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第19話 スタートライン

皆さんご無沙汰してます。まずは先日の東日本大震災で被災された皆様にお見舞い申し上げ、亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。



私は今年で21になるんですが、今まで生きてきたなかで本当に一番ひどい災害でした。

私は青森県に住んでいるのですが、実は青森も報道には出ないものの結構な被害があり、改めて本当に文明に頼りすぎた生活をしているんだなぁと実感しました(個人的な環境としては家が凄く古いのでもとからなくなる文明がなく大打撃は受けなかったのですが)。



震災直後から私の敬愛している作家さんが、「被災地の人達の暮らしをニュースで見てるとふつうの暮らしができている自分達に罪悪感を感じて暗くなってしまうが、そうではなくて支援する側が元気でなければ被害にあった方々を元気にしてあげることはできないんです。だからまずは自分が元気で健康であって、それから自分ができることに取り組むことが大切。そのためにはまず経済を回すためにみんなふつうの生活をしましょう」みたいなことを震災後2日とかで仰っていて、あぁその通りだなぁと。 

だから本いっぱい買ったり福島県産の野菜とか買ったり義援金に参加してみたりしています(←単純)



日本全体的には段々状況が落ち着いてきているので(勿論被災地の方は今もつらい状況なのは重々承知です…そのうえで自分にできることにも参加しています)そろそろ小説のほうも更新しようかなと思います^^



ほんとに亀更新ですが今回もまたどうぞお付き合い下さい。

 ―――声がする。聴きたくもない声が。どうして人は自分を悪く言う声にこうも敏感になれるのだろう。

 絶縁してるんだから他人の子だ、とか。親も親なら子も子だ、泣いてもないし情がないとか。

 アンタ達にあたし達の何が分かるの?母がどれだけあたしにとってかけがえのない人だったかなんて、あたしにしか分からない。あたしがどれだけ母の存在に助けられていたかなんて、アンタ達には分からない。そしてその逆も。

 けれどそれを声に出すのさえ悔しい。だからコウはただ黙る。表情にだって感情は出してやらない、そう決めた。

 だけれど、この世を去った母を侮辱するのだけは許さない。それを言ったらあたしがアンタ達を殺してやる。

 あの頃コウは、本気でそう思っていた。

 ―――場面が変わる。引き取られた先の祖父の家の、自分にあてがわれた部屋で陽が落ちても電気も点けずにただうずくまっている。

 この頃はそうだ―――泣きたいけれど泣いていることを祖父に気付かれるのがいやで泣くのを我慢していた頃だ。そして泣き方を忘れ―――誰とも話さず、学校にも行かず。この時期が原因でコウは今でも暗いところがあまり得意ではない。暗さに付随して芋づる式に様々なことが脳裏をよぎるからだ。

 ―――また場面が変わる。函館へ行こうと決心して、半ば強制的に京介を連れ出した時だ。

 また変わる。京介が言った。

 ―――俺にオマエの心配くらいさせてくれ。

 ―――感情を殺すな。そのまんまのコウでいろ。

 ―――泣きたいときは泣いていい。

 ―――言えよ、思ってること。なんでも聞くから。

 肩の荷が降りた、とかそんな表現が正しい気がする。京介と出会って色んな言葉をもらって何より泣ける場所をくれて。

 母がいなくなってから渇望していた、話を聴いてほしいとか、黙って傍にいてほしいとか、自分の存在を無条件で許してくれる人の傍にいたいとか。そんな願いはあっさり叶った。

 そうして、自分は今。





 はっ、と目が覚めると見慣れない天井だった。一瞬訳が分からなくなって、そのあとすぐに京介の家に居候を始めたことを思い出す。

 同時に何やら胸くそ悪い夢を見たことも思い出し―――どうやら人は原因である環境を変えたからといって、すぐにでもそれが結果に繋がるわけではないらしいということが分かった。

 だが間違いなく結果に繋がっている部分もある。過去何度もそうだったように、目が覚めても気分が最悪だと感じることがなかったのだ。

 分かり切ったことだがそれは夢の最後に出てきた京介が関係大アリなのだろう。

 ふ、と鼻で笑う。…自分はもうアンタたちの夢を見たくらいじゃ落ち込まない、ざまぁみろ―――などと顔も覚えていない親戚に向かって何がざまぁなのか自分でも分からないうちに胸中悪態ついた。

 それですっきりしたため布団からむくっと起き上がる。

「えーと、今何時だろ。てか京介は…」

 気を取り直して携帯を確かめると時刻は10時だった。

「……………」

 ふぅん10時、と流そうとして―――その時間に驚いた。嘘だ。ちょっと待て……寝るのが難しくなっていたくせに京介の家に来たとたん昼前まで爆睡とは。

 分かりやすい自分にほとほと呆れる。意味もなく恥ずかしいがそれを顔には出さない、見られる相手もこの場にはいないのであるが。

 いない―――うん?

 耳を澄ましてみて気付く。家主の気配が扉の向こうに感じられない。シンとした家の気配に以前の自分がデジャヴする。

 一抹の不安がコウの胸をよぎった。

 起き上がって恐る恐るリビングに向かうと、昨日ご飯を食べたローテーブルの上に一枚のメモと、鍵らしきものがあるのが目についた。

 書き置きだ。取りあげると、男性にしては綺麗めに分類できるであろうしかし大雑把な字で、

 『おはよう。大学1限からだから行ってくる、ご飯とか好きに食べて。キッチン引っ掻き回すことを許可する。あと、使ってない合鍵あるから預ける。出かけるなら好きに使え。』

 ―――あからさまに走り書きだ、寝坊でもしたのだろうか。

 許可するという言い回しに京介っぽさが窺えて、コウは知らず笑いが漏れた。同時に置き手紙の存在にほっとしている自分に気づく。

「…もう、なんだかな」

 これ、絶対あたしが一人で家にいると不安がると思って気ぃきかせたんだろうな。

 家を出る直前に慌てて紙にペンを走らせる京介が眼裏に浮かんだ。

 労られているような庇護されているような、そんな感覚が心地よくてむず痒い。だけれど同時に貰っているものの大きさに目が眩みもした。

 あたし―――本当に京介に助けられてばかりで、自分自身は何か返せるのかな。

 返せるだけの何か―――持ってるのかな。

 不安だ。不安だらけだ。だけれどコウはもう分かってしまっている。

 京介の隣は居心地が良すぎて当分離れられない。と、現時点では思う。というか自分が離れようと思う日が来ることが考えられない。

 だけど期限はあった。自分が二十歳になるまでの1ヶ月。その時が来たら自分はここを出ていかなければならないし、それまでに生まれ変わった自分になって手を差し伸べてくれた彼に返せる何かを見つけて返す。

 だけどそれが何かは今のコウには分からない―――だから昨日の掃除はその手始めのつもりだった。京介が喜ぶこと。それをコウは知りたいと思っている。

 無意識に今手にしたばかりのこの部屋の鍵を握り締める。

「…よし」

 何はともあれ自分を変えるための行動を起こそう。決めて、それからは出かける準備を始めた。

 洗面所で一通り朝の準備を終えて、ご飯は許可をいただいたキッチンで食パンを見つけたのでありがたく頂戴する(ちゃっかり苺ジャムももらったがこれも許容範囲だろう)。

 てか苺ジャムってオンナノコかよ!と思わず突っ込んだのは内緒である。

 ついでに冷蔵庫の中身をチェック。レタス、卵、キノコ、豚肉―――なんというか本当に自炊するオンナノコ的なラインナップに一瞬沈黙した。

「……………」

 作ってくれたオムライスがおいしかったのは記憶に新しい。けれど卵を焼いた時の『うまくできた!』という喜びようを見れば、かなり得意というわけでもないのだろう。

 それでもこんなに材料揃えるもの?

 昨日も思ったことだ。もしかしてホントにしょっちゅうご飯作ってくれるような(だって食材揃いすぎ!)、泊まっていくような(だってあっちこっちに女物)、そんでもって朝ご飯をここで食べていくような(だって大学生一人暮らし男子が苺ジャム常備って…)間柄の女の子がいるのだろうか。

 居たとしてどうするのか。ありのままのコウでこの家に居ていいと言ったのは京介だ。頼みながらも迷惑じゃないかとか断れなかっただけなんじゃとか色々考えた。

 けれど昨日の京介とのやりとりで、そんなことを思うのは受け止めてくれた京介に失礼だと思った。だからそこは疑わないし、これからは前向きにまず自分のことをしっかりしてそして京介に恩を返していこうとそう決めたのに。

 ―――これはちょっと別問題なんじゃ。

 というかその前になんで自分はこんなに動揺してるんだとなんだか訳が分からないままとにかく冷蔵庫の中身を頭に入れて、財布と携帯、それに大事な合鍵だけを手に持ちコウは家を出たのだった。




 外に出てみると予想以上に空気が冷たかった。雪は降っていないが防寒の為にも帽子は被ってくるべきだったかと臍を噛む。

 寒いじゃんくっそぅ。

 八つ当たりの先は何となく京介だ。だってこの気持ちをどこにぶつけたらいいか分からない。

 …それに京介、思ってること言えって言った。

 そこはかとなくぶうたれながらコウは駅前の百貨店に向かう。そこそこ大きくて大きすぎない、この町唯一の百貨店だ。

 服屋のテナントもレストラン街も入っているし地下にはスーパーもある。大抵のことはここで困らない。

 着くまでの道すがら、京介のバイトしているコンビニの前を通ってきたことをふと思い出す。今の時間は京介は学校にいると分かっていても、妙に気になって視線を送ってしまうのを止められなかった。

 …何時に帰ってくるかなぁ、なんて短期間で馴染みすぎているだろうか。

 とにかく気分を切り替えてやることやらなきゃと、思考回路を現在に戻して目当ての店に向かう。

 向かった先はテナントの一つ、1年365日アルバイト募集している某有名ハンバーガーショップである。

「あの、すみませんここでバイトしたいのですが…」

 コウは意識的に背筋を伸ばす。自分がんばれ―――これがあたしの新しいスタートの一歩目。







「え、もうバイト見つけてきたの?」

 夕飯の食卓で、コウは京介の言葉に箸をくわえたままコクンと頷いた。

「…行動早ぇなオイ」

 もっとゆっくりしろよ…と呟いたのはコウに聞こえない声でだ。

「え?」

「いやなんでも。…すごいじゃん、何のバイト?」

 ちなみに今晩の食卓はコウが作るという主張を押し退けて、京介が大学から帰ってきたあとにさっさと作ってしまった豚肉とキノコの炒め物だ。それがふつうにうまい。

 コウとしては朝のことがある食材を使ってのメニューだから少し複雑である。

 ―――何のバイト?聞かれて一瞬つまった。

「わ…笑んないでよ?あの…ありきたりすぎるかもしれないけど、………ハンバーガー売る、赤いイメージな店」

 京介も一瞬沈黙する。―――あの店でいらっしゃいませとか言うコウ?

「ごめん、想像できん」

「う、うるさい。あたしだって一大決心だったし。だって今回はとにかく早く見つけたかったから…。その、京介に…今日報告できる何か、作りたかったんだもん」

 尻すぼみな声でそう言うコウにどうにも愛しさがこみあげる。

 素直じゃないし口は悪いし手よりも先に足が出る。そういうところは出会いから少ししか経っていなくても嫌というほど知っている。そしてそれを上回る健気さも。

 そんなところがマイナス部分を帳消し、それどこれかギャップになって可愛さ上乗せだ。

 …ってこれは俺個人の好みの問題か。

 縮こまるコウを見ながら思案する。

 目をあわせて微笑んで頭を撫でてやって。そんなことをしてやりたいと思う。けれどここでそんなことをしたら飛んでくるのは足か拳かはたまた箸か。

 というかそもそもそんな自らに試練を課すようなことは極力避けたい。

「そっか…、良かったじゃん頑張ったな」

「ん」

 コウは満足そうに頬を染めて頷いた。

「あ、それから昨日掃除もありがとう」

「え…。き、気付いたの」

 どこかバツが悪そうに言うコウに京介は首を傾げた。

「そりゃ、普段住んでる家だし気付くだろ。なんで?気付かれたくなかったみたいな物言いだな」

「だってなんか―――恥ずかしいじゃん。こっそりやったのあとから指摘されるとさ」

「…そうか?ま、俺は嬉しかったよありがとう」

 笑ってさらりとお礼を言われて、コウは体温が上がるのを感じた。

 そんなふうに言われたら―――もっと頑張っちゃおうとか思うじゃん!

 二の句がつげなくなって黙々とご飯を口に運ぶ。  なんか気ィ悪くするようなこと言ったか俺、とか考える京介も大概鈍感だがそんなことはお互い気づかない。

「てかさ…、」

 コウが再び口を開いた。彼女が京介と話す時、身長差の問題で(もちろん座高もだ)上目になるのは必然で、京介はそれにいちいちドキッとさせられている。

「な、なんだ」

「あたし…いいの?」

「は?何が」

「や、だから…」

 彼女、いるんじゃないの。ここにいて大丈夫なの。その問は口の中でもごもごと音にならずに消えた。

 だってそれで『いる』、『実は大丈夫じゃない』なんて答えが返ってきた日には―――自分はまた一人になってしまう。

 期限つきではあるけれどようやく見つけたあたしの場所。

 お願いだから、奪わないで。

「……………………なんでもない」

「は、いいの?」

「うんいいの」

 結局聞けなかった。だが今はまだいい。それでいいことにコウはした、たとえ胸のどこかが正体不明に痛いとしても。

 もしもそれで京介がこのいるかもしれない彼女と喧嘩したりすることになるなら―――その時はあたしも彼女に一緒に怒られよう。 などと若干見当違いな結論を出して、コウはごちそうさまと手を合わせるのだった。

 ―――その後「思ってることなんでも言えって言ったよな」とどうにか言葉の続きを引き出そうとする京介に追い詰められて、さらにそれをガードし続けたことは余談である。

お疲れさまでした^^ 

さて!あずまの違う作品の宣伝を。 

「マジで恋する5秒前」シリーズをちょっと短期連載っぽくアップしていこうかと思います。明日か今日か…近日中に始めます! 

よろしければそちらの方もよろしくお願いします。 





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