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36話―料理には戦闘くらい気を遣え

 チュンチュンチュン…………


「……んぅ……」


 ムクリと上体を起こす。


(寝てたか……つか床じゃん……記憶ないんだけど……)


 えーっと、昨日ルーンの家、いわばここに来て、あまりのゴミ屋敷さにキレて……

 ああ、グズるルーンを無理やり働かせながら、やけくそで大掃除してそのまま寝落ちしたのか。

 だんだん思い出してきた。確か一階だけ掃除してそこで力尽きたんだ。


「スピー……スピー……」


 そのゴミ屋敷を作り上げやがった本人は俺の隣で寝ている。

 どこぞで野垂れ死んだ遭難者のようにぶっ倒れている。そのくせ寝息は安らかなのがムカつく。

 辺りを見渡せば、そこはだだっ広いリビングだ。ここと風呂場と廊下と部屋二人分は徹底的にやったからキレイだ。

 ビフォーアフターしたらその違いは一目瞭然だろう。あのナレーションの人も「なんということでしょう」と言うに違いない。

 生まれ変わったリビングは、フィットネス教室を開けるほど広く、家具も一式、結構高いのが揃っている。


(絶対こいつが買ったわけじゃないよな。多分アズさんか副団長が……思えば、よくあの二人がこいつの1人暮らし許したな。いくら隣だとしても)


 なんやかんや過保護気味だからな、と考えたところで自分が今上着を着てないことに気付く。

 意識しないとそうでもないが、スーリア王国の朝は少し冷える。ワイシャツだけではちと寒い。

 いつもの真っ黒上着の場所は覚えてない。適当に脱ぎ捨てたのはうっすら覚えてるけど。

 微妙な寒さに身震いしながら、探すために身を起こす。

 改めて自分の格好を確認するが、やはり思う。


(ワイシャツに黒袴って、コスプレイヤーみたいだよな……こんなキャラいないと思うけど)


 俺の装備─名前は忘れたけど中二病患者が命名したようなの─は、ありそうでなさそうな軍服みたいな上着を脱げばワイシャツだけだ。いつもは割としっかり着こなしてるから見えない。

 そして、神器として女神からもらったのは、実は上着の方だけ。ワイシャツは下着等と同じく女神の温情だろう。劣情も混じってるだろうけど。

 なので、上着を脱いでしまえば、俺は紙防御というわけだ。袴の方でガードしてしまえば全く問題ないが。

 ちなみに、転生初日は袴の下はパンツしか穿いてなかった。「なんかスースーするな。袴ってこんななのか?」と流していたが、2日目に気付いた時は恥ずかしくて早々に死にそうになった。(ちなみに黒いショーツだった)

 今はちゃんとタイツを穿いてる。こっちは地球で男でも穿いてる奴はいたので許容できる。

 ……下着上下セットは知識が全くなかったので、休日のフィナさんに相談しておまかせしたらザ・女子!みたいなのしか選んでくれなかったため、不本意ながら女物のままだ。ムルクスで見とけばよかった。


(……って、誰に説明してんだ俺は。上着はっと……お、あったあった)


 ソファに掛けてあった。良かった。埃まみれの廊下に脱ぎ捨てないだけの理性は残っていたらしい。

 それを着て、時間を確認すると朝の7時。寝坊はしなかったようだ。

 何時に騎士団のとこに行けばいいのか聞いていないが、とりあえず朝ごはんでも作ろうか。


(食材は確かキッチンの棚のとこにあったよな。うーむ、パンと野菜と調味料が少しだけか。簡単なのはつくれるかな)


 メニューは思い付いたので、早速調理にかかる。思えばこの世界に来てちゃんと自炊したのは初めてだった。

 まずは、(ふところ)から干し肉を取り出す。これはもしもの時の非常食として持ち歩いていたものだ。

 冒険者に成り立ての頃、ロウゼンから「冒険者なんだからこれぐらいは持っとけ」と気を使われて以来、ずっと持ってる。

 保存がきくが、そこに極振りしすぎて味はお察しだ。そのまま食べるのは高血圧で死ぬことを覚悟しなくてはならない。

 なのでこれは、水を入れたボウルにぶち込んで揉み、塩気を抜く。

 十分に塩気が抜けて柔くなったら、『火炎(ファイア)』でこんがり炙る。加減を間違えると焼き肉どころか焦げ肉になるので気を付けよう。

 肉が完成したら、レタス、トマトを適当に切って、肉と一緒にパンの右半分にのせる。もう何を作るか分かったはずだ。

 残るは味付けだが、調味料が入ったビンには俺の知らない名前のものがズラリと並んでいる。ここだけバラエティ豊かだった。

 かろうじて塩コショウは分かったので、それを振りかけたら、あとは直感に任せてそれっぽいものを入れた。


「うぉっくっさ!?なんだこれ、スパイスか?黄色いし。……スパイスなら大丈夫か。入れてみよ」


 そのやけに黄色いスパイス(?)を入れて……

 完成、即席サンドイッチwith干し肉。


「ルーン、起きろー。朝ごはんだぞー」

「ぅぅ……あと5分……」

「飯が冷めるから却下。ほれ、席につけ」

「あくまぁ……」

「よーしそのままじっとしてろ。冷水で目ぇ覚まさせてやる」


 未だ眠そうな目を擦りながらもテーブルについてくれた。

 俺は皿に2つずつサンドイッチを盛り付け、テーブルに持っていってコップに水を入れた。

 うんうん、朝ごはんだ。我ながら数分でこれを作るとは天才ではなかろうか。

 ルーンも炙り干し肉の芳香で目が覚めたようだ。


「これ、レイが作ったの?」

「フッフーン、どうだ?スゴイだろ?最高だろ?天才だろ?」

「じゃあ早く食べよ食べよっ」

「……」


 ……別にいいけどさ、スルーはしないでよ。こっちは渾身の仮面ライダーネタでちょっぴり反応期待したんだからさ。別にいいけどもね。


「「いただきます」」


 かぶりつくと、干し肉にわずかに残っていた油が出てきた。塩気もちょうどよくて味の薄いパンと合っている。

 レタスとトマトの食感もアクセントになっていて、肉に潰されていない。

 一言で言えば美味しい。思わず笑みがこぼれるほどに。

 これは妥協なしで天才でいいんじゃないか?マク○ナル○並だぞ。

 ルーンを見ると、こちらもそれはもう幸せそうにサンドイッチを頬張っていた。美味しそうで何より。


「んん~おいしい!スッゴクおいしい!」

「だろだろ~?材料少なくてもこのくらいは作れるからな」

「私だいたい外食かアズ姉にたかりに行ってたから、こうやって食べるの初めてだよ!」

「災難だったなあの人も」


 アズさんも自炊とかするのか。あの人こそ外食か携行食で済ませてそうだけどな。

 あ、そうだ。あの事もちゃんと言っておかないと。


「ルーン、いくら自炊しないって言っても、包丁くらいは置いとけよ?野菜切るの大変だったんだぞ」

「包丁は、アズ姉が『危なっかしいから』って料理させてくれなかったから」

「親バカならぬ姉バカかよ。料理くらい気分転換でやらせてやれよ」

「料理結構好きなんだけどねー。ん?待って。じゃあレイ、どうやって野菜切ったの?魔法?」

「ああ、それね」


 そう言って俺は、腰からいつも下げてるもの、俺の相棒と言えるものを外してルーンに見せた。


「こいつで」

「なるほどなるほど~……て、何で!?」

「い、いや何でって。パッと取り出せる刃物が身近にあるなら使うだろ」


 俺は野菜を切るのに愛刀《虹龍(こうりゅう)》を使った。

 なんかおかしいとこある?斬れるものがあって包丁ないなら使うでしょ。


「ダメじゃないけど!いややっぱダメだよ!」

「どっちだよ」

「愛剣だよ!?本来の用途で使おうよ!肉ならまだ許せる気もするけど、野菜て!」

「大丈夫だよ。こいつで大木斬ったこともあるから。植物でも問題なく斬れるのは証明済みだ」

「変だな。私の『切れる』とレイの『斬れる』は何かが違う気がする……」


 その後数分、「愛剣野菜料理事件」で論争していた。自分からやっといてなんだが、朝っぱらからなんて不毛なことを話してんだろうか。

 いつの間にかサンドイッチも食べきり、俺たちも落ち着いててのんびりしていると、不意に玄関が開く音がしてドタドタと足音が聞こえて


「ルーン!レイ!どういうことだ!?」

「あ、アズ姉おはよ~」

「おはよー」

「ああおはよう!それより一体全体どういうことだ二人とも!!」


 どうしたどうした。今日はテンション高いな。まだ会って1日しか経ってないけど、もっと落ち着いてただろ昨日は。

 まだ朝なのに鎧姿のアズさんは俺の肩をガッと掴み、とても真剣な顔で告げた。


「なぜ…………この家が片付いている……?」

「「そこぉ!?」」


 そうツッコまざるを得ない。この人は朝から真顔でなんてこと言ってんだ。


「そんなおかしいのか?俺が剣で野菜切ったのよりはおかしくないだろ」

「そちらも十分おかしいと思う。しかしこれは前代未聞だ!このルーンの家がキレイなんだぞ!今日は雨どころか槍が降るぞ!」

「ねえ、私も家がちょっと散らかってるのは分かってたけど、ここまで言われる?」

「「ちょっとじゃない!!」」


 今度は俺とアズさんがツッコむ番だった。


「この家が魔境並に汚かったのは事実だけど、「ひどくない!?」今までそんなひどかったのか?」

「それはもう。週に1回私が掃除に来ないといけないほどに地獄だったぞ。「だからひどい!」入念に掃除したはずの場所でも、1週間後にはなぜかまた埃が……」

「ホント大変だったんだな」


 遠い目をしながら過去を振り替えるアズさん。哀愁が感じられる。

 俺も気を付けないとな。この家はルーンの管理不足が主な原因だろうが、すぐにゴミ屋敷になるっぽいから。

 俺がアズさんに同情の眼差しを送っていると、またも廊下から足音が聞こえてきて……


「み、皆さん!どういうことですか!なぜこの家が片付いて!?」

「副団長、ゴメン。その反応もう2回目」



 ♢



「ルーンはっ、王城っ? ふっ」

「今は喋るなっ。集中していろっ」


 あのあと、ルーンが副団長に連行され、俺はアズさんと一緒に騎士団の訓練広場へ。騎士のみんなは整列しており、訓練用の動きやすい服を着ていた。

 集団行動の大会のように乱れのない様に圧巻していると、アズさんからこれからする事を話された。

 俺もだいたい分かっていたので、一緒にやっている。

 騎士団の訓練を。


「素振りならっ、飽きるほどやったんだけどなっ」

「たわけっ。数の比喩が出来るのならっ、まだまだだっ」

「うっへ、騎士団長の言葉は違うなっ」

「私は見本だからなっ。あと一時間だっ。それまでは黙ってやれっ」

「ヘイヘイっ」


 現在は素振り中。既に初めてから……何分経ったんだろう。数えてない。

 素振りは剣術の練習の際、時間も忘れてやった。《絶剣(ぜっけん)》を発動し、その状態で1回振り下ろしてから、あとは自分の力だけでその動きに近づけていく。

 これが俺の見つけた最短の特訓だった。魔法の練習に飽きたら日が暮れるまでやったものだ。休日なのに。

 そして一時間が過ぎ、素振りが終わった。


「やめっ!では、5分の休憩とする。水はしっかり飲むように」

「「はっ!!」」

「ふい~終わった終わった」


 俺はその場に座り込み、手でパタパタと顔を仰いだ。

 そんな俺の様子を見て、あきれた顔をするアズさん。


「そうは言うがな、レイ。汗の一つもないが、まだいけるのではないか?」

「いやもうダメ。ゲシュタルト崩壊するよ」

「ゲシュタルト……?」

「疲れてないのは、《癒し之神(パナケイア)》のおかげだよ。これがないと今頃俺は瀕死状態。それより、なんも回復系のスキル持ってないアズさんの方がおかしいと思うんだが。何でそんな涼しい顔してんの?」

「長年の訓練の賜物、とだけ言っておこう」


 得意げな顔で微笑んでいる。この人実は子供っぽいよな。

 《癒し之神(パナケイア)》の他にも、このコートの気温変化耐性のおかげで体温が上がっても丁度良い温度に保たれるってのもある。地味な機能だけどかなり役立っている。


「で、次は何すんの?大抵は楽々こなしてやるけど」

「そうか。次は……これだ」


 ガチャンと、重い金属が置かれる音がした。

 それは、銀色に輝く全身金属鎧(フルプレートアーマー)だった。


「これを……どうすんの?」

「着て訓練するに決まっているだろう。元より騎士の戦場での装備はこの鎧なんだから。正午まではこれを着た状態で打ち込みだな」

「念のため聞いとくと、このコートは……」

「もちろん脱げ。というか、下も着替えてこい。引っ掛かって動きに支障が出るからな。ほら、私のを持ってきたからあっちで……っておい!どこに行く!?」


 俺はダッシュで逃げ出した。


 ~地獄の特訓タイム終了~


「…………」

「どうした?訓練内容でここまで変わるものか?」


 熱中症で死ぬかと思いました。

 あんの鎧、隙間くらい少しは開けさせてくれよ。呼吸苦しいし、蒸し暑いし、体重くて何度も転んだし、そのせいで鼻ぶつけたし!

 今はただ解放感で満たされている。外の空気ってこんなにもおいしかったんだな。


「俺……騎士じゃないんだけどなあ……」

「それはそうだが、体力作りも立派な訓練だ。スキルに甘んじるだけでは真の強さは得られん」

「勉強になりましゅ……」

「ほら、私たちも昼食にしよう。私が作ってきてやったから」


 アズさんに手を貸してもらって起き上がる。少し立ちくらみした。

 俺らは建物の中には行かず、訓練広場の横に行った。すぐに自主練するためらしい。この脳筋め。

 アズさんが持ってきたバスケットの中には、干しブドウとイチジクを混ぜたパンがあった。


「おお~うまそう。これアズさんが作ったのか?」

「まあな。どうせ持ってこないだろうと思ったから、4つ作ってあるぞ」

「さっすが!んじゃ、いただきまーす」

「……あ、そうだ。レイ。お前、あの朝食にどの調味料を使った?」


 ……?


「どこって……キッチンに置いてあったのを適当に……」

「そこにあった、やけに黄色くて臭いがキツイものがなかったか?」

「あったけど……それが、何か」


 猛烈に嫌な予感がする。


「いや実はな、あれはルーンが勝手に買ってきたもので……食べると、その……

 下痢になる」

「……何で?」

「買った店が、ムルクスの変な店だったのが悪かったんだろうな。まあ、食べていないのなら、それに越したことは──」



 ギュルルルルルルr



「……」

「……は~~~」


 ……これ、美少女が受ける仕打ちですかね……?女神のクソ野郎……。

 俺は今もこの状況を見ているかもしれない女神に悪態をついてから、涙目になりなってトイレに走った。



 ♢



 ※トイレです。できれば想像しないであげてください。レイちゃんが恥ずかしさで死んじゃうので。


「くぅっ……はぁ……はぁ……」

「……もう、収まったか?」

「ああ、もう残ってないだ……待ってまだ伏兵が……」


 ※かれこれ一時間この調子です。


「……実はな、ここに来る時ジャックが……あぁ騎士の一人がな。レイを見たと言って……」

「そ、そのジャック君が何て……ちょっ、少し……耳塞いでぇ……」

「それがだな、『背筋が凍るくらい怖い顔をしたレイさんが、僕の真横を通ったんですが、何か気に障ることをしたのでしょうか……』と、不安そうに聞いてきてだな……」

「……後で話があるって言っといて……」

「余計誤解を生まないか?」


 ……その後、レイは死闘の末、下痢に打ち勝ったという。

 さらにその後、ジャック君の誤解を解き、少し仲良くなったという。

 さらにさらにその後、回復したレイはやっていた組み手に参加し、騎士のみんなを圧倒したという。

 本人曰く、「なんか体が3キロぐらい軽くなった気がする」とのこと。

教えてっ!レイ八先生!


「はい、2回目ですねこのコーナー。今日も『ゲリゲロ二日酔い美少女レイ先生』が……おい、コラ作者。なんだこの台本。ヒロインにつける呼称じゃねえだろ。

カタカナの『ゲ』とかヒロインの呼称に一番使っちゃいけない文字だろ。いつも後書きで俺らに殺されてるからって、この仕返しはないだろ!」


「えー、今日は一つ言いたいことがあってな。教訓というか……『料理の描写が細かい作品は良作が多い』っていうので……。いや、あくまで個人の意見だからな?

特に、戦闘描写以上に気合い入ってるのは面白いの多かった気がするな~。君の○は。でもとんでも作画で描かれてたじゃん?そういうことよ」


「……もう1回言っとくが、あくまで個人の意見だからな!叩かないでよ!?

……あ、そういや作者が4月まで出さないかもとか言ってたけど、あれなんだったんだろうな」

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