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第14話 営業方針

大変長らくお待たせいたしました、14話になります〜。 


 結局その日、二人は夕方まで函館山にいた。

 コウは函館山は夕暮れに移り変わる瞬間の景色が一番きれいと言ってずっと景色を見ていた。

 ―――こいつの目には何が映ってんだろうな…。

 自分とはまったく違う色々なものが見えている気がして、京介はその横顔から目が離せなかった。

 そのあと山を降りて、二人は駅に向かった。結局夜になってしまったからもう一泊しなければならず、それは途中から見当がついていたので今回は予約している。シングルは取れなかったけれどツインの部屋がとれた。

 ツイン取れて良かった!昨日のダブルに比べたらよっぽどありがたい!

 内心ほっとしている京介だったが、それでもコウと―――好きだと思っている女と同じ部屋なのには変わりない。

 この気持ちをこいつに言う気はさらさらないんだ、だからしっかりしろ俺。

 今まで大変な思いをしてきて、今日やっと泣き方を思い出したようなコウに、自分の気持ちをぶつけて困らせることだけはしたくなかった。

 このまま「親切な人」で終わってもいい。だからこの旅が終わってもあのコンビニに、変わらず客として来てくれるか。

 心の中で問いかける。

 それを口に出す勇気はなかった。






「昨日…」

「ん?」

 コウが小さな声で呟いたのは、寝る段になって二人ともベッドに入ったときだ。

「昨日…ほんとは寝れてなかった。ていうかお母さんがいなくなってからずっと…」

「そっか」

 やっぱりな、と思う。

 やたらネットカフェ主張をしていたのもそのためなのだろう。どうせベッドに横になっても眠れないから。

「やっぱり、ていう反応。…分かるもの?」

「目のしたにクマがあるの気づいてたし。朝と昨日の夜の状態見てもそうかなって思うくらいには」

「…そう」

 コウが黙る。だから京介はこれを伝えるには今だと思った。

「―――あのさコウおまえ、」

「…なに」

「もう今朝みたいなこと言うなよ」

 唐突な京介の言葉にコウが一瞬当惑した気配がうかがえる。なんのことを指しているのか分からないのだろう。

 だから分かるようにゆっくり繰り返す。

「電車の中で言ったよな。『もうあたしの心配をしてくれる人がいないから』って」

「…うん」

「いるよ、心配する奴。少なくとも俺は心配する。てかもうだいぶしてる」

「―――、」

「なぁコウ、だからあんなこともう言わないって約束して。俺にオマエの心配くらいさせてくれ」

「〜〜〜っ、」

 一瞬何かと思った。

 コウの泣き声だった。

 昼間泣いたように、コウはまた声をあげて泣いていた。

 隣のベッドで、ただ子どものように泣いている。

 胸が締め付けられる思いがした。

 無意識のうちにベッドから出て、隣のベッドで泣きじゃくる小さな彼女の手を握る。

 ―――やっと泣かせてあげることができた。今度こそ他の誰でもない俺が。

 手を離さないまま、空いた方の手で彼女の頭を優しく撫でる。

 時折混ざる「京介」という涙声に胸が甘く痛んだ。

 俺がコウに感じている感情とコウが俺に感じている感情は種類がきっと違う。

 だけどそばにいようと思う。いつもあのコンビニにいて、コウがつらさを感じたら駆け込み寺になれるように。いつでも受けとめられるように。コウの為に自分の胸は24時間開けていようと思う。

 好きという言葉じゃ追いつかない。―――ひたすら甘やかして、ひたすら大切にしたい。

 そんな気持ちは初めてだった。











 朝、ズキズキと痛む頭でコウは目が覚めた。

 すごく痛い…目も痛い…。

 ぼうっとした頭で部屋を見渡す。京介はコウの手を握ったまま、床に座って寝ていた。

 京介寝てる…。

 そう思ってはっと気づいた。

 自分も寝ていた。―――たぶん、母がいなくなってから初めて。

 なんでだろう。なんで眠れたんだろう。ずっと無理だったのに…。

 そのおかげでか、胸のつかえが取れたような気がする。

 母がいなくなった悲しみは、たぶん一生消えない。

 それでも一人になってからは、初めて穏やかな気持ちで迎えた朝だった。

 きっと、京介のおかげなんだと思う。

 ―――京介でよかった。一緒に来たのが他の誰でもなくてこのひとで。

 元々、コウはここには一人で来るつもりだった。旅費は母がいなくなったあとの生命保険から。お母さんに会いに行くためにお母さんからのお金を使ってなにが悪い、そんな気持ちで。

 だけど冷静に考えると不安になった。

 自分一人で行けるのか。泊まるところはどうするのか。もし何かあったりしたら、自分一人で対処しきれるのか。

 答えはどれもNOだ。あと一ヶ月で二十歳といえど、今現在コウは未成年というカテゴリーだ。大学一年生が飲み会などで暗黙の了解で飲めても、社会的にはなんの力もない。

 一度躊躇して考える。―――それでもあたしはあの場所に行きたい。

 そして一緒にと選んだのが京介だった。

 決して愛想がいいわけではないけれど、丁寧で誰にでも公平に同じ接客をする彼なら、仮に無茶なお願いをしても聞いてくれる気がした。さすがに一万円で買われてはくれなかったけど、最終的にはやっぱりお願いを聞いてくれた。

 親類には頼めない。旅についてきてくれるような友達もいない。だったらいっそ知らない人と行こう。今となってはあの時の自分の判断は正しいものだったと思える。―――知らない人だからこそ打ち明けやすいことも、確かにあるのだ。

 今はもう知らない人なんて言えないけど…。

 コウのベッドの縁に頭を乗せて熟睡する京介を見て、なぜだかまた泣きたい気持ちになった。

 泣き方を思い出した途端泣いてばっかなんて、そんなの自分で自分が馬鹿みたいだ。

 涙が静かに頬を伝う。朝日に光って、それは握った京介の手の甲に落ちた。

「ん…」

「あ、ごめん…」

 起こしただろうか。

 慌てて落ちた涙を拭って、握られていた手も離す。

「コウ?…また泣いてんのかオマエ」

「…………」

 答えないでいると、京介がベッド上に座るコウの頭を撫でた。

「…よかったな」

 そして一言そう言う。いろんな意味が含まれたよかったなだなと思った。

 ―――ほんとにこのひとは、

「どこまで優しいの…」

 絞りだすように言うと京介がやさしく笑う。

「俺今優しさ絶賛大安売り中だから」

 コウの目を見つめながら、京介はそう(のたま)った。コウは一瞬きょとんとして―――そうしてそのあと、ぷっと吹き出す。

「ばかだ……」

 ―――朝日のなかで、コウは久しぶりに何のてらいもない笑顔で笑った自分を意識していた。






 ―――ばかだ……。

 彼女のその泣き笑いが、息を呑むほど綺麗で京介は一瞬息の仕方を忘れていた。

 …笑った。笑ってくれた。初めて淋しさがない笑顔を自分に見せてくれた。

 なんでだ。

 この瞬間を目にするために自分は生まれてきたような気さえして、心臓が痛い。どうすればこの感情に収拾がつくのか全く分からなくて、それと同時にいろんな衝動が京介の中を駆けめぐる。

 ちょっと、待て俺。お願いだから今ここで負けんな!

 精一杯衝動を抑えつけていると、異変を察知したコウが気遣わし気に手を伸ばしてきたことが気配で知れた。

「京介…?」

 ギクッとする。

「ちょ、待て、いま俺に触るな頼むから」

「…は?なんで」

 久しぶりに強気口調のコウの声を聞いてほっとする反面、ムカつくほどの焦燥感に苦しむ。

「ごめん、こっちの問題だからほんとほっといてくれ。あと、ちょっと離れて」

「…意味分かんない」

 妙な気迫のある京介に気圧されて、それでもコウは怪訝な顔をしながらベッドの上で精一杯京介から離れた。

「…よし。うん、じゃあ俺風呂行ってくるわ」

「は?…夜も入ってたじゃん」

「気にするな!朝にも入りたい気分になっただけだっ」

 コウがますます怪訝な顔をする。べつに止めないけど、という声に送られ、京介はバスルームに逃げ込んだ。

 シャワー終わったら即刻ホテル出よう、即刻!!

 切実な京介の叫びは彼の胸中のみに収められ、部屋で待つコウには知る由もなかった。


というわけででしね、やっと現実の私の生活的にも小説の展開的にも一息つけた次第であります! 

遅くなったのにはちゃんと理由があるのですよ〜(T_T)

とりあえず小説はまだまだ続きます!お優しい方は着いてきてくれる…ハズ…\(^O^)/

そうそう、この小説のタイトルは…今回お読みいただいてピンと来た方もいると思うんですけど、ヘタレ男京介の心境を表したものだったんですね!やっとここまできてほっとしてます。

今回は、遅くなったお詫びに短編小説を2つアップしてます★1つは補完になるんですけど、時間のある方はぜひそちらもどうぞ♪それでは失礼いたします〜

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