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1-1

*ヴィラシスク・サージェスタ国境付近

「副長」

爆発音や金属音の中、そう呼ばれた濃紺の軍服を着た人物が剣を持ったまま振り向いた。そばには緑色の服を着た兵士がおびただしく何人も倒れている。

「お、お忙しいところすいません。隊長がお呼びです、直ちに第三部隊司令室に向かって下さい」

「分かった、下が……」

そう言いかけた副長が突然剣先を兵士の方へ向けた。すると報告に来ていた兵士の背後から近づいていた、緑色の軍服を着た兵士が吹き飛んで地面に叩きつけられた。兵士はおそるおそる振り返って倒れた敵兵を見た。

「ぼーっとするな。ここは戦場なんだぞ」

兵士は慌てて振り向き、剣を鞘に収める副長の鋭い漆黒の眼光を見ると、深々と頭を下げた。

「もっ、申し訳ありません。ありがとうございました」

すると不服そうに副長のそばに立っていた色黒の男が一歩前に歩み出た。薄いブルーグレーの軍服を着たその男は腕を組んで兵士を威圧的に睨み付ける。

「副長はお忙しいのだ。報告に来ただけで、お手を煩わせるような振る舞いをするな」

厳しい口調で叱咤する自分の補佐官に副長は右手を上げて静止した。

「ヤン、黙ってろ。……伝令、お前も警戒を怠るな」

副長はため息をつくと下がれ、と手を仰いだ。

「はっ!ありがとうございました」

おそるおそる一般兵が敬礼し去って行くのを見送ると、副長は自分の補佐官に目をやった。

「サージェスタ兵の中で息のある者は怪我の治療後、取調べを。それ以外の事はお前に一任するが、後ほど報告に来てくれ」

「御意」

「それから、あまり頭ごなしに責めるものではない」

だがその言葉には納得がいかなかったようだ。

「しかし……彼は警戒心を怠っていました。気が緩んでいる証拠です」

「状況を見て判断しろと言っているんだ。あれでは反感を買うか自信を損なわせても仕方がない。戦意を損なわせるような言動は慎め。忠告ならともかく、責めるのは今じゃなくてもいいだろう?」

ヤン補佐官は驚いたように自分より遥かに年若き上司を見た。

「そうですね。申し訳ありません」

「じゃあ、あとは任せる」

「承知致しました」

副長はその場を後にすると爆音や金属の交わる音を背後で聞きながら、三階建ての砂色のタイルの建物へ入って行った。階段を上り三階の一番奥の部屋の前で足を止める。

「失礼します」

部屋の奥で山積みにされた書類の一つに目を通している人物がこちらに気づき視線を向けた。窓からは爆発の眩い光が、時折薄暗い部屋の中に差し込んでくる。副長は漆黒の瞳を細めながら近づき、書類で山積みになった机の前で立ち止まった。

「忙しいところすまないな。現場はどうだ?」

「……サージェスタ軍による激しい抵抗は変わらず、収拾にはもうしばらく時間がかかるかと思われます。隊長に比べれば忙しいうちには入りませんが……」

山積みになった書類を見ながら皮肉を言う部下を見上げると隊長はため息をついた。

「……では代わってくれ。私は体を動かすほうが性に合う」

「前線にばかりいるからです。あなたの補佐官がしっかり代わりをされていますので、安心して作業を続けて下さい」

「……全く冷たい部下だな。そもそもお前はその若さで副長とは、少しは苦労を知った方がいいんじゃないか?」

副長はぶつぶつと文句を言いながら次の書類に手を伸ばす上司を見た。

「……そのような苦労はごめんですね。もう戻ってもよろしいですか?」

「あー、待て待て。もう一人呼んである。特務なのでな、ちょっとやっかいなんだが……」

「特務?」

すると突然、勢いよくドアが開くと、外にはねた明るい茶髪の男が大きな紺の槍を背負って顔を出した。

「遅れてすいま……あれ、副長じゃないですか」

そう言って首を左右にポキポキ鳴らしながら彼は隣に立った。

「……お前か」

副長はため息をついて隊長を見ると、隊長は両肘を机についた状態で微笑んで二人を見た。

「お前たち二人には今から国境警備の任を解き、特殊任務を命じる」


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