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第33話 祭りのそのあと

 居間に戻ると、おしゃべりは続きながらも散らかったものをみんなが片づけ始めている空気になっていた。

「戻ってくんのおっせーよ深山。どんだけ王様ゲームの命令が嫌だったんだよ」

「そうですよー、あたしも背中押してあげたのに」

 そういえばそういう流れで部屋を出てきたのだった。待たせてしまったことを少し悪いな、と思いながらもここは乗っておいた方が自然だろうと京介は言葉を返す。

「嫌に決まってるだろ、なんで俺と新谷がポッキーゲームしなきゃなんないんだ」

「仕方ないだろ、3番と5番が当たっちゃったんだから。でも僕、あの後命令変えたんだよ」

 王様役だった遼が皿を片づけながらそう言った。

「でもまぁ、おかげでこれからは親しみを込めて新谷のことを太郎ってみんなが呼べるようになったんだから、ほめてもらいたいくらいだね」

「そうですねー、あたしたちも太郎さんと呼べて嬉しいです」

「そうですよ太郎さん!」

「え…そ、そう?」

 女子高生組にもてはやされるとまんざら嫌でもなさそうだ。

 よかったじゃねーか太郎。

 心の中で言ってやりながら京介も片づけに取りかかる。

 居間のゴミを新谷と女子二人で片づけている間、京介はキッチンまで洗い物を運ぶ作業をする。残りの食器を持ってその後を遼がついてきた。

「あ、さんきゅ」

「ううん。部屋、貸してもらったし僕ら早く帰らないと悪いでしょ」

「…誰にだ」

「誰にだろうね。でも、そうだろ?」

 いつもどおり表情を崩さない遼だが、なんとなく言葉尻が優しい。

 ーーーほんとにまったく。

「…遼、今度飯喰いに行くか」

「ほんと?もちろん深山の奢りだよね」

「分かり切ったこと聞くなよ」

「じゃあ喜んで。あ、でも…」

 ふと思い当たったように遼の食器を片付ける手が止まる。

「僕、やきもちやかれない?」

「は?いや、大丈夫だろ。男同士だしーーー」

「そっか。やっぱり女の子なんだな。久しぶりの彼女、おめでとう」

「………」

 はめられた、と気づいたがもう遅い。そして思う。きっとこの男は相手が誰だかも確信したうえで言っている。

 もはや苦笑しかできない。なので精一杯色々な感情を込めて返事した。

「………どうも。」










「帰ったの?」

 玄関からみんなを送り出して踵を返すと、そこにはコウが立っていた。少し眠そうに目をこすっている。

「あぁ、どうにか無事に」

「そっか。みんな楽しそうだった?」

 近寄ってきながらそう訪ねるコウはなんの他意もなく、心底それを気にかけているようだった。恐らく結構な時間コウの部屋にとどまらせてしまった後ろめたさがあるのだろう。

「声、聞こえてたろ。すげぇ楽しんでたよ」

 笑いながら言うとコウもほっとしたようだ。眠そうにしながらも少しだけ口元を緩ませた表情に心臓が跳ねる。

 あぁそうだ、コウって今もう彼女でーーー、

 今までも散々二人で生活してきたのに、いきなりこの状況を意識した。正真正銘、この部屋には自分たち二人しかいない。10代のおつき合いにありがちな、いい雰囲気のところで家族が帰ってきて、とかそういうことはまずありえない。つまりは。

「…俺らも、そろそろ寝るか。コウも眠そうだし…」

 変に言葉が詰まりうまく彼女の目を見れない。自分の部屋に向かって歩きながら、コウの横を通り過ぎる。すれ違いざま、おやすみと言葉を残して自分の部屋に入るつもりだった。今のタイミングで長く一緒にいると、非常にまずい気がしたからだ。主に自分の理性の面で。

 しかしその計画はもろくも崩れ去る。それはすれ違う直前だった。服の端が、ぴっと引っ張られる感覚。振り返ると当たり前だがコウがその犯人で。

「…部屋、戻っちゃうの」

 また心臓が跳ねる。

「そりゃ、時間も遅いしそろそろ寝ないと」

「でも、あの。あたし」

 服をつかむ力が強くなる。うつむきながら小さな声でコウは言った。

「待ってろ、って言われたから待ってたんだけど…もう、一緒にいれないの?」

「………」

「あの、だって今日はなんか…その。とくべつ…だから。もうちょっと一緒にいたいっていうか、離れるの寂しいっていうか」

「………」

「だから、その…」

「………」

「な、なんか言ってよ」

 沈黙する京介に耐えきれなくなったコウが泣きそうになりながら言う。その様子を見ながら、

「いや…」

 ーーー京介は思考が止まっていた。いや止まりつつフル回転していたと言うべきか。

 いや、だって、なんだこの夢展開。

 それはつまり一緒に寝たいってことか。いいのか。でもコウはきっとほんとに一緒に寝たいだけなんだろうし。でも同じ布団でコウと寝て、自分も同じように眠れる自信はほとんどない。というかゼロ。ぜったい触れてしまう自信がある。いやそんな自信あってもコウには迷惑なだけだろう。でもコウの希望は叶えてやりたいし。

「きょうすけ…?」

 名前を呼ばれてはっとする。

「あ、コウあのな…」

「あのね、べつに、京介が嫌ならいい。あたしは京介を困らせたいわけじゃないから…」

 服から手が離された。考えるより先にその手を取る。

「困ってねーよ。ただ、色々考えることもあるだけだ。でも一つだけ確かなのは」

「うん」

「俺は、コウの笑顔が好きなんだ。俺がしてやれることならしてやりたい」

「…うん」

「今日は一緒に寝るか」

「…………ん。」

 コウはこくっと頷いた。そしていくらかの間があった後、

「ーーーへへ」

 その頬が嬉しそうにゆるんだ。

 ーーーだめだ、これは。

 こんなのを見せられてはまともに寝れると思えない。そうは思いながらも京介も笑顔が零れる。

 コウがこんなにうれしそうなんだ。俺がちゃんとしてればいい話だ。

 頭にぽんぽん、と手をおいた後、そのまま手を引いて二人で京介の部屋に向かう。

 長い夜になるな。そうは思いながらも結局は幸せな気持ちでいっぱいの京介だった。

たいへん長らくお待たせした割には、今回は後日談のようなちょっとしたお話になってしまいました…。長い間待っていてくれた方になんだか申し訳ありません(´・ω・`)

でもこの回はずっと次話として一年間保存されていたものでした。

次回からはまた新たな展開が始まる予定です…まわりの人たち含めて(*^^*)

がんばってなるべく早く更新したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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