体育祭後
あのあとの障害物リレーは何事も無く終わった。
清花と一緒だからと言って何かあった訳でも無く、強いて言うならいつも通り騒がしい彼女がいつも以上に騒がしく浮かれていたようだが、逆に言えば変わった事といえばその程度でしか無い。
体育祭自体も滞り無く終わり、もう打ち上げである。
うちのクラスの所属している組の優勝で終わったためその祝勝会や、始まったばかりのクラスの親睦を深めるためだと言っていたが、理由を付けて騒ぎたいだけに思えた。
「楽しんでるか〜?駿介。
今日は珍しく騒いでなんぼの日だからな。
お前も楽しめよ」
「景、お前ならどうせ俺にこんな騒がしい場所は馴染めないって分かってて言っているだろ」
皆が集まった場所はカラオケ。
流石に一クラス丸々は人数が多いので三部屋ほどに分けられているが、景の配慮のおかげか清花や景と同じ部屋に割り振られている。
「まあまあ。お前も話してみると気の良い奴なんだ。これを機会に少し友好の輪でも広げてみたらどうだ?」
「遠慮しとこう。騒がしいのはアイツでもう腹一杯だ」
そう言って清花の方を見ると友達と話しているのが見えた。
ただ、やはり壁を作っているように見える。
どこか一歩引いているような、そんな風に。
「ま、確かに小嶋さんは騒がしいかも知れないが、そこまでじゃないか?比較的おとなしく見えるが」
「馬鹿かお前。アレは充分過ぎるくらいに騒がしいのカテゴリーに入るだろ」
「…あー、お前に話しかけてる時はそうかもな。確かに」
「…まあ、確かにアイツが俺以外と話している時には大人しく見えるが、別に何かあるって訳じゃないだろ。過去に何かあった、とかな。あまり突っ込んでやるなよ。そう言う過去を突っ込まれるのは面倒だ。たとえ本人が割り切っていても、な」
「…ふーん。そうか。ま、なんとなく色々分かったわ」
何やら分かった風に頷く景に不審な物を見る目を向けてやると逃げるようにして「今度は俺が歌うぜ」と言いながら曲を選び始めていた。
はぁ、と冷ややかな目を送るが意味もないと分かり、水を飲み干した。
「あ、駿くーん。駿君は歌わないの?」
目を向けると友達の輪から抜け出してきた清花がすぐ近くにまで来ていた。
隣に座り込んでふぅ、と一息付いている。
「お前だって歌ってないだろ。俺に言う前に、自分がやったらどうだ?」
「私は遠慮しておこうかなぁ。歌はどうにも苦手で…あははー」
「なら、俺もそう言う事だ」
乾いた笑みを浮かべる彼女に対して取ってつけたような理由を述べる。
むっ、と言った様子でこちらを見てくるが軽くデコピンで黙らせておく。
「酷くない!?か弱い女の子にデコピンとか!」
「お前の顔がうるさかった。後悔も反省もする気はない」
「してよ!そこはしてよ!後悔も反省もしてよ!」
「はいはい。分かった。いつかしとく」
「…むぅ。なんだか扱いが適当になってる気がする」
「そんな事は無いぞ」
事実、駿介が適当に扱うならばもっと適当である。それこそ「ああ」「うん」「そうか」などの短い一言のみで流されるだけだ。
偶に面倒になった景に対してのいなし方がこれである。
「…つか眠い。普通に今日は疲れたわ」
「あーね。普段動かないもんね駿君。でもみんなが歌って騒いでる中でそのセリフなのもどうかと思うよ?よく言えるね」
「周りが賑やかだろうと静かだろうと俺が眠いと言うのには変わらんだろ」
少しぼーっとしてきた。眠気が襲って来て瞼が重い。こくり、こくりと頭もまた重い。
「…少し寝ちゃえば?寝れるならだけどね。
今なら私の膝、空いてるよ?」
彼女の言葉に魅力を覚えさえするが、こんな場で寝るのもどうだろうと、そして流石に膝はなどとかを考えてしまう。
ぐるぐると、思考を巡らせながら考え続けるがやはり、眠気に冒された頭では思考も回らない。
やがて、駿介の瞼は完全に落ちた。
次に駿介が目を覚ましたのはもう解散ムードのタイミングだった。
そして最初に覚えたのは違和感だった。
イスで寝ている割には頭が高く、そして柔らかい上にふんわりとした包み込むような香りである。
「…あ?」
起きてからの第一声はそんな間抜けな、惚けた声。
「あ、起きた?駿君」
「…なんだ、この状況」
周りを見て目に入るのがニヤニヤした景や男陣からの鋭い視線。女陣から来るのは温かい目である。
「…いやぁ…寝ちゃった駿君が来ちゃったから乗せてたらこうなっちゃって…ね?」
「うわ…はっず。…帰るわ。良い時間だろ」
「あ、私も帰るー」
瞼を擦りながら駿介は立ち上がり、鞄を手に取った。
それに続くように清花も荷物を取った。
駿介は逃げるようにしてその場から去ることにした。




