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第22話 三度目の出会い【後編】

 ―――正直言ってつまらないものを見た、なんて思っていない。ついそんなことない!と反駁(はんばく)しそうになった程には。

 家主である京介より先に家を出たコウは、大学に向かいながら道中今さっきの出来事を思い浮かべる。

 張り切って朝ごはんを作って、いつもなら京介が起きてくる時間に間に合うよう全部セッティングもした。

 しかし肝心の京介がいつもの時間に起きてこない。不思議に思って(一人で食べるのは淋しくて仕方なくて)、トタトタと京介の部屋まで向かった。

 コウ的にはまだ寝ている京介を、優しく揺すって起こすような―――そんなイメージでいたのだ。

 しかしどうしたことか。京介はもう起きているししかも裸だしで、驚きと羞恥―――それから少し見惚れて動きが止まった。

 奇声を上げた京介も京介だと思う。もっと平然としてくれればあたしだってあそこまで硬直しなかったのに、等と見当違いな八つ当たりをしてしまう。

 コウは冬だというのに寒空の中顔が熱くなるのを自覚する。

 ―――引き締まってたなぁ……ってあたし今何を。

 コウには分からない。部活や運動系のサークルに所属している気配はないのに、京介がなぜ運動している人のような体つきなのか。

 なんか高校まで運動部だったのかな。…今は何かやってるの?

 彼に関する疑問は沢山あって、けれどその全部を聞く気はない。どうせ離れてしまうのが分かっているのに―――それが今からこんなに辛いのに、相手のことを深く知るなんてことは余計辛いと分かり切っている。

 ふぅ、とため息をついて回想を終了する。

 ……京介のアホ。

 たいした意味もなく悪態をつきながら、コウは順調に大学に向かって歩を進めるのだった。










 久しぶりに来た学校でコウを待ち構えていたのは、級友たちの純粋に物珍しそうな視線だった。挨拶程度に久しぶり、元気だった?などのテンプレートな会話はするものの、それ以上の絡みはない。その方が向こうもこちらもやりやすい。

 変に好奇めいた視線でないのはさすが高校を卒業して、皆精神的にも大人に向かっているということだろうか。

 ―――元々集団の中でも一人でいるのが苦ではなかったコウは、知り合いはいても深い友達がいない。べつに人が嫌いとか煩わしいとかそういうことではなく、できたらできたでいいしいないならいないでも特に困らなかったからだ。

 だけどそれを今は後悔している。京介と出会って人の温かさを知った今―――勿体ないことをしていたと思えてならない。

 とりあえずは復学届けを提出しに行って、それから時間割を確認し予定の講義室に向かう。

 友達はおいおい作っていくつもりで、とりあえず今日は一人で座るつもりでいた。

 だから後ろから肩を叩かれて声をかけられた時には、相当びっくりしたと言えるだろう。




「………い、和泉サンッ」

「っ!」




 びっくー、と肩があがったのを自覚した。

「…は、はい。何?」

 名前以上に久しぶりに呼ばれる苗字に目を丸くして振り返れば、当のコウよりも緊張した面持ちで立っている、顔見知りの級友がそこにいた。

「ぅわっ、やばいマジで可愛い一ノ瀬どーしよう緊張する」

 その彼女は一歩下がった場所にいる友達にそうもらすと、あたしやっぱ無理だよー!などと半泣き状態で縋りつく。

「バカ。せっかくあんたの大好きな深山さんに勇気づけてもらったんだから頑張りなって。それとも今日の放課後手ぶらでサークル室行くつもり?」

 ………ミヤマサン?勇気づけてもらった?

 自分の目の前で繰り広げられるやりとりにコウはただ目を瞬かせるしかない。

「あの、」

「ほらまみ、和泉困ってるよ。声かけといて放置プレイって何よ。下手なナンパなみにタチ悪いわよ」

「うぅぅぅ…てゆーかさらっと大好きなとか言うなぁ…」

「ふん、今さら…ほら早く」

 ぐいっと押されて結局前に進み出てきた級友―――まみは、一瞬間を空けて意を決したように高らかにこう述べた。

「…い、和泉…サン。あたしと―――あたしと付き合って下さいッ!!」

 その時教室の空気が固まった。

 直後―――、

「友達になって下さい、でしょうがこの馬鹿!」

 スパン、という小気味よい頭をはたく音ともに、一ノ瀬の訂正、もとい突っ込みが入ったのは言うまでもない。

「うう…間違った」

 二人の様子に静まり返った教室が元の空気に戻っていく。

「ふ、」

 コウも思わず笑いが漏れた。

 あ、笑っちゃった―――気を悪くしただろうか、などと考える前に相手の食い付きが凄かった。

「笑ったぁ!一ノ瀬、和泉が笑ったよ!?」

「あぁうん……私も見てるから。いやーびっくりした。和泉さ」

「な…なに?」

 ほとんど初めて話したといっても過言ではない級友にいきなり話を振られて、少しばかり腰が引ける。

 そのことは見越されているのか一ノ瀬はふわっと笑った。

「べつに取って食おうってわけじゃないよ。ただ、和泉が出てこなくなる夏休み前まで見てた感じでも無表情なイメージあったから。いつも今みたいに素の感情出せば可愛さにさらに磨きがかかるのになと思って」

「えっ」

 言われたことのない言葉に顔を赤くする。

「あ、まさにそんなかんじ。いいじゃん可愛い、ね、まみ」

 水を向けられたまみは何故かぶうたれ顔だ。

「あたしが…声かけたのに。なんであんたが先に和泉と仲良くなってんの!?」

「だってまみ遅いんだもん。羨ましい?」

 へへん、と言って一ノ瀬は座っているコウの頭を抱きかかえる。

「わっ」

「うううう……ずるい」

 まみは唸るがコウの方はひたすらされるがままだ。…けれど心はどこかあたたかい。

「ま、とゆーことだから和泉」

「…?」

「よろしくね、これから」

「ずるっ!あたしも、あたしもよろしくね、和泉っ」

「えっと…」

 それは…。

「今から友達…ってのはだめっすか?やっぱいきなりうざい?」

 さっきからまみと呼ばれている方がどこかおっかなびっくりそう聞いた。

 …………………………………………だめかなんてそんなの。

「だめなわけない…」

 嬉しい。

 そう答えた声は震えていないだろうか。―――うつむいた目から涙が零れそうなことはばれていないだろうか。

 そんなコウの思いとは裏腹に「和泉意外と直情型だー」なんて優しく笑いながら背中を撫でる2つの手に、泣きそうなことなんてもうとっくにばれている気がした。











 それから放課後までの講義の合間、いろんなことを聞いた。二人の名前も、なんでコウに声をかけたのかも。

 ―――実はあたしね、入学式で和泉と一回話してんだよね。和泉覚えてないだろうけど…あたし、講堂でカバンの中身ぶちまけちゃって。それ拾ってくれたんだよ。あ、他にも拾うの手伝ってくれた子はいたんだけどただあたし…和泉がすっごいタイプで……!!ありがとう、って言ったらいえ、って和泉一言だけ!クールビューティーならぬクールキューティーだぁとか思っちゃって!あ、ちょっと怪訝な目しないで。一ノ瀬、叩かないでよ痛いッ。そーそー、こいつは中学同じで大学で偶然再会したんだよね。うるさい、いいもん一ノ瀬はこいつで。…あ、はいごめんなさい。で、うん、その後ずっと和泉と話す機会窺ってたんだけど…逃してるうちに夏休みに入っちゃって、そんで更に和泉学校やめるとか噂で聞いてさぁ。あぁもう会えないのかなぁって思ってたら、今朝になって和泉発見して!嬉しくて声かけちゃった。

 とは、まみの談。

 ―――そうは言ってるけどね、和泉。まみはほとんど憧れの先輩の応援があったから声かけられたようなもんだよ。ほら、さっきも言ってた深山さん。サークルの先輩なんだけどね、まみはその人のことが、

 今度は一ノ瀬がそこまで言うと、まみが待ったをかけた。

「ちょおぉぉおぉっと一ノ瀬さん!?それはべつに今言わなくていいんじゃないのかなぁ!?」

「え、なんでいいじゃん恋バナ。和泉だって知りたいよねぇ?」

 ―――講義が終わった後の教室で友達と恋の話。それは凄く友達っぽくてワクワクした。

「うん。聞きたい。…あ、まみちゃんが嫌ならいいけど」

 精一杯そう答えれば、

「いやんまみちゃんトカッ。やーもう、和泉になら何でも教えちゃう〜」

「まみデレすぎててキモいんだけど」

 一ノ瀬の突っ込みをものともせずに、まみは話し始める。

「深山先輩はね、まぁ今までの話の通りサークルの先輩なんだけど…なんていうか、まだ好きっていうより憧れなんだよね。…一ノ瀬も、そこんとこよろしく。そんでその先輩に今朝会った時に友達になりたい子がいる―――って和泉のことねこれ」

 まみはコウを見て照れたように笑う。

「まぁ、その話したら頑張れって応援してくれて。…深山先輩って、どんな話も黙って聞いてくれるからそこを凄い尊敬してんの」

 相づちをして聞きながら、その人のイメージに京介が被る。

 コウも京介にたくさん話を聞いてもらった。あれがあって今の自分がここにいる。

「分かる…話聞いてもらえるのは嬉しい」

 思い浮かぶのは函館山やホテルでの、全部を受けとめてくれるような優しくて真摯な表情の京介だ。思い出したら無性に会いたくなって、けれどここでは会えない事実にがっかりする。

「そんでね、今日…ってか放課後だから今か。成果を深山先輩まで報告するって約束してるんだけど、和泉一緒にサークル室来ない?」

「へっ」

 突然の提案に思わず素っ頓狂な声が出た。

「あたし、その例の先輩に別れ際に見ててくださいよっつって飛び出してきちゃったんだよね。だから、行かない?」

 本人つれてくのが一番手っ取り早いかと思ってさ。

 まみはそう言ってからっと笑う。コウとしては今日はバイトもないし断る理由も存在しない。

「…べつに構わない…けど、それって何サークルなの」

「あ、そこ聞くんだ」

 途中から黙って成り行きを見ていた一ノ瀬が突っ込んだ。

「…気になったから」

「まぁそりゃそうだ」

「あれ、あたし言ってなかったっけ?んーとね、読書好きな人が集まる『love本サークル』っていうんだけど」

 次に答えたまみの声に返せたのは沈黙だ。

「………………」

「あ、やっぱそういう反応。だよねー。でもあたしこのダサすぎる名前に逆にツボつかれちゃってさ。和泉読書は…」

「好き」

 それは自信を持って言えた。

「即答だ!まーでも見るからに好きそうだよね和泉は」

 二人の会話に、横で笑う一ノ瀬はじゃ、行こうかと席から立ち上がる。

 二人も倣って立ち上がった。

「あの、実際その先輩に会う前に聞いておきたいことがあるんだけど」

 歩き始めたまみに向かって、後を着いていきながらコウは声をかける。

「うん、何?」

「あの…その人のフルネームは?」

 一瞬きょとんとした彼女に慌てて言葉を続ける。

「あの…あたし自身、本すきでサークルそのものに興味があるから、だったら先輩になるその人の名前もちゃんと知っときたいなって。それに…」

 ここ最近でこんなに京介以外の人と―――学校の人と喋ったのは初めてだ。

 これから言おうとしてることは間違っていないだろうか。緊張で鼓動が速くなる。

「友達の大事な先輩に…ちゃんと挨拶、したいから」

 一瞬の沈黙のあと、横にいた一ノ瀬からは頭をわしゃわしゃされて、前にいたまみからはUターンした末に抱きつかれた。

『和泉可愛い…』

 ユニゾンに頬が熱くなる。…妹扱いされている感も否めないが。

「おっとこうしちゃおれん。早く行かなきゃ先輩のことだから帰っちゃうかも。名前はね…」

 そうして告げられた名前にコウは息を呑んだ。無心では聞けない名前だった。どうか自分の知っているその人と別人であれと願いながら―――着いた先にいた例の先輩は、紛うことなき京介その人だった。

 廊下に聞こえた声で京介だと分かってしまったその人とまみの会話を聞きつつ、サークルに入りたいとは明言してないんだけどなと思ったが、そんな思いは自己紹介をする為に些末な問題として消え去った。

 その自己紹介がカタコトになってしまったのは許してほしいところ、だろう。


こんにちは。なんだかアレですね………女子3人揃うとうるせぇうるせぇ(笑)



まみ喋り過ぎだろ!調子のんな、って頭はたきたくなりますね…一ノ瀬の気持ちがすごいよくわかる。 

でもまみがいると話が勝手に動いてくれるので助かり…助かってるのか?笑

好き勝手やってくれるせいでだいぶ当初と違う展開にもなってますが基本的にキャラに任せてるのでそれもまた一興ということで…。 



今回もお読み頂きありがとうございました。 

次回もはやい内にお会いできるよう頑張りたいと思います^^

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