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第17話 ごはん【前編】

うわぁごめんなさいなんだかお久しぶりです!言い訳はできる立場ではないと分かっています!…と、とりあえず本文の方を2話続けてどうぞっ。

 二人の思惑など知る由もない京介は、いつものシフト通りで特別休みとったワケでもないのになんかバイト久しぶりな気がする…とかなんとか思いながらコンビニのバックルームに足を踏み入れた。

 もう習慣になっているおはようございますを言いながら奥に進むと、そこに今日はいないはずの新谷がなぜかいて驚く。

「よー深山」

 そう挨拶する新谷の顔がニヤニヤ笑いで癇である。

「…なんだよ新谷なんでいるんだよ」

「おーおー挨拶だなぁ。この前オマエがいきなり抜けた後フォローしてやった俺様にお礼の一つもないのかぁ〜」

 こいつうっぜぇえぇぇ!

 心底思うが世話になったのは事実なので「…悪かった、ありがとう」と礼を述べる。次いで新谷が座った椅子―――そもそも出勤日でもない太郎がここでふんぞり返っていること自体がおかしいのだが―――の、隣に立つ遼にも頭を下げた。

「遼も…助かった。おかげで」

「うん、おかげで?」

 めったに見せない笑顔で遼に聞き返されたために気がつく―――口が滑った。

 コウとのことを言うつもりは当分ない。

「あれ?深山続きは?聞かせてくれないの」

 いつものポーカーフェイスに戻った遼を見て内心汗を拭う。うっかり暴露するところだった、コウとの旅を。それでどんな結果になったのかを。

「残念、正気に戻っちゃった」

「これだから理性強いやつはつまんねぇよなぁ〜」

 などと勝手なことを言う太郎には反射で噛み付く。

「少なくとも理性がなさすぎるオマエに言われる筋合いはねぇっ、つか今日はなんで遼までグルなんだ!」

 やっと日常に戻ったと思ったらこんなか!という憤りも手伝って遼にまで突っかかるがまぁそこはそれ、遼であるため飄々としたものだ。

「僕もあのあとどうなったか気になるのは気になるし。まぁどっかの誰かサンみたく恩着せがましいことは言ったりしないけど」

「遼くん?ちょいちょい、ソレ誰のこと言ってるのかな」

「改めて言ってほしいなら言ってもいいけど。そんで深山、行って正解だったの?」

 コウのプライバシーに関するからと、何も情報を出していないにも関わらずニアピンな質問をしてくる遼に一瞬言葉が詰まる。

 けれど正解だったのかと聞かれれば迷うべくもなく答えは決まっている。

「あぁ、正解だった。それだけは確実だ。…って少なくとも俺は思ってる」

 コウもそう思ってくれていればいい。願って、同時にきっと思ってくれているだろうという自負もある。そう思える根拠を京介は持っていた。

 今日ここに来る前の遅い昼ご飯を一緒に食べているときのことだ。コウは京介が作ったオムライスを食べながらまたポロポロ泣いた。







「え、ちょ、なんでいきなり泣く!まずかったか!?俺の作ったオムライスがそんなに泣くほどまずかったのか!」

 焦って尋ねれば返ってくるのは否定の言葉で、

「…………ち、ちがう」

「じゃあなんで!」

 確かに泣きたいときは泣けと言った。

 だけど今か!今なのか!

「………っ」

「コウ、」

「ごめん…今泣くのやめるから…」

 違う。俺は泣くのをやめてほしいわけじゃない。

 手に持っていたスプーンをテーブルに置いた。

 ―――俺はただ。

「コウ、違う。さっきも言ったけど泣きたいときは泣いていい、それは本心だから。ただ……俺、なんでオマエが泣いてんのか分かんないままなんもできないのが嫌なんだ。泣いてるコウをただ見てたくない。俺にできることがあればなんかしてやりたい、それでコウが笑顔になるならそれがどんなちっちゃいコトでも」

 涙を止めたいわけじゃない。ただ、年相応に屈託なく笑う彼女が見たい。それだけだ。

 勢いのままに言ってふと恥ずかしくなる。…なんかすげぇ気障なこと言ってないか俺。

「いや、まぁだから…」

「……………」

「―――言えよ、思ってること。なんでも聞くから」

 恥ずかしさをごまかすために、とって付けたようにそう言ったことがコウにバレていなければいい。

 コウは潤んだ目もそのままに俯いて小さい声を出した。

「………………お、」

「ん?」

「おいしいの。京介が作ってくれたオムライスがおいしいの。…べつに高級食材使ったわけでもないオムライスだけど…今まで食べたオムライスのなかで一番おいしい」

 泣いても口の悪さは健在らしい―――一言余計だ。

 けれどコウは嗚咽を漏らしながらまた一口スプーンを口に運ぶ。

「ありがとう…」

「えっ」

 泣きながらもオムライスを食べるコウのその涙は、悲しさからではないとしっかり判明して安堵した京介は完全に鑑賞モードに入っていた―――嬉し泣きするコウもなかなかかわいいとか思ってしまったのは秘密だ。

 そんなわけでいきなりの謝辞に驚く。

「な、なんだよ…今さら、べつにお礼なんか」

「今…言いたくなったの。誰かと一緒にご飯食べるのいつ振りだろうって考えてたらちょっと…」

 うるっと来ちゃった。…思い出したよ、誰かと食べるのって独りで食べるのより全然おいしいものだったってこと。

 そう言ってコウは笑う。あ、笑った―――2回目。

 京介がそんな数を数えているなんて想像もついていないのだろう、コウは答えない京介の代わりに沈黙を埋めるように呟いた。

「…でも、お母さんが作ったオムライス除いたらの話だから」

 俯いてぼそっと言うコウの頬が微かに赤い。京介は耳が赤くなるタイプだが、なるほどコウはオーソドックスに頬が赤くなるらしい―――そんな埒もないことを思ってはっとする。

 だから!思考の横滑りはこれから同居する以上危険だからやめろって自分!

 そんなわけで、なんだか珍しくしおらしいコウのこれ以上猫っ可愛がりしたくなる一面を見せられる前にとそそくさとバイトに出てきた次第である。

 出がけに布団を出してやって自分は遅くなるからオマエは早く寝ろよとは言ってきたが―――傍若無人な割には妙に礼儀正しいところもあるコウである、居候初日で家主より早くは寝れないと起きている可能性も充分考えられる。

 今日はなるべく早く帰らなきゃなー。

 などどつらつらと算段しながらバイトに出てきて、今に至る。






「出会った頃に比べたらすげぇ邂逅っぷりだよな…」

「え?なんだって」

 率直な感想は無意識に口に出ていたらしい。遼に突っ込まれて、だが頑として平静を装う。

「や、悪ィなんでも。とにかく、もうこの前みたいなことはないから」

 これで勘弁しろと話を畳んだ。

「あぁうん、まぁそれはまったく心配してもなかったけどね」

「…あ、そう。それはどうも。てか新谷、オマエもう帰れば?俺らもう出勤するし」

 いまだに用もないのに居座る新谷に視線をやって告げると言われた本人はがなりたてる。

「なんだよ!俺あからさまに邪魔者扱いかよ!」

「いやーべつにこの前のドタキャン代わってやった貸し使ってオマエが出るってんなら帰らなくてもいいけどな?」

 サイズが同じユニフォームをずいっと差し出せば、う…と新谷が顔をしかめる。

「冗談だよ。それはまたいざって時に使わせてもらう。さ、出るか遼」

 無駄口たたきながらも準備はもちろん済ませていて、京介と遼は揃ってバックルームを出た―――出ようとした。

「おい深山!」

「なんだ?」

 新谷の呼び掛けに素直に止まらなければ良かったなんて後から思ってももう遅い。

「言っとくけどな!俺はオマエがあの子にやましいことしてないなんて信じてないからなっ。出てったときより妙にすっきりした顔して帰ってきやがって、まるであの子と一発ヤッ」

 それ以上は言わせるかぁ!!

 京介はかつてない俊敏さで新谷の口をふさぎにかかった。

「馬鹿オマエふざけたこと言ってんじゃねぇ!!つかそういう話してなかっただろ今まで!単にオマエがメールで好き勝手言ってただけで!」

「ふるへー!はわへるほほろはほへいはやひぃ!」

「はぁ!?何言ってっか全然わかんねーよ!てか遼、オマエも爆笑してんじゃねー!!」

 あぁもうなんでこんな事態になった。自分でも危惧しているところ―――あくまでこれから先のことで過去の事実では断じてない―――をよりにもよって太郎に指摘されるなど。

 このとき京介は決意した。―――こいつらには絶対、一生、何があっても、コウのとのことは言ってなんかやるか!

 その後言い合いを続ける二人と笑いがとまらない一人は、日勤帯の店員仲間に注意されるまで現状を維持していた。


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