ダンジョン国家でMPK!
初投稿です。至らぬ点も多いと思いますが、最後までお読みいただけるとうれしいです。
MPKとはゲームの中で他のプレイヤーにモンスターをぶつけて殺させるという行為のことで俺が転生する前にゲームで一時期はやったことがある種の害悪プレーである。さらに、このゲーム風で仕組みはわからないがスキルやまほうがある世界に転生してしまった俺の唯一のレアスキルの名前でもある。
俺は上司に呼ばれ、豪華だが上品さがある執務室に入る。
「今回もMPK作戦で行こう! 」
唐突に、部屋に入った直後の俺に筋肉の山に見える男は拳をかかげながらその巨体に似合う大声で言った。今月に入って何回かその台詞を聞いている俺は何のリアクションも取らずに、この男、迷宮国家アルカディアの王。兼、国家最上級暗殺部隊隊長のアランに文句を言う。
「さすがにMPKも今月に入って五回目もやっているので、敵国にわざと殺してるとばれますよ」
「いや、俺の暗殺も今月は五十回をこえているから、そっちで頼む。毎月の死者、行方不明者数の計測リセットされるからはあと三日来るのが遅ければよかったが」
俺はこいつの中では死者数とかはスマホの通信速度かと心の中で突っ込みを入れながら、他国の貴族の暗殺を平暗殺者に頼めないなとも思い、返事をする。
「確かに、今回の場合は豚貴族を早く殺した方が被害軽減につながりますしね。てか、ここに来て2日で殺人3件、強姦4件は許せないので、俺がやりますよ。」
「そういえば、全部おまえの家の治めている区画の事件だったな」
「ええ、そのおかげで、有識者には豚を追い出すなり、消すなり、早くしてくれとせがまれましたよ」
ここまでやられると他国の貴族のやったことでも、もみ消しができないので俺はアランに会うまで文字通り寝る暇が無いほど忙しく過ごしていた。そのため、貴族や取り巻きに対する感情が口調に出ている。アランは口角を上げながら
「そう言うと思って、貴族に迷宮三階層の奥地に眠る秘宝の地図の偽物を渡してあるから、明日にでもやっといてくれ」
「えっ、その地図今月ずっと使い回しにしてるけど大丈夫ですか」
「心配はいらん、迷宮国家できて以来、取りに行った者が誰も帰ってこない秘宝だと説明してある」
「いやいや、そんな無謀すぎる宝なんて貴族が直接行くわけないじゃん」
そうツッコミを入れると、アランは自慢するようにこめかみを人差し指たたき、頭を使ったとでも言いたそうなポーズをとり
「自慢じゃないが、立場上、人をおだてて乗っけるのはうまくてね。王国産の豚さんぱわーを貸してくださいって言っただけだ」
俺はどっからどう考えても嘘だろ、そんなこと実際言ったら絶対戦争になるじゃんと思った。実際はアランの特殊な催眠スキルでダンジョンに行きたくなるように貴族の思考を誘導したと理解できるが、徹夜の疲労がある俺を呼び出して仕事をさせる目の前の男に暴言を言いたくなったのを出ないように口を閉じて、うなずく。そのまま、一礼してアランの執務室を出る。明日も早くなることだしさっさと寝るかと家に帰る。
俺は早朝からダンジョンに入って数時間、目的の階層で大人2,3人が腕を伸ばして通れるほど広い石畳の通路に津波の様な勢いでこちらに向かってくるモンスターに追いつかれないように、地図を見ながら走っている。
本来、モンスターはここまで群れて人を襲うこともなく、少数でダンジョンの通路を徘徊して探索者を襲うようになっていて、ある程度引き離されれば追うのをやめる。そのためモンスターを引き連れて他人を襲わせるのはかなり難易度が高い。それに加え、豚顔ででっぷりとした巨漢のモンスターであるオークや妖精が魔に落ちた姿だと言われるゴブリンなど怠惰な特性のモンスターはある程度距離を追いかけると追うのをやめてしまう。だが俺のスキルでモンスターの狙いを俺にして追わせることでいつまでも付いてくるモンスターの大群を作れる。しばらくの間、走っていると
「あの豚貴族の進行速度だとこのあたりのはずなんだけど、おっと、見つけた。」
俺は天井に生えるヒカリゴケが唯一の光源である薄暗いダンジョンで、前方の少し先の角から人工の明かりが漏れているのを見つける。心を弾ませながら、自身の速度を落として、モンスターの伸ばした手や振り回す武器が起こす風を首筋で感じながら角を曲がり、目の前にランタンの光が広がって一瞬目が見えなくなるのを無視して進む。そのまま同じ紋章の付いた鎧を着た十五人ほどの集団に近寄る。集団もこちらモンスターの足音や鳴き声で気がついたのか金属が擦れ合うような音を出しながらそれぞれ応戦しようと武器を出して、構えているが
「と、止まれー! 、止まれって言ってんだろうが! 」
「こっ、こっちに来るんじゃねーよ、ばけもの! 」
昨日、俺の区画で暴れて、偉そうにしていた奴と鎧の中に入っているのが別人なのではないかと思うほど、震えた声と鎧が震えでカチカチ鳴る音が近づくほどに耳に入ってくるが、無視してどんどん距離を詰めていく。あと、少しで騎士にぶつかるという距離で、
「透明化、ターゲット変更」
とささやくようにスキルを使いながら、大きく跳躍してヒカリゴケの生える天井付近の荒い表面を持つ石壁に片足で着地する、そのまま懐から取り出した自分の家の紋章入りの短剣を壁に突き刺してぶら下がりながら、一息つくと下の様子を確認する。
「ほー、騎士もがんばってんじゃん。そこ、そこフォロー入らないと後ろに抜けられちゃうぞ。おっと、さすがいいフォローだ」
と自分の下で行われている、モンスターと騎士の血生臭い生存競争を自分が引き起こしたにもかかわらず関心が無いスポーツ観戦でもしている様な適当なかけ声をかけている。
最初はモンスターと騎士がまともに戦えると期待し観察して、頃合いを見計らって、自分の治める地区でやらかしてくれたお返しもしてやろうと思ったが、騎士が及び腰で震えながら剣を振るうのを見てダサすぎると思い興味を失ってしまった。
短剣を持ってぶら下がっている手がしびれて来るたびに反対の手に持ち替える作業を数度行っていると、騎士の数が減り、勝敗の天秤がモンスター側に傾き始めた。そして、さらに5分ほど経つと残りは金色の鎧を着たオークの親戚のような貴族の豚男のみになっていた。
「わしを誰だと思っておるのじゃ、下郎、控えよ。くっそ、量産型の勇者でも陛下から借りてくればこんなことにならんかったのに、金ならやるからわしを助けろ」
と顔を牛乳みたいな白色にして言っているが、モンスターは気にかけるようすもなく男に殺到していった。
「やっとおわったか、オークの親戚みたいな男だったけどさすがにモンスターと話すのは無理かぁ、モンスターと話せるやつの方が少ないよな」
すべての敵が肉の塊としかわからなくなるまで待って、馬鹿なことを考えていた思考を振り払い、ぶら下がるのに使っていた短剣を抜いてダンジョンの通路にふわりと着地する。
「あー、後処理めんどくせー、透明化解除、ターゲット変更、身体強化。あと、魔力コーティング」
と立て続けにスキルを使う。本来ならやらないが今月は五回もMPKをしていて、人為的にモンスターを集めた証拠が残るのはまずいため、その場で新鮮な肉を食べていたモンスターのターゲットをすべて自分に向ける。モンスターたちは口の周りを血で染めながら、殺気のこもった鳴き声を上げて向かってくる。俺はモンスターの攻撃を身体強化で上がった動体視力で見切って、魔力コーティングを施した短剣を使い、急所に一撃を入れ倒す。それをモンスターがいなくなるまで繰り返す。その作業中、
「こんなに殺して環境破壊にならないかなぁ。まあ、ここは日本じゃないんだし、環境保護団体もいないし関係ねーか」
と倒したモンスターに真面目に戦えと説教されても仕方がことを考えていた。そして、すべてのモンスターを倒し終わる。この場所が次の階層の階段から遠く、死体の山も血のにおいにつられてくる他のモンスターに食べられて誰かに見つかることはないと考えて、もうここに用はないと言わんばかりに、地図を見ながら入り口へと走って帰り始める。
「眩しっ」
ダンジョンの外に出る階段を昇っていると、夕日がまぶしさにとっさに手で目を覆ったが、目が痛んだ。ひんやりとしていたダンジョンの空気から解放されて、夏の夕暮れの熱気の残った空気を感じながら都市まで歩き出す。入るときはまだ日が昇って間もない時刻だったことから、働き過ぎたとわかり、肩にどっとおもりを乗せられた気分になる。ダンジョンを囲んでいる石壁を抜けて歩いていると、都市とダンジョンの間の街道に等間隔で存在する串焼きやスープなどの屋台がいい匂いを出しながら商売をしている。そこで腹がグーと音を立てた鳴ったことで、昼飯すら食わずにモンスターを自分に集めながら走っていたことを思い出して、
「あー、腹が減った。俺、真面目に仕事しすぎでしょ」
と自身に苦笑する。時間がすでに夕方だからか、依頼を終えたあとに見える探索者のグループがいろいろな屋台の前にすでにたむろして、今日の依頼の出来具合、どんなモンスターが出現したなど話をしている。
「今日は疲れたし、報告は明日でいいかな。」
疲れたからという転生前なら絶対に認められないどころか、社会人ならクビもあり得る理由で今日は報告に行かないことに決めた。夜に休憩時間を無理矢理作った俺はてきとうに生きられる世の中もいいもんだなと思う。そして、先ほどとは違う軽い足取りで酒とつまみになるものを買いに行こうと歩き出した。
最後までお読みいただきありがとうございました。