからんだろ」
「えー、やだよ。折角なら作ってあげたんだから感想を生で、早く聞きたいもん!」
駄々を捏ねる子供の様に思えるほどに自分の意見を通そうとして来る小嶋に諦めるかと駿介はため息をついた。
と言うよりも、言っても無駄だろうと悟ったのが大きく、諦めさせられたの方が正しいだろうが。
「…仕方ない、上がれ。鍋の方はまだ暖かいのか?冷めてたりする様なら加熱するが」
「あ、割と作りたてだから問題無いよ。まだあったかいし。あ、作ったのは煮付けね」
「馬鹿かお前。煮付けは冷やして作ったら時間を置くって言うことは知らんのか。あ、鰆だけは出しておけ。身が固くなる」
「…え、何それ、始めて知った!?」
「…小嶋の料理が微妙って言う自己評価に落ち着いたのがよく分かった気がするよ」
リビングに行くまでにそんな会話をしながら歩く二人。
駿介は小嶋の料理の方法に呆れる様に額を抑え、そのまま鍋を奪う様にしてキッチンにと持って行った。
「あ、ちょ。駿君?持ってかないでよ」
「時間を置くためにキッチンに持ってくだけだ。少し待ってろ。ソファにでも座っとけ。部屋の作りは同じなんだから、間取りは分かるだろ」
「むう…」
「不服そうだが知らん。こればっかりは小嶋が悪いんだぞ」
駿介がキッチンのコンロの上にと鍋を置いて、棚からタッパーを取りそこに鰆を移していると小嶋が隣にやって来る。
「やっぱり料理上手でしょ。この動き手慣れてるもん」
「知らん。邪魔だからソファで待ってろと言っただろ。ほれどけ」
「はーい」
小嶋をどかし駿介がタッパーに鰆を納めると煮付けの鍋とタッパーの蓋を閉めてキッチンを後にした。
小嶋を横目に駿介はソファに腰掛けた。
こうして見ると小嶋はその見目は随分と良く思える。
髪に艶はあるし、肌にも張りがあるように見えるし、睫毛も長く体全体のラインも細く、出ているところは出ている。
目鼻の位置や高さと言った顔立ちも整っているし、性格も考えればこんな少女がトラブルを抱えているなど、一度その地雷を踏んでも見なければ分からなかっただろう。
「…あの、駿君?流石にそんな見られると恥ずかしいんだけど…?」
「…あ、ああ。悪い」
頬を赤くし照れる小嶋はやはり小動物の様に見える。
華奢で小柄で、と元から小さい彼女が更に縮こまる事でそう見えるのだろう。
だからと言って駿介どうすることもないが。
「あと10分くらいだが…暇だろ?部屋に帰っておけよ。他人の部屋ってのも居心地悪いだろ」
「んーん、10分くらいならすぐだし、そんなすぐに帰ってくる事になるなら面倒だから此処に居るよ。あ、というか私アレやりたい」
小嶋が指さした先にあるのはスタンドに納められたゲーム機だ。
10分くらいしか時間がないのにやれるゲームなんてあっただろうかと思ったが承諾し、駿介はソファを立った。
「やるのはいいが10分しか無いのを忘れるなよ。で、どんなゲームがやりたい」
ソフトが収められたケースを彼女の方に投げ返ってきたソフトをゲーム機の中に挿し込んだ。
コントローラーを取って渡してやれば一人で勝手に進め始めていた。
彼女が選んだゲームはパーティーゲームで複数人でやるようなゲームだ。
「む…このNPC強いよ駿君!」
始めて五分ほど経った頃にそんな風に小嶋が話しかけて来た。
画面を見ればパーティーモードでは無くそのパーティの中で行われるミニゲームだけをやるモードをやっていた。
「ちょっと駿君も手伝ってよこいつ倒すの!」
「あと五分だけな。終わったら飯だ」
駿介もコントローラーを手に取って、マルチでプレイを始めるミニゲーム。
「なんだこいつ、マジで強いじゃないか」
「でしょでしょ?やっぱ強いよね」
「さてはお前強さ設定弄っただろ」
「…ん?強さ設定?」
「そういうのがあるんだよ。NPCのキャラクターを選ぶときにいじっただろ」
「あー…そう言えばなんかすごく強いとか良いじゃんってした記憶が…」
「それだよバカ」
「まあ良いじゃん!強いほど燃えるってね!」
呆れたと言うかなんと言うか、そんな駿介のため息が騒がしい室内で吐かれた。
だがまあ、彼女の言う事も一理あるとゲーマーのサガが疼いた駿介も熱中してすごく強いのNPCに挑み続け、気が付けば当初の予定から大きくはみ出ていた。
「…ふぅ、漸く倒せたな」
「やったね駿君!」
そこで駿介は時計を始めて見て、時間が過ぎている事に気付いた。
「…あ、ちょっと待ってろ。もう飯だ。
とっとと片付けるぞ」
「あ、そう言えばそうだったね。
ご飯食べた後もやらせてね。楽しいもんこれ」
「取り敢えず片せ。コントローラーはテレビ台に置いておいてくれれば良いから」
「はーい。というか配膳とかは私がやるから駿君は座ってて。ほら、私が作ったわけだし」
というので椅子に座って待つ駿介。
だが数秒後に「あ」と言った言葉が聞こえてきたのでキッチンに様子を見に行くために席を立ち、歩いた。
「なにやってるんだ?」
「あー…いやその…タッパーから鰆を移そうとしたらなんと言いますか…身が崩れちゃってね…?」
「タッパーひっくり返しとけば良かっただろそれ。馬鹿なのかお前」
「そうじゃん。うわぁ、やらかした」
そんな事があったもののそれ以降、何かあったという事は無く、滞りなく皿に盛られ、食卓に皿が並んだ。
「いただきます」
「どーぞ!」
ひとまず、煮付けに箸を伸ばして口に運んでみれば駿介は眉を顰めた。
極端に味が薄く、それでもってパサパサしているのが目立った煮付け。そして、臭い。
口に入れてわかったが、魚の臭さが取れていなかった。
「…お前さ、下処理したか。やけに臭いぞ。ついでに言えばパサパサしてるし味も薄い。調味料はどれぐらい入れたんだ」
「下処理…?て、何かするのこれ。
調味料は取り敢えず適当に入れたから覚えてないかなぁ…」
「…湯引きとか、塩かけて寝かせておくとか、魚とは基本的にそう言った下処理をするものだぞ。そりゃお前の料理も微妙になる訳だ。他にも色々と突っ込みたい所はあるけどな」
「へぇ…始めて知った。それじゃあ駿君、私に料理教えて!」
「なんでだ、そもそも料理教えろって言うが大体ネットに載ってるだろ」
「ネットだと文字だけだから分からないの!だけど駿君に教えて貰えばほら、分からなかったらすぐ質問出来るし」
「俺だってそんな上手く無いんだけどな。
仕方ない、このままだと死にはしないだろうけど不安だし、基本的な事は教えてやる」
「やったー!これで私の食事事情が改善される!」
余程嬉しかったのか席を立ってのガッツポーズをしている小嶋に行儀が悪いと窘め、取り敢えず無心で食事を終えた。




