第8話 分かったことは一つだけ
間が空いてしまい申し訳ないです>△<
続きをどうぞ!
「オマエ、うちのコンビニにはよく来るのか?」
電車に無事に乗り、一息ついたところで、京介はいくつかあるうちの疑問の一つをぶつけた。
遼や新谷の発言から、ある程度の常連なのだろうと予想はつけているが、いかんせん新谷が情報源だと信憑性がない。なにしろ新谷は、一度見て自分がイイと思った女の子の顔は忘れない男だ。一度来ただけの女性客の顔でも忘れないのだから、ひとえに相手が常連客だとは言えないのである。
京介の唐突な質問に、微妙に間を開けて隣に座る彼女は、向かいの窓にやっていた視線を緩慢に寄越した。
肩より少し長い、ストレートの茶髪がさらりと揺れて、京介は意味もなくそれをちらりと見る。
「なんで?」
「…新谷が、おまえのことお気に入りみたいだから」
「は?ニイヤ?」
誰それ、と目線で訴えて彼女は首を傾げた。
そっか、コンビニ店員の名前なんてふつう覚えてないよな、と京介は新谷の容姿を説明する。
「茶髪で、ワックスでちょっとだけ毛先立ててる…人懐っこい感じの、俺と年同じくらいの店員」
「あぁ…あの人。苦手」
苦手。今苦手と言ったか、あの新谷のことを。
「たまに物買いにレジ行けば、無駄にキラッキラした笑顔寄越すんだもん。どう返したらいいか、分かんない」
それだけぽつりと言うと、謎だらけの少女はまた黙りこくった。
初めて会ったときからイマイチ人付き合いが苦手そうな雰囲気はあったが、まさにその通りだったらしい。新谷オマエ、得意の色仕掛けが効いてない、どころか逆効果になってるぞ。
そんなことを本人に言ったら、ショックを受けるだろうか。
とにもかくにも、今ここにその本人はいないのでその想像は早々に打ち止めて―――でも多分今携帯を見たら新谷その人からきっとすごい数の追及メールが来ている―――、京介は窓の外を見ている彼女をそっと観察した。
やっぱり10代に見えるんだけど、なんなんだ家出なのか?
でもさっきから携帯すら確認していない。というか、もはや持ってるかどうかすら怪しい。
親はどうした、何も言ってこないのか。
―――その類の質問は、しない方が良さそうだというのはなんとなく雰囲気で分かる。
今自分が聞くことを許されているのは―――
「オマエ、名前は?」
ここまでな気がした。一緒に行動するうえで、必要最低限なライン。
「ナマエ…」
オウム返しに呟く彼女に、これもアウトだったかと一瞬ぎくりとする。
でもだったら、呼ぶときどう呼べばいい。
反論されてもないのにそう反論し返そうとして、けれど京介は口をつぐんだ。…息を吸って唇を開く彼女に、気づいたからだ。
「名前は…コウ」
「コウ?」
「そう。コウ」
それ以外は言うつもりはない、と言外に態度で示して、彼女はまた視線を窓に戻した。
まあ、とりあえずはこれで呼び名に困ることはない。言いたくないことを無理に聞くつもりはないし、向こうも言わないだろう。誰だって人に語りたくないことはあって、それを「わがままに付き合ってやってるんだから事情を洗いざらい説明しろ」なんて、そんな子供なことを言うつもりはない。
そもそもが、自分で選んで一緒に来た。そこに文句などつけるものか。
…それでなくてもなんかややこしい事情ありそうだし。
そう思うのは初めて会ってから今までの雰囲気からの判断だった。
ふとコウに目をやれば、目を閉じて窓に頭を預けている。けれど寝ていないことは力が入った肩と、眉間に寄った皺のせいで一目瞭然だった。
何をそんなに肩肘張ってるんだ、と言ったら怒られるだろうか。
あんたには関係ない、と一蹴されて終わりかもしれない―――この場合文法的表現ではなく現実の行為としてあり得るから恐ろしい―――。
それでも、出会ったばかりのこの少女の、肩の荷を降ろしてやりたいと思うのはエゴだろうか。
電車は、予定通り目的地に向かって運行を続けている。
…エゴでもいい。それでこいつが―――コウが、少しでも楽になるなら。
そう思うから、京介はもうコウのやることに最後まで付き合おう、そう決めていた。
とりあえず今日は直通で函館へはたどり着けない。一旦降りて一夜を越してから次の日また電車に乗り直さなければならないのだが―――なにしろ今回は普通列車での旅だ―――、京介は決めかねていた。
…泊まりって、いろいろどうするべきなんだ。
そんなわけで、亀だか兎だか分からない不定期更新ですが読んでくださった方本当に本当にありがとうございます!
どれだけ遅くなっても連載中止のような事態になることは必ずないと約束致しますのでどうかこの先もよろしくお願いしますm(__)m
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