高校の始まり
あんな三月の最後を思い出していると教室の扉がいきなり、それも強めに開いた。
ガッと開いた扉に注目が集まり、そんな中から茶髪の短めの髪の活発そうな少女、そう、小嶋清花である。彼女が駆け込んで来た。
「うへぇ…間に合ったぁ…ぜぇ…ぜぇ」
時計を見れば登校時間ギリギリ、初日から遅刻スレスレとはよくやる物である。
と言うか登校時間は殆ど同じな筈なのでそう遅刻する距離だったりするはず無いのだが。
彼女は教室全体を見渡して唯一空いている席に座った。
割と近く、と言うか隣の席である。
さっきクラス表見た時は気のせいと流していたが、気のせいでは無かったらしい。
「…あれ、よく見たら駿君…?駿君だよね!
隣じゃん!これからよろしくね!」
「ああ、おう。…まさか隣とはな」
「ね、びっくり!」
隣だからなんだとは思うが彼女的には嬉しいらしい。それとも見知らぬ場所に顔見知り程度と言えど近くに居るのが安心したのだろうか。
そんな風に話していればチャイムが鳴って、担任らしき男が教室に入って来た。
「よし…取り敢えず欠席者は無しだな。
あああとそこの…えー、小嶋は廊下を走るなよ。
更に遅刻ギリギリ、してないとは言え続けば指導が入る可能性があるから気を付けろよ。新入生を開始早々指導するのは流石にだからな」
「あ、はーい。すみません」
先程のダッシュは見られていたらしく、注意されていた彼女が恥ずかしそうに答えていた。
「それじゃ入学式の軽い流れとか説明するぞ」
説明が始まりクラス内が静かになる。
事前に配布されていた手紙とその内容は変わらず、目新しい事は無かったが一つ、駿介が驚いた事があった。
新入生代表の挨拶を小嶋がするらしい。
聞いた時に思わず目を見開いて小嶋の方を見たら駿介の視線に気付いたのか、小嶋は小さくピースをしていた。
その顔はどう?どう?と非常にウザい物であったが。
そこから説明が終わり、入学式も筒がなく終わった。
入学式が終われば午後に歓迎会が行われるらしい。
「なるほど、だから昼飯の持参と」
駿介は席で一人、包みを開いて朝握ったおにぎりを二つ取り出した。
具は鮭とツナマヨ。駿介はおにぎりの具に関してはこの二つが好みである。
周りを見れば中学が同じなのか席がある程度離れても集まっているグループや、席が近くだからと仲良くなっているグループとある程度纏りが出来ている様だった。
あまり周りと関わる事が得意じゃない駿介は無論一人だが、他にも一人なのが意外な奴も居た。
小嶋だ。あの活発そうな様子から友達くらいすぐ作りそうだと思っていたがどうにも彼女は一人に見える。
「…あ、あれ?何処にしまったっけ…?」
と言うか、一人以前の問題に昼飯が無い様にも見えるが。
まあ、駿介の知った事では無いので無視して食べ始めるが。
「もしかして忘れて来たちゃったかな…?」
隣から視線を感じて、その視線の持ち主の方を駿介が見れば駿介の方を見つめる小嶋が居た。正確には駿介の持つおにぎり、を見ていそうだが。
「ん…やらんぞ。これは俺の昼飯だ」
「えー、そんな事言わないでさぁ、一つ頂戴?ほら、周りは固まってたり一個と数えられたり出来る感じじゃないし流石に会って間もない人にご飯頂戴なんてお願い出来ないからさ。ほんとっ、お願いっ」
顔の前で掌を合わせて頭を下げてくる小嶋。
周囲もそれに対しなんだなんだと見て来ているので妙に居心地が悪い。
これではこちらが悪者の様に感じられ来てしまう。
「…仕方ない奴だな。ほれ、一つだ。ツナマヨだがいいな?」
「ほんとっ!?ありがと駿君!大好きだから大丈夫だよ!」
居心地が悪いのは苦手だし、悪目立ちも避けたいしな、そんな風に頭の中で言い訳をする俊介を他所に、小嶋はおにぎりを頬張っていた。何かに焦っているのかと思うほどに口の中に詰め込んで頬を膨らませているせいで、ハムスターのようにも見えた。
「たくっ…あんまり焦って喉詰まらすなよ」
「んぐぐっ…大丈夫大丈夫。きちんと噛んだからね!あー!美味しかった。もしかして駿君って結構料理上手?おにぎりが綺麗な三角だったし崩れにくかったんだけど」
「そりゃお前、一人暮らしする上で一通りの家事スキルは必須だろ。え、まさかお前出来ないのに一人暮らししてんの…?」
「いやいやそんな事は…無いよ、うん。無い無い。料理はなんか…微妙な味になったりするし掃除はなんか偶にする前より散らかったりとかするけど出来るよ!うん」
「…それ料理はともかく、掃除は出来るって言わないだろ」
駿介がよく分からんと言った困惑の目で見つめれば小嶋はあははとでも言う様に苦笑してみせた。
「…まあ、逃げる様に出て来ちゃったところあるからそこら辺あんまり考えてなかったり…ね?」
「ね?じゃ無くてだな…いつかお前死ぬぞ」
「死なないよ!全く失礼しちゃうんだから!と言うかそんな風になる前に教わりに行くから、問題無しっ!」
最早言葉を返す気もなくなった駿介は額を抑えてため息をついた。
彼女も若干不服そうだが口を閉じている。
その様子を見て思わず駿介がもう一度ため息をついたところで昼食の終了のチャイムが鳴った。