第28話 ガールズトーク
その後ガールズトークに花が咲いたのは言うまでもない。
「ところでコウ、私のこともいい加減呼び捨てで『まどか』でいいよ?」
「え」
「やーい一ノ瀬実はやきもちやいてたんでしょー。あたしはまみちゃんだもんねー…って痛い!ぶたれた!」
「で、コウ。―――どうかな。いまさら下の名前とか呼びにくい?」
「ううん。ぜひまどかちゃんと呼ばせていただきます。なんか一ノ瀬さんて、いつも一緒にいるまみちゃんが苗字呼びだから、すっかり一之瀬ってほうが定着しちゃってた」
「だってかまどだもんね」
「そのはるか昔のあだ名やめてくれる?だからわざわざ苗字呼びさせてたっつーのに。」
「あ、そういう事情。なんか分かるかも」
「でっしょー!もうほんと、小学生の男子って馬鹿でさ!!」
「んで、とりあえず本題入る前に気になったこと聞いてもいい?」
「え、うんもちろん」
「さっきの話聞いてると、深山さんと一緒に住むのはコウが二十歳になるまでだったよね。そんでそれがなんだ、もうあと3日後?」
「…うん、そう」
「えーと、今日は22日だから3日後はクリスマス。まあ日付的にはもう0時回ってるから今日はもう23日だけどもそこは気にしないでいこう。それで、コウはクリスマスには二十歳になると」
「なに、一ノ瀬どうしたの」
「まみ、気づかない?私ら今何歳よ」
「え?そりゃ19……え?」
「ね、一番一般的なパターンは大学一年で18歳、誕生日来て大体12月終わる頃には皆19でしょ。そんでコウは25日に二十歳になる。ってことはだよ?」
「あ…あれーーー!?コウって、もしかしてあたしたちの1コ上なの!?」
「―――うん。特に隠してたわけじゃないけど実はそうです。…受験の時期が、ちょっとお母さんのことと重なっちゃって、次の年に学費が安いから今のとこ受け直したんだ」
「―――あ、そういう」
「あ、でも今はほんとにここ来てよかったって思ってるよ。だって二人に会えたし」
「コウってさらっと嬉しいこといってくれるよね。まーでも、ある意味納得もした。コウのレベルでなんでこんな普通の大学にいるかまったく分からなかったもんだから。ね、まみ。私らよくコウのこと噂して…って、まみ?聞いてる?」
「コウが1コ上…まじかー!!なんかショック!実は1コ下で一ノ瀬が1コ上でサバよんでたって言われたほうがまだしっくりくるんですけどーーー!!」
「2個目のたんこぶ欲しいなら喜んでぶつけど」
「あ、いや、失言でしたゴメンナサイ」
「あーほらもう、コウ密かに笑ってる。よかったじゃんまみあんたコウのこと笑わせたよ」
「わーい。ってちげー!そういうことじゃねー!」
「はい、で、本題だよ本題。えーと、つまり相談の内容は『深山さんに告白されたこと自体は嬉しいし自分も特別な感情があるのは確かだけど、それが人としての好意か恋愛感情としての好意なのかが自信がない』と。そういうことね」
改めて人に言われるとやたらに恥ずかしい。しかも、一ノ瀬の落ち着いた声で言われると余計にだ。コウは赤くなってコクン、と首を縦に振った。
「それってあれでしょ、いわゆるつり橋効果?窮地でのどきどきを恋のどきどきと錯覚するっていう。コウ本人はどう感じてるの?」
合ってるのかどうかは微妙だが、たしかに近い感じなのかもしれない。だから余計に分からない。
あたしは京介のことを人として好きなんだろうか。それとも一人の男の人として好きなんだろうか。
「うう…わかんない。それがわかんないから困ってる」
するとまみが、コウの肩をたたいてにやっと笑った。
「大丈夫だよ、コウ。そういうのはね、ほら、まどかおねえさまが得意分野だから」
びしぃ、と指を突きつけた先にはもちろん一ノ瀬がいる。ふむ、確かに得意分野そうな気がしないでもない。
「そ、そうなのまどかちゃん」
「ったく。盛り上げるだけ盛り上げて結局最後はこっちに丸投げなんだから」
文句を言いながらそこそこノリノリですっくと立ち上がり、一之瀬はまみに並んでコウの肩に手を置くと、大真面目な顔で一言こう言った。
「コウ。―――触れ」
「さわ………へっ?」
「さすがに意味はわかるよね?いや別に夜這いしろとかそういうことじゃないよ?たださ、やっぱこれが一番分かりやすいと思うわけ。だって、嫌でしょ。男として好きなじゃない人に触られるのって、すごい嫌じゃない?」
確かにそうだ。ということは何か。京介に何かしらの接触を図ればいいのだろうか。
「ま、端的に言えばそういうことかな。もしくは、一緒にいてコウ自身が触れたくなるかどうか、だね」
「一緒にいて、触れたくなるかどうか………」
口の中で繰り返す。恥ずかしい気もするが、いたって当たり前なことの気もする。
「うん、なんか分かったかも。二人ともありがとう。あたし頑張る」
純粋なコウの言葉に、思わず一ノ瀬もまみも飼い猫の寝顔を見ているような目になった。
「よーし、じゃあ、そろそろ寝ようか。そういえばすっごいまさらなこと聞くけど、コウって今日ここに来てること深山さんに言ってるんだよね」
もちろん、肯定の返事が返ってくると想定したうえでの質問だった。ところが返事は想定外だった。
「…言って、ない」
「―――わあお。なんてドッキリそれ」
まみが本気半分、冗談半分で言うが直後に一転、本気で焦りだした。
「ちょちょちょちょコウ!それまずくないっ?先輩絶対心配してるよ!」
「そうかな」
ここ何日かまともにコミュニケーションをとっていないことを思えば、一泊家に帰らないくらいでは心配すらしてもらえなさそうな気もする。何せ一方的にコウが避け続けていることを、あの京介が気づいてないわけがない。
「いやいやそうだとしても心配はするでしょ、あの性格の先輩だよっ?明日は、うーん、今日夜更かししてるから早起きはきついとしても、夕方には帰るようにしなくちゃ、ね、一ノ瀬」
「そうかもね。ということで、はい、みんなおやすみ!」
パチンと強制的に部屋の電気が落とされた。だれかが隣にいて眠るのは好きだ。安心する。
目をつぶれば急速に睡魔が襲ってきて、自分の自覚以上に疲れていたことを思い知る。ふたりとも、今日は本当にありがとう。おやすみなさい。意識を手放す直前にそう呟いたが、果たしてそれが本人たちの耳に届いたかどうかは分からなかった。
「…一ノ瀬。コウ、寝たね」
「うん。寝たね。早いね。子どもみたいだわ」
二人でくすくす笑うとコウが身じろぎする。
「おっとー起こさないようにしなくちゃ」
無声音になったまみは、まだ笑っていた。空気でなんとなく分かる。
「……まみ」
「ん?」
「あんたはほんとにこれでよかったの」
「えーと、これとは」
「だから。コウの幸せを願ってるのもそりゃ本音なんだろうけどさ。深山さんのことを好きだっていうのも、事実なわけじゃん。―――私もさぁ、確かにどっか危ういコウのことを支えられるのは深山さんだけなんだと思うんだ。でも」
「……………」
「それじゃあ、あんたの幸せはどうなんのよ。私は、あんたにだって幸せになってほしいんだからね」
ずっと考えていたことだ。一ノ瀬は、京介に恋して泣いていたまみの姿も知っている。今は心から笑っているのだろうが、まみは何でも笑って溜め込んでいく性質があるから時々心配になる。
「あっはは。ありがとね、一ノ瀬。大丈夫だよ。思ったよりあたし元気。多分どっかのおせっかいが本音ぶちまける機会くれたからだよ」
「む。ならいいけど」
「あたし、幸せだよ。いい友達がいて。一ノ瀬も、コウも優しいもん。なんかもうそれで十分」
ほら、言うじゃん。男は別れるけど友達は一生だって。だからもう無敵!あーでも、コウたちには一生続いてもらわなきゃ困るかも。
そんなことを呟きながら、暗闇の中でまみは万事OK!とピースしていた。仰向けでいまいち格好はつかないが、それでも清清しい言葉に一ノ瀬も笑う。
「やっぱりまみはそうでなくちゃね。よっアホ番長」
「なによその新しくて古い呼び名。クリスマス一緒に遊んでやんないぞ」
「どーぞおかまいなくー。どうせ当日電話してくるんだろうけど?」
「く……っ」
「はいはいいいから寝た寝た」
再度おやすみ、というと憮然とした声でおやすみと返ってきた。その声にこっそり噴出しながら、あんたと友達でよかった、なんて思ったことは、きっと一生口が裂けても言えないのだろう。
はい、ということで前回の予告とは裏腹にこっちが更新されてしまいました。
マジでシリーズの方を楽しみにされてた方ごめんなさい!!アッ石を投げないで
詳しい言い訳(←)は活動報告で行うとして、そうですね、今回は正直オイシイ回ではなかったのかなと。しかも3話分全部。笑
京介と一回も絡んでないですからね、主人公出てこない小説ってどうなんだ。
でもこれは外せないエピソードなんだよきっとうんそれが伝わるようなクオリティはせめてあると願いたい。
そんなわけで次回は京介ちゃんと出てきます^^
ここまで読んでいただきありがとうございました、また次話でお会いしましょう!